379話 イノセクトミイラ戦
「アーバス、なんかヤバそうなんだけど気の所為よね?」
「あー、大丈夫だぞ。聖属性で問題なく戦えるからな」
と出現した20層のボスモンスターを見てアミールはそんなことを言うが、アーバスはそのモンスターを見てアミールに少し同情したのちに問題とのお墨付きを与える。
「そ、そうなの。行ってくるわね」
「あぁ。周辺にいる奴はこっちで対処するからアミールはそのボスモンスターに集中してくれ」
「わかったわ」
アミールは龍刀に聖属性を付与するとボスモンスターへ向かって走り出す。アーバスはそれと同時にアーバスは魔法陣を展開すると魔力弾で周囲のモンスターを討伐し始める。
「アーバス、それは鬼ちゃうか?」
「ん?なんでだ」
戦闘開始早々、アミールに任せたことを抗議するかのようにリンウェルがアーバスに話しかける。アーバスとしては周囲のモンスターさえこっちで倒してしまえば勝てると思っているのだけどな。
「イノセクトミイラやで、ゾンビモンスターの中でも絵面が酷いと言われているんやで」
「絵面だけだろ本体はそこまで強くないからむしろ当たりな部類だ」
イノセクトミイラとはゾンビ化した虫型のモンスターで周囲に大量の卵と幼虫を従えてる軍団型のモンスターであり、本体はカナブンのような見た目をしているのだが、全体が黒く腐敗していることから絵面としては確かに悪いな。そして、光属性以外無効のモンスターであるのだが、周囲のモンスターさえ倒してしまえばそこまで強くないモンスターなのでAランク中位の中でも比較的倒しやすいモンスターでもある。
「アーバス、アミールは虫型モンスターは苦手なのは知っているのですよね?」
「そうだが、克服するつもりなんだからこれくらい頑張ってくれないとな」
アミールが虫型モンスターが苦手なことはアーバスは当然のように知っているのだが、虫型モンスターを克服しようとしているのも知っているのでアーバスは関係ないと言わんばかりにアミールに行かせたのである。
「頑張れといっても流石にあれは良くないんやないか?」
「そうでもないだろ。むしろあれ以上のビジュアルのモンスターを相手にすることはないと考えれないか?」
と攻撃を受けて体液を撒き散らかしているイノセクトミイラを相手しているアミールに対して同情するのだが、アーバスはむしろチャンスと言わんばかりにそんなことを言う。それはむしろ逆効果ではないかとリンウェルは思ったが、言っても無駄だろうとアーバスにそれ以上何も言うことは無かった。
「アーバス、範囲攻撃の魔法を使えないのですか?」
「そういえばそうやな。苦手なんか?」
アーバスが魔力弾で相当数の卵やプチミイラモスを相手していることに違和感を持ったサーラがアミールに問いかける。なんせ大多数いるモンスターに対しては魔法による範囲攻撃で対処するのが普通なのであるが、アーバスは敢えて魔力弾で各個撃破をしているのである。
「使えるんだが、こんなところで使ったら確実に巻き込むだろうな」
「巻き込むって‥‥‥そういうことですか」
そう言われてサーラは何故使わないのかを理解する。アーバスは範囲魔法は苦手ではなくむしろ得意な部類であるのだが、そのせいで範囲が非常に広くこんな場所で普通に展開してしまえば上位魔法であるホーリーパルスでさえ、イノセクトミイラを巻き込んでしまうくらいには範囲が広いのである。一応、範囲を絞って撃ち込むことも可能ではあるが、ここくらいの数であればアーバスの魔力弾で捌くことが出来るのでアーバスは魔力弾で対処していたのである。
「それでも追いついているようには見えないんやが?」
「倒してもすぐに新しいのが出てくるからな。面倒だけど地道に倒すしか無いんだよ」
イノセクトミイラの周囲にいるモンスターは倒しても一定時間の経過で新しいのが出現するからな。仮に全体攻撃で全滅させたとしてもすぐにでてくるので全体攻撃したら終わりということはないから気を抜くことは出来ないしな。ちなみにイノセクトミイラは周囲のモンスターの上限数は決まっているのでアーバスは魔力弾で適度に倒しながら新しいモンスターの出現数を調整しているんだけどな。
「新しく出たてきたモンスターは卵からの孵化なのですね」
「そうだな。卵から生まれてプチミイラモスが出てくるんだが、一定時間経過する毎に進化していくから注意は必要だな」
卵から孵化すると幼体であるプチミイラモスが生まれてイノセクトミイラと戦闘している人物目掛けて進んでいくのだが、一定時間経過するとプチミイラモスは蛹となり、そしてその蛹が羽化すると成体であるイノセクトミイラが生まれるのである。
「それってボスが増えるってことですか?」
「そうだな。ダンジョンではどういう扱いになるからは知らないが、羽化させてしまうとボスが2体に増えてしまうな」
なので、周囲のモンスターを対処する側は羽化されないように倒し続ける必要があるのだが、その数は100体もいるのでそれらを羽化されないように管理しながら倒し続けるというのは実はとても面倒な作業なのである。アーバスは周囲のモンスター100体の出現からの時間を正確に把握しており、時間が1番経過しているプチミイラモスから順番に倒して蛹になることすら阻止しているのである。
「確かにボスが増えたらどうなるかは気にはなってしまうな」
「そうだな。だからリンウェル、今からイノセクトミイラをもう1体作るから戦ってくれないか?」
「なんでや。絶対退場するやんか!?」
ボスが増えた時に最初に出てきた1体目を倒すとどうなるのかアーバスは気になっていた為、その増えたイノセクトミイラをリンウェルに任せようとするが断られてしまった。イノセクトミイラくらいならリンウェルでも対処できるんだけどな。
「というかアーバスがやればええやんか。イノセクトミイラくらい倒せるやろ?」
「倒せるが、先にアミールのイノセクトミイラを倒した時にどうなるのかが知りたいんだよ。だからアミールが倒すまでは倒さないぞ」
なんせ2体目のイノセクトミイラはアミールが1体目を倒すまで半分放置する必要があるからな。なのでアーバスが2体目の相手をしても速攻で倒すことが出来ないんだよな。
「それに、200体もいるプチミイラモスはどうするんだ。悪いが俺が戦闘に入ると細かい管理が出来なくなるぞ」
イノセクトミイラが増えるということは周囲に出現するプチミイラモスが更に100体増えるということである。今はアーバスが時間を見ながら管理しているが、近接戦の戦闘に参加してしまうとどうしても管理しきれなくなってしまうからな。なのでプチミイラモス達の管理をサーラとリンウェルに任せないといけなくなるからな。
「それならその話はなしや。流石にウチとサーラやと管理しきれないしな」
「そうですね。アミールが倒すまでのんびり待ちましょうか」
「そうか。こっちはやる気だったんだけどな」
とアーバスはアミールの戦いに目線を向けるとアーバスの思った通り一方的な戦闘になっており、HPが半分を切った現状でもアミールが崩れるという素振りは全くと言っていいほど無かったのである。
(こりゃ次も任せたくなるけど次は上位なんだよなぁ)
アーバスは次のボス戦を任せようかと考えたが、次はAランク上位なのでどうしようかと悩みながら戦闘を見守るのだった。




