391話 奇襲の成果
「主、第一次攻撃が終了致しました」
「ありがとうキリコ。結果は?」
各前線の戦況を確認しているとキリコが第一次攻撃隊の結果を携えてやって来た。キリコの表情が深刻そうではないので第一次攻撃はある程度成功したのは推測できるけどな。
「爆撃は成功いたしましたが、主要施設への攻撃は迎撃により失敗致しました」
爆撃自体は成功か。どうやら敵は大量に落とされた爆弾全てを迎撃するのは不可能だったようで主要施設を守るので精一杯だったみたいだな。
「キリコ、爆撃機の被害は?」
「航空機への被害はありませんが、反撃として対空砲のようなものが放たれていたのを確認しています。ただ、対空砲は高度2000までが限界のようです」
こちらの被害0か。上空5000メートルからの爆撃に対して迎撃する術がないということか。むしろ高度2000までは対抗できるのでこの時点で魔王軍による奇襲は不可能になったな。
「キリコ、相手の防衛した設備を教えて貰ってもいいか?」
「はい。攻撃を防がれたのは指揮所と転移システムがあると思われるところです。それ以外の場所は防がれた痕跡はなく、爆撃により損害を与えることが出来ました」
防がれたのは重要拠点である指揮所と転移システムか。防がれた場所の攻撃は3箇所で建設中の指揮所と転移システムの場所はそれほど距離が離れていないので空爆を防衛できる人材は2人ないし3人といったところか。
「キリコ、第一次攻撃隊の内訳は?」
「爆撃機80機と護衛戦闘機30です」
キリコからの報告だとエンタープライズ級を5隻召喚したて聞いていたが、空母に対して第一次攻撃の爆撃機の数がそこまで数が多くないな。恐らく様子見だからこの数しか出していないのだろうが、あまりの少なさに手を抜いているのではと一瞬感じてしまう。
「爆撃機80機は少なすぎませんか?」
「拠点自体が小さいですからね。大量に爆撃機を投入したところでそこまで意味がないとの判断です」
ルーファもアーバスと同じ意見だったようでキリコに聞くが、爆撃機の数が少ないのはどうやら拠点の規模が小さいかららしい。それに場所が世界の端のせいで大規模な編隊を組めないのもあるだろう。エンタープライズ級1隻に何機の爆撃機と戦闘機を積んでいるかはわからないが、相当な余力があるとみていいだろう。
「キリコ、多方面に攻撃できる余力はあるか?」
「拠点への攻撃規模にもよると思いますが」
「そうだな。第一次攻撃と同規模の第二次攻撃と第三次攻撃を行うつもりだ」
拠点への攻撃であるが、キリコが十分という数の攻撃だけで数は事足りるだろう。ただ、1部隊だけだと追加攻撃が必要になった際に艦載機が必要になるのでアーバスは2部隊での攻撃を考えていたのだった。
「それでしたら爆撃機300機2部隊で交互による大規模空襲を行いましょう。敵後方陣地へ行えば大損害を与えれるかと思います」
とキリコは説明を始める。やはり敵拠点への空襲は空母1隻のみで十分とのことで残った4隻の内3隻を敵後方陣地への攻撃に、1隻を次元艦隊の護衛空母として割り振ることになった。
「レイラ、ペルロスト。前線の状況を確認したい」
「はい。現在前線中央はバルファーティアとリーゼロッテによって押し返しつつある状況でありますが、両翼は現在も膠着状態が続いており、このままでは中央が孤立する恐れがあります」
「バルファーティア様とリーゼロッテ様のお陰で中央にいた幹部を両端へと移動させましたが効果はいまひとつなようです」
どうやら前線中央は順調に戦線を押し返せているみたいだが、バルファーティアとリーゼロッテが担当していない前線の末端が全くといっていい程動いていなかったのである。このままいけば中央だけが前に出過ぎて孤立して包囲網を敷かれるだろうな。バルファーティアとリーゼロッテであればそのくらいでも無傷で帰ってこれるだろうが、随伴する魔王軍には確実に被害が出るので孤立する前に手を打った方がいいだろう。
「なら両端の後方拠点を叩くのが先か。キリコ、戦線の後方陣地が何処にあるかわかるか?」
「はい。只今」
とキリコは次元艦隊から偵察データを受信すると立体映像を展開する。次元艦隊は偵察機で相手陣地の各地を調査しているのか詳細でリアルタイムのデータが映し出されていた。
(狙いどころはあるか?)
アーバスは映像を見ながら攻撃箇所を考える。前線中央はやはり2人の押し返しが強いのか、無理に押し返すのを諦めて包囲網を敷く作戦へと切り替えているな。そして中央にあったと思われる後衛陣地は既に撤退が始まっており、撤退した後衛陣地は安全圏と思われる両翼の後衛陣地へと移送している真っ最中であった。
(狙いは両翼の後衛陣地か)
アーバスは狙いを定める。この両翼にある後衛陣地は末端の戦線の拠点ともいえる場所であり、ここに武器や食糧などの重要な物資が大量に置かれてあったのであった。
「キリコ、両端の後衛陣地を狙う。部隊を半分にして2箇所へ同時攻撃を行う」
「はい。すぐに発艦準備を始めます」
「それと敵拠点へ第二次攻撃を指示する。それ以降も断続的に敵拠点を攻撃してくれ」
「わかりました」
これで次元艦隊から出せる戦力の割り振りは終わっただろう。後は戦果だが、今から期待しても失敗した時に動揺しそうなので失敗する前提で作戦を用意しておいた方がいいだろう
「アーバス様、バルファーティアとリーゼロッテに孤立状態になりつつあることを教えなくて良いのですか?」
「そこはリーゼロッテが調整してくれるから問題ないな。それにこの攻撃によって戦線を上げれたら問題ない」
なんせリーゼロッテがバルファーティアと一緒にいるのはバルファーティアのストッパーとしての役割で置いているからな。リーゼロッテはバルファーティアの進撃速度をコントロールしており、孤立状態になりそうなギリギリの状態で中央部隊の戦線を維持しているのである。なので、アーバス達が行わないといけないのは戦線の押し上げであり、その為に両翼に爆撃の指示を出したのである。
もし、次元艦隊に他を攻撃する余力が残っていなかった場合はアーバスが代わりに後衛陣地を叩いていただろう。
「キリコ、増援が来る可能性があるからアウトホールと転移システムのところを注視しておいてくれ」
「わかりました」
「レイラは各戦線に敵主力が来ていないか確認をしてくれ。劣勢になれば前線に出てくるかもしれん」
「了解であります」
キリコとレイラには相手の動向の確認をお願いする。なんせこれから戦線を一気にひっくり返すことになるので相手陣地から主力や増援がやって来ても不思議ではないからな。
「ペルロスト、負傷者の状況は?」
「現在ポーションによる回復を進めており、治療が完了した者から順番に戦線へ復帰している状況です」
一時はポーションによる回復をケチっていたペルロストだが、ルーファによる大量のポーションの提供により惜しみなく使えるようになったので負傷者が次々と回復して前線へと戻っていく。
(これで暫くは戦況の見守りかな?)
アーバスは一息つくと現状使える選択肢をほぼ使い切ったことを確認する。ここからは相手の出方と攻撃の結果によって全てが左右されるのでアーバスは作戦失敗時の打開策と相手の戦力分析を中心に結果が出るまで会議室のメンバーと話し合いをするのであった。




