4話 入学式と対抗戦
制服が届いてから一週間後、今日は入学式の日となった。アーバスが登校すると門番の人に名前を確認されると教室の場所が書かれた地図を渡された。地図の通りに進むとSクラスの教室が並んでいる場所に到着する。組に関しては1組みたいだ。
ちなみにクラスに関しては実力順であるが、組に関しては特に意味はなく各組は実力は拮抗するように組まれているそうだ。ただ、組やクラスは基本的には卒業まで同じだが年毎に基準に満たない生徒や満たしている生徒については上下クラスへの変動があるとのことだった。
アーバスが1組の扉を開けると来るのが早かったのかまだ数人しかいなかったがそこには見知った顔があった。入学試験で対戦した少女だ。どうやら同じクラスとなったようだ。少女はアーバスの顔を見るとこちらへとやってきた。
「入学試験以来ね。まさか同じ組になるとは思わなかったわ」
「こっちこそSクラスだろうとは思っていたが同じ組だとはな」
「私はアミール・カーン。ポジションは前衛よあなたは?」
「俺はアーバス・ヴェルライトだ。ポジションはどこでも出来る。よろしく」
そういって手を差し出す。他の組だと厄介な敵であったが同じ組なら心強い。
「こちらこそよろしくね」
アミールはそういって握手をする。入学試験の時には気づいていなかったが、彼女は胸ポケットに羽飾りを付けておりこれはこの国の貴族であることを意味していてる。アーバスは任務で貴族と接する機会があったのだが、出会った貴族全てが傲慢な人物ばっかりであったせいで貴族のイメージは最悪で任務で会う度にイメージが下がっていく一方でそのイメージは地の底であったのだが、アミールを見ていると少し貴族に対するイメージが少し上がりそうではある。
「アミール。その方はどなたですか?」
挨拶を終えるとアミールとさっきまで話していた女性が話しかけてきた。髪は茶色でおっとりとした見た目ではあるが、身長はそれなりに高くてスレンダーな印象だった。こちらも胸ポケットに羽飾りがある。
「サーラ。この人が入学試験で戦った相手でアーバスっていうの」
「この人がそうなんですね」
アミールが軽くであるが説明するとサーラは聞いていたのか納得するとアーバスの方へと向き直り
「サーラ・ルミナリエです。ポジションは後衛で支援魔法と治癒魔法が得意ですが、魔法攻撃も少しならできます」
「アーバス・ヴェルライトだ。ポジションはどこでも出来る」
「アミールからの話だと前衛だと思っていましたが、どこでも出来るのですね」
アミールから試合の内容を聞いていたのかどうやらアーバスは前衛だと思っていたらしい。入学試験でアミールと剣術で戦って勝ったのだから前衛だと思って仕方ないか。
挨拶の後、アミール達と情報交換をしていると時間になったのか担任と思われる教諭が入ってきて一緒に講堂へと移動する。講堂ではシエスが長々と入学の挨拶などをするので少し眠たくはなったが、なんとか眠ることなく耐えきることが出来た。偉い人の話ってなんであんなにも退屈なのだろうか?もうちょっと簡潔に話すことは出来ないのかと思ってしまう。その後の新入生代表の挨拶はアミールでどうやら主席とのことだった。アミールは入学試験でアーバスに負けたこともあり一旦は辞退したそうだが学園長であるシエスの後押しもあって主席になったそうだ。
「みなさん入学おめでとうございます。改めて私がこのクラスを担当しますカインです。1年間よろしくおねがいします」
とカイン先生は自己紹介をするとその後にクラス全員の自己紹介が始まった。アーバスも順番が来ると簡潔であるが自己紹介を行う。
「始めに組の代表ですが、主席であるアミールさんにお願いしようと思っていますがよろしいですか?」
主席はクラス毎に存在しており、主席が居る組では主席が組の代表になるのが通例らしい。アミールは一瞬こちらを見たような気もしたが特に反論することなく代表を引き受けた。
「まずは3日後にクラスの対抗戦があります。ここの勝敗によって今学期のクラス間の序列が決まります。代表であるアミールさんを中心に頑張ってくださいね」
クラス対抗戦とは全員で戦う総力戦のことで、組対組で試合をリーグ戦方式で行なわれて順位を競うのである。そこの結果に応じて序列と特典が与えられるみたいだ。ただ、組は入学時は戦力が同じになるように組まれており、1年生の第1学期の対抗戦は主にクラスの連携がメインで少ない日数の中どうやって作戦や個々の連携を取れるのかが勝敗に大きく関わるそうだ。
「サーラどうしよう…」
「私に言われましても」
アミールからの相談にサーラは苦笑いをする。放課後、アミールに呼び出しされたアーバスは学校の会議室にいた。ちなみにこの場所は教員専用であるのだがシエスに会議室を用意してもらうように頼んだらここを貸してもらえたのである。アミールは戦闘こそ得意なものの指揮は苦手みたいだ。
「アーバス何かいい作戦ない?」
アミールがそう聞いてくる。勝敗は簡単で大将を倒すか本陣にあるフラッグを削り切るかの2つでどちらかで大将は倒れたら終わりな性質上クラス代表が務めることが多いとのことだった。
「普通の戦い方だとどうなるんだ?それがわからないと作戦なんて立てられないだろう」
クラス対抗戦なんてやったことがないので何がセオリーなのかわからないからな。
「セオリーだと大将の周りに護衛を数人配置して後は前衛と後衛分かれてのの総力戦ね。1年の1学期はほぼ戦力が均衡しているし日数もないから何か作戦がないと全勝するのは難しいわ」
普通にやっても問題ないのらしいのだが全勝するのは何か作戦がないとやっぱり難しいらしい。ただ、それは向こうも同じでバランスを崩すには主戦力であるクラス代表か同程度の実力者が必要なのだが、それも恐らく同人数だろう。大将を変えてクラス代表が前線に出ることも可能であるが、その場合は大将やフラッグを狙われることが多く過去のクラス代表が前線に出た試合の勝率はそこまで良くないらしい
「素直に総力戦するしかないか。ところで1組の戦力ってわかっているのか?」
前衛後衛に分けるにしてもある程度のチーム分けは必要だ。その為には自身のクラスである1組の戦力の把握は必要不可欠であるのだが…
「?」
アミールは首を傾げる。そっか戦力把握してないのか。完全に前衛型で指揮官とかそういう部分はからっきしらしい。サーラも同じような顔していることから出来ないのだろう。つまり
「指揮官不在かぁ…」
このクラスでの自分の割り当てがわかったような気がする。アーバスは他の組の戦力を既に把握しているが、他の組には代表が指揮官をすることが出来たり、主力級に指揮官が出来そうな人材が居るのだがこのクラスには居なかったらしい。アーバスはてっきりこの2人のどちらかが指揮官をできるを思ってたのだがそうではなくアーバスが指揮官の枠らしい。
「まずはクラスメイトの相性だ。仲が良い悪いを分かる範囲で言ってもらえるか?」
アーバスはため息をつくと、出来るところから確認を行う。今回大事なのは連携だ。3日しかない以上即席のチームになるのは仕方ないが、仲が良い人を優先的にチームに入れれば連携はやり易いだろう。逆もしかりだが…
アミールとサーラは分かる範囲では答えてくれたがやはり半分にも満たなかった。これは明日以降確認が必要だな。
「とりあえず方針は決まったしアリーナへ移動するか」
初戦の作戦と方針はある程度決まったしこれ以上することは何もない。アミールの力も把握しておく必要があるからな。
クラス対抗戦までの間、練習用のアリーナが各クラス毎に与えられるのだが、Sクラスは各組に用意されており作戦や練習が外部に漏れることはほぼない。今日は初日で作戦が決まっていないということもあり1組はアミール達の作戦会議が終わるまでは自主練習ということになっている。
アリーナに着くとそこは今まさに模擬戦中のクラスメイト達がいた。数人はこの場に居ないものの、それでも模擬試合をするには十分な人数が集まっていた。アーバス達は近場の観客席に座ると模擬戦の様子を観戦する。
試合は赤と白のチームに分かれており、現状は拮抗している状態だ。
(前衛のあの二人は優秀そうだな)
現在の戦況だが、まず白チームの2人が突出して抜けており二人が敵陣のド真ん中で戦っているが回復が間に合っているせいか中々落ちず、その間に白チームの前衛まで加わり乱戦になっているようだ。白チームの前衛は後衛に回復を任せて一対一で敵を打ち取る作戦らしい。あの二人は資料では排斥だったはずだが、回復さえ間に合えば前衛でも問題ないようだ。対して赤チームであるが、前衛は乱戦になっているもののダメージを負った味方はしっかりと後退させて回復をさせて前線を維持をしていた。それを後衛で指揮官をしてるのであろう1人が的確に指示を出しておりそれによって赤チームは退場者を出さずに戦線を維持しているようだ。
つまりこの試合は個人の能力対戦術の集団という構図だな。暫く戦況を見守っていたが、戦況はどちらかへと傾くことはなかったが、ここで赤チームが後衛の魔法部隊で敵後衛に魔法を叩き込む。白チームはそれに気付いて障壁を張って防ごうとするが、突然の魔法攻撃に障壁の強度が足りなかったのか満足に防げず直撃し、後衛の半分が戦闘不能になり退場してしまう。魔法攻撃をする為の代償として前衛の回復が満足に出来なかった赤単チームの前衛の数人が退場したが、白チームの後衛が半壊した方がダメージが大きく白チームの回復が追いつかなくなり、そこから崩れてそのまま模擬戦は赤チームが勝利で終了した。
「クッソー負けたか。後衛に直接叩き込むとかマジかよ~」
そう話すのは先程白チームで最前線で戦っていた2人の内の1人であるジャックだ。彼のポジションは斥候だが、地元で狩人をしていたこともあり剣術の腕も良くその両方の実力を評価されてSクラスになったのである。またジャックは先程一緒に前線で戦っていたニールとコンビを組んで狩猟をしており、その相性を利用して個で勝負を仕掛けたのである。
「それくらいせんととこっちの前衛が持たないからなぁ。まさか2人だけで前衛が半壊するとは思わなかったわ」
先程まで赤チームを指揮をしていたのはリンウェルという人物で、リンウェルはジャックとニールの個の高さにびっくりしたようだった。彼女のポジションは後衛で支援魔法と攻撃魔法が得意である。作戦を立てたりするのは苦手なのだが、今さっきの模擬試合のような部隊を率いての指示を出したりといった現場での指揮は非常に得意なのである。
「代表、作戦会議は終わったか?」
「えぇ終わったわよ。とりあえず初戦の作戦を伝えるわね」
アミールは初戦の作戦について説明する。と言っても組対抗戦での基本戦術なのだが。
「そんな作戦で勝てるのかよ。本当に勝つ気があるのか?」
ジャックは疑問は当然なものではあるが3日しかないのだ。下手に変な作戦で行くと中途半端になり逆に失敗してしまうからな。
「そんなに不安ならもう少し模擬戦しようと思うが、大丈夫か?」
アーバスはそういってクラスメイトに確認を取る。この時間なら後数回は模擬戦が出来るだろう。全員参加の意思を確認するとアーバスは十人ほどの名前を読み上げる
「今呼ばれたメンバーが白チームで俺のところに来るように。残りのメンバーは赤チームでリンウェルが中心となって作戦を考えてくれ」
メンバー分けを終えると各チーム指定されたリーダーの元へ集まっていく
「アーバスこれは極端じゃない?」
極端なチーム分けにアミールは困惑しながらアーバスに質問する。アーバスが集めた白チームのメンバーはアミールやサーラといったクラスの主力メンバーとジャックやニールなどの先程の試合で活躍していたメンバーである。
「問題ない。こっちの作戦は至って単純だ。個の強みを活かして相手を確実に倒すだけ。大将は俺が務めるからアミールは前線で戦って来てくれ」
「わかったわ」
前衛はアミールやジャック達で5人、後衛は残りの5人の構成だ。アーバス達後衛の役割はバフと回復で前衛は相手の数を確実に削るのが主な役割だ。対して相手はこの場に居ない3人を除いて27人で人数の差で圧倒的である。ちなみにこのチーム分けは対抗戦で大将とそれを守る予定の5人の護衛と前衛主力で構成する赤チームとそれ以外の白チーム分けだったりする。
「赤チームは準備が出来たらいつでもこれを掛けてくれ。こっちはいつでも大丈夫だ」
数分後、赤チームも準備が出来たとのことで位置に着くと試合開始のブザーが鳴った。