384話 祝勝会
「それではダンジョンアタック優勝と全員のランクアップを祝って乾杯」
「「「乾杯」」」
アミールの掛け声に合わせてパーティーメンバー全員で乾杯する。結果発表を終えてアーバス達ダンジョンアタックに出場したパーティーは大きなホールに移動して晩餐会へということになったのだが、テンションが上がりきったアミールは我慢が出来なかったのかここで祝勝会をすると言い出して乾杯の音頭を取ったのである。
「凄い元気ですね。流石は優勝パーティーです」
「テリーヌ先輩お疲れ様です。どうかされましたか?」
1箇所だけ違う空間が出来ているところにグラスを持ったテリーヌ先輩がやって来のである。テリーヌ先輩は元気そうなアミール達を微笑ましい目で見ており、アミールは何事かとテリーヌ先輩へ聞くのであった。何事なのは晩餐会で勝手に祝勝会をしているこちら側なのだが、それには触れないでおこう。
「皆さん本当にありがとうございました。お陰で2位になることが出来ました」
「そんな謝らないで下さい。私達何もしていませんから」
とテリーヌ先輩はアミール達に深々と頭を下げるが、アミールは不要とばかりに慌てた声をあげる。
「そんなことありません。あの地図が無ければ私達はここまで良い成績を残せなかったでしょう」
というテリーヌ先輩にアミール達は思わずアーバスの方を見る。アーバスが情報料として渡したものというのはお察しの通り今回のダンジョンアタックの地図である。その地図には各階層の詳細なものと共に階段までの最短距離の道筋と各レアモンスターの位置と道のり、そしてモンスターの種類とレアモンスターの予想とダンジョンアタックに必要な情報が全て載っていたのである。
しかも、予想として書かれていた各階層のモンスターの予想は全て完璧に当てており、テリーヌ先輩はその地図を見ながら破竹の勢いで6層目を攻略したのである。アーバスは多めにと6層目までの地図を渡していたのだが、全て攻略するとは思っていなかったな。
「アーバス、そんな詳細な地図を渡していたの?」
「あった方が困らないと思ってな。しかも、ダンジョンに入ってから開けるようにと言っておいたから事前に漏れてはいないはずだ」
これがもし、今日のダンジョンアタックまでに開封されていたら情報が他校にも共有されてしまう恐れがあったが、テリーヌ先輩はきっちりと守ってくれたようで情報は他校へ漏れた様子は一切なかったようだな。
「それにしても排斥って凄いのですね。あれ程の詳細な情報をダンジョンに入ってすぐに掴むことが出来ればさぞかし有利に攻略出来たでしょう」
「そうですね。最短距離で進むことが出来れば1層に掛ける時間も少なくなる上に戦闘回数も減りますからね」
「やはりアーバスくんの存在は大きいですね」
そう言ってテリーヌ先輩はアーバスの方を見る。テリーヌ先輩はアーバスが索敵兼アタッカーと知っているのでこのダンジョンアタックでどれだけ活躍したのか察しがついているのだろう。
「そうでもないですよ。私は少ししか戦闘に参加していません。アタッカーのアミールがいてこそのパーティーだと思っています」
なんせアミールがいなければそもそもダンジョンアタックには参加していなかっただろうからな。戦闘もアミールが倒せないイレギュラーモンスターを中心に少ししか参加していないからな。その大半はアミールのお陰だと思っていいだろう。
「パーティーメンバーはそうは思っていなさそうですが?」
「気の所為です」
パーティーメンバーからは嘘つけと言わんばかりの表情を向けているが、アーバスはそれを見なかったことにして答える。実際アーバスがいなければ1層目のゴブリンシャーマンキングと最下層の白金の聖天使エルペスには勝てなかっただろう。
「それにしても皆さんランクアップもしていたのですね。初日のパーティーメンバー紹介の時に驚きましたよ」
「全員が努力した結果です。これからも全員で高みを目指すつもりです」
「そうなのですね。では、楽しみにしていますね」
とテリーヌ先輩はアーバス達の邪魔をあまりしたくないのか会話もそこそこにパーティーメンバーのところへと戻っていく。
「テリーヌ先輩も元通りになって良かったわね」
「ですね。昨日は心配でしたからね」
「そうだな」
なんせ昨日見た時は死にそうな顔をしていたからな。そこから2位になったことで自信を取り戻したのかいつも通りの様子へと戻っていたからな。
「それにしても前哨戦とはいえ、優勝はやっぱり嬉しいわね」
「そうだな。ただこれから情報が集まってくるから精査しないといけないんだけどな」
ダンジョンアタックは代表戦の最上位戦のポイントに加算はされるである。それが代表戦の前哨戦と言われる所以だしな。入るポイントは少なくないとはいえ、まだまだひっくり返せるくらいの差しかないので気を抜くことも出来ないしな。それに各国の代表戦の決勝はこのダンジョンアタックの終了を境に段々と増えていくので作戦を立てる側のアーバスとしてはこれからが忙しくなってくるところだろう。
「アーバス、作戦会議とかはやらんくてええんか?」
「今のところはな」
なんせ今のところは情報が足りなさ過ぎるからな。そんな状況で作戦会議なんて到底出来ないのでアーバスとしては情報が出揃うまでは何もしないつもりであった。
「アーバス、優勝したというに忙しそうにしてるな」
「ギルディオン本部代表。どうしましたか?」
「各パーティーへの挨拶回りだ。リリファスもいるぞ」
「こんばんは」
と代表戦の話しをしているとギルディオンとリリファスがやって来た。どうやら各パーティーに挨拶回りをしているようだ。二人共こういった催しは嫌いなはずなのによく参加する気になったな。アーバスは知り合いではあるのの、この場で仲良く話す訳にもいかないので余所行きの口調で答える。
「代表戦絡みはギルド本部代表の出席が義務付けられているのでな。それで参加しているだけだ」
「私は興味本位ですかね」
アーバスの思考を読み取ったのかギルディオンとリリファスはそんなことを言う。ギルディオンは強制出席なのは仕方ないとして、リリファスの場合はアーバスの活躍を見たいから来ただけということもあり得るな。
「まさか歴代最高得点での優勝とはな。点数を見た時は驚いたぞ」
「ありがとうございます。頑張った甲斐がありました」
どうやら勇者パーティーであるギルディオンですら驚く点数だったようで、始まったのはいつからかわからないが歴代最高得点を取っていたと思っていなかった。Aランクダンジョンの攻略なんて誰かしてそうなのにな。
「頑張ったか。詳しく聞きたいところだな」
「Aランクダンジョンを攻略しただけですよ」
とアーバスは短く簡潔に答える。シエスには事前にAランクダンジョンを攻略することを伝えていたのだが、ギルディオンには伝わっていないようであった。
「Aランクダンジョンか。なる程な、それならあのおかしな点数も納得だな」
「それくらいのことをしないとあの点数は稼げませんよ」
予定よりも10000ポイント増えたのは予想外であったものの、既に2000ポイントはあったので増えたのは誤差だろうな。Aランクダンジョンを攻略したことに聞き耳を立てていた連中がザワついているが気の所為ということにしておこう。




