38話 属性ゴーレム
「何とか5層目だな」
「そうね。でも順調ね」
時刻は12時を超えたところで、現在は4層目と5層目の間にある広場に到着したところである。今日は昨日よりかは攻略が遅れているのでそれを伝えると地上でお昼と食べずにここで小休止をしてから再開することとなった。
「それにしてもサーラは凄いわ。雷魔法を中級まで習得しているなんて思ってなかったわ」
「そうですね。私もここまで早いとは思ってなかったです」
4層目はサーラとリンウェルで攻略したのだが、サーラのサンダーレインの追尾が上昇して誘導して当てることが出来るようになったのでサンダーレインでゴーレム相手でもそこそこのダメージを与えることが出来ていた。そのおかげでリンウェルとサーラ2人でアミールと同等の速さで倒すことが出来るようになったのでここからはそこまで遅くなるはなくなるだろう
「ところでアーバスは何もしてないんやがこれでいいんか?」
これでいいんか?とはパーティー的な意味と役割的な意味だろう。前者はそもそもパーティーメンバーとして必要なのかという意味であり、後者は何もしてなくていいのか?ということだろう。
「そうだな。基本的には道案内とサポートだからな。必要な時以外は戦闘に参加していないな」
「そうね。道案内だけでも十分パーティーとして役に立ってるわよ」
「危ない時はしっかり対処してくれますからね」
アミールやサーラはアーバスが今のポジションで大丈夫とのことだ。アミールはバーサーカーだから戦闘が出来るに越したことはないだろうしな。サーラは逆に非常時にはしっかりと守ったり攻撃したりするからそれで十分なんだろうな。
「2人共それでいいんやったらそれでいいんやけどな」
実はダンジョンで道案内出来る人間なんて貴重な人材なんだぞ。この凄く広いダンジョンを索敵出来る人間なんて世界に数人だろうからな
「さてと、休憩も終わりにしてボスへ行こうか」
「そうね。今日中に終わらせたいわね」
アーバスが立ち上がるとアミールもそれに続いて立ち上がる。
「まだ、10分程やで早くないか?」
「?」
リンウェルの言葉にアミールが首を傾げる。アミールはモンスターと戦うのが好きだからその聞き方は意味がないぞ。聞くならサーラに聞くべきだったな。
リンウェルはそのまま行こうとするアミールに諦めたのか立ち上がって後をついていく。サーラとアーバスもその後ろをついていって5層目へと足を踏み入れる。そして全員がボスの部屋に入るとそれに反応して中央に光が集まっていく。そういえばボスモンスターの共有を忘れていたが、まぁレベル8だし何とかなるだろう。
「ゴーレムが4体ね」
「しかも属性ゴーレムとか中々面倒なものを持ってきたな」
属性ゴーレムとはその名前の通りでゴーレムそれぞれに属性があり、普通のゴーレムと違って各属性の弱点属性がそれぞれの弱点となる。ちなみにゴーレムの弱点属性である水属性は火属性ゴーレム以外は弱点ではなくなっている。
「赤いのはアミール、青いのはリンウェルが優先的に倒してくれ」
「「わかったわ(で)」」
2人は頷いてゴーレム相手に走っていく。そんな2人を見送ると
「私はどっちのゴーレムを倒したらいいんでしょうか?」
「あれ、倒したいのか?」
サーラがそういうなんて意外だな。てっきり観戦だと思っていたのだが
「たまにはボスの1体くらいは倒したいですね」
「なら、あの茶色のを任せていいか?火が弱点だし」
「わかりました。ヘルファイア」
サーラが火属性最上級のヘルファイアを打つと直撃したゴーレムは爆発し、破片全てを燃え上がらせながら消えていった。
「属性ゴーレムって弱点だと一撃なのですね」
「ヘルファイアなら青色のゴーレム以外は一撃だと思うぞ」
「そうなのですね。もうちょっと強いものだと思っていました」
属性ゴーレムは弱点属性が違うだけでそれ以外は普通のゴーレムと同じステータスなのである。ゴーレム自体がDランクモンスターなのだから最上級魔法を打ち込まれれば当然オーバーキルである。サーラは属性ゴーレムを何だと思っていたのだろうか。
その間に赤のゴーレムを倒したアミールが緑のゴーレムに斬りかかる。緑のゴーレムは弱点が地属性なのでダメージは等倍なのだが、それでもアミールの自力が高く、ゴーレムを一方的に切り刻んでいく。緑のゴーレムは大した抵抗も出来ずにリンウェルが青のゴーレムを倒すのとほぼ同時にHPが無くなり、宝箱を落として消えてしまった。
「あれ?後1体いるはずなのだけど何処にいったの?」
「なんか爆発したようやったけど、それで倒れたん違うか?」
アミールはまだ後1体居ると思っていたのか、ゴーレムを倒すと辺りをキョロキョロとしていた。リンウェルは爆発は確認していたが、それがゴーレムだったと戦闘中は気づいてはいないようだった。
「ごめんなさい。私が1体倒しちゃいました」
「サーラが倒したの?それだったらいいわ」
「あの爆発はサーラやったんかいな。結構ド派手な魔法を使うんやな」
サーラが2人に謝罪するがアミールはそれで納得し、リンウェルはあの魔法がサーラだったことに少し引いているようだった。
「リンウェル。サーラの攻撃魔法は優秀だぞ」
「そうなんやな。知らんかったわ」
サーラは魔力の出力に問題があるだけで、攻撃魔法は最上級魔法を使えるからな。ただ、クラス対抗戦などの対人競技だと攻撃魔法の出力に制限がかかるから最上級魔法は反則で使えないから補助に回ってるだけだけどな。
「さてと、宝箱を開けていいかしら」
「いいぞ。今回も銅色か」
宝箱は銅色であり、格上げの銀色にはなってないが、それでも優秀なものをドロップしてくれるので銅色であっても非常に有り難いな。普通の宝箱だと良いものは稀にしかドロップしてくれないからな。
「アーバス何これ?」
アミールが宝箱を開けて中から取り出したものは装飾品ではなく、1枚のボードだった。これはこれで当たりなのだが、ダンジョンでドロップするんだな。
「アーバスこれってシュミレーションボードやんな?」
「まだ鑑定していないが、多分そうだと思うぞ」
「シュミレーションボード、何それ?」
「アミール、知らないのですか…」
シュミレーションボードとは兵士を率いて戦うシュミレーションゲームで、味方に作戦や行動の指示を出してモンスターを倒していくものである。作戦や指揮力を鍛えることが出来ることから指揮官やその候補生が実践経験の代わりに使用するものである。
確認されているものは初級、中級、上級があるのだが、鑑定の結果その内の中級のシュミレーションボードがドロップしたようだ。アミールはどうやらこのシュミレーションボードは使ったことはないようだな。アミールだとシュミレーションボードを使っても初級すらクリア出来なさそうだしな。
「中級か。指揮官向けでもあるしリンウェルに渡してもいいんじゃないか?」
「私は使うことは無さそうだしその方がいいわね」
アミールは使う気は一切ないようだった。練習しておいたら損はないが、アミールの場合だと逆効果になりそうだしな。というわけでこのシュミレーションボードはリンウェルへ渡ることになった。
「ええんか?こんな高いもん」
「良いもなにもそういう決まりだからね。申し訳ないと思うならいい剣をドロップしなさい。それでチャラにするわ」
アミールがそんなことをいう。確かにリンウェルが良いものをドロップしたらそれで等価交換扱いになるもな。アミールの割には良いことを言うなぁ。
「アーバス、何か失礼なことを考えないかしら」
「何のことだ?」
「変なことを考えてなかったらいいけど」
アミールがいきなりそんなことを聞いてきた。それにしても変な直感だけは働くのな。直感も大切なのだが、もう少し知識を身に着けてくれると助かるのだけど。
「ありがとう助かるわ。いい剣ドロップ出来るよう頑張らんとな」
「期待してるわよ」
リンウェルがいい笑顔で大切そうにシュミレーションボードを抱きしめてお礼をいう。シュミレーションボードって貸し出しは無料なのだが、買おうとしたらとてつもなく高価だからな。その分何回でも使えるし、戦術も勉強できると考えればお得ではあるんだけどな。これだけでもリンウェルがダンジョンに来た意味はあるだろう。
「そろそろ次へ行きましょうか」
「そうだな。リンウェル、残りの魔力はどれくらいだ?」
「まだまだいっぱいあるで。このペースやと最下層まで持つと思うわ」
結構残っているんだな。魔力はダンジョンでは戦闘毎に必要なのだが、人によって魔力量が違うので上手に管理しないと途中で魔力切れを起こして退場になることがあるからな。ちなみに魔力切れで退場になることはないが、その影響でモンスターの攻撃を食らっての退場は良くあることのようだ。
「じゃあモンスターも複数居ることだしここからはリンウェルとアミールも一緒に戦ってみるか」
「わかったわ。これで時間を気にしなくて済むわ」
「そうね。戦闘していない階層は暇だもの」
前衛の連携の為にも今のうちから前衛2人で戦った方がいいからな。1人で1層任せていたのはリンウェルの魔力量が持つのかがわからなかった為であり、問題なさそうなら最初から前衛は2人で攻略する気ではいたのだ。
「リンウェル、もし魔力が切れそうなら行ってくれ。魔力切れは退場する可能性があるからな。」
「了解や。無理のない範囲で頑張るわ」
戦闘前に後衛に居るのと前衛で戦闘中に後衛に下げるのでは難易度が天地の差だからな。イレギュラーモンスターだけは厄介だが、その時は俺も参加するので問題はないか。
「アミール。リンウェルの分はある程度残しておけよ。」
「わ、わかってるわよ。それくらい」
アミールが動揺した声で返ってくる。さては早いもの勝ちとおもってるな。
アーバスは前衛ともう少し軽く打ち合わせしてから次の階層へと進めるのだった。