37話 リンウェル1人じゃ不安らしい
「どうや。勝ってたで」
「凄いな、リンウェル。不利属性でゴーレムに圧勝とはな」
「そうやろ。そうやろ」
リンウェルのドヤ顔に褒めて返すとリンウェルは嬉しかったのか更に喜んでくれた。褒めると喜ぶんだな。
「本当に強いわね。1回模擬戦してみたいくらいだわ」
「それは勘弁してや。いくら有利属性でもアミールには勝たれへんって」
「そんなのやってみないとわからないわよ」
強そうなリンウェルを見てアミールは模擬戦をしたいようだった。リンウェルの方が有利属性だけど実力でアミールが圧勝だろうな。本人は気付いてないようだが。
「アミール、模擬戦の話はそれくらいにしましょう。リンウェルさん、どうぞ宝箱を開けてください」
「ホンマや。いつの間にドロップしてたんや。ってか宝箱にドロップするんやな」
リンウェルは宝箱に気付いてなかったようで宝箱に気付くと足早に宝箱の場所へと駆け足で歩いていった。
「アーバス。聞きたいんやけどドロップってどうしてるんや」
ドロップの確認か。一応アミールやサーラとは最初に取り決めをしていたが、リンウェルには伝えていなかったんだっけか
「ドロップは基本的には自分の物だが、武器とかで必要なものがあればその都度融通する形だな」
「なる程な。剣やロッドで使えそうなのはアミールやサーラに行く感じだな」
「逆に槍ならリンウェルのところにいくぞ。今持っている槍がその例だ」
「これがドロップって強すぎるやろ。低レベルダンジョンでこの性能は流石にレアすぎるで」
そりゃ木箱じゃなくて銅色からだからな。どの辺りで落ちるかはわからんが性能は同レベルのダンジョンよりも圧倒的に上だからな
「意外と出るわよね?」
「そうだな。思ったよりかは出てるな」
「最高級品もドロップしたくらいですからね」
「そんな冗談はやめときや。開けるで」
リンウェルはそんな話を冗談と思ったらしい。事実なんだけどなぁ。出てきたのは装飾品である指輪だった。指輪のドロップ率だけやけに高いな、ブレスレットやネックレスは殆ど出ないのにな。
「装飾品や。倍率までは流石にわからんが」
「アーバスあれはどうなの?」
どう?とはスキルのことだろう。まだ、鑑定してないから解るわけないのだけどな。アミールは当然と思ってるが、普通の探索者や冒険者は鑑定のスキルは持ってないからな。
「アーバス、もしかして鑑定スキル持ってるんか?」
「あぁ。ある程度までなら鑑定できるぞ」
本当は全部鑑定出来るけどな。探索者や冒険者で鑑定スキル持ちだと大体レベル2辺りなので一応そのつもりで鑑定するようにしている。
「じゃあこれ見てくれへんか」
「あぁ。わかった」
アーバスは指輪を受けると鑑定をかける。そして表示されたスキルは移動速度+10%だった。
「移動速度+10%、上級品だな。おめでとう」
「凄いわね。大当たりじゃない」
「ありがとうなアミール」
指輪をリンウェルに返すとリンウェルはそのまま指に着けて装備する。前衛は移動速度はあった方が有利だしな。移動速度はダンジョンでの移動でも便利なのだが、戦闘時の移動速度も反映されるので前衛は持ってた方が有利とまで言われる程の装飾品だったりする。一応重複もするので移動速度が100%を超えたりしたりして装備することも可能だったりする。
「お楽しみのところ悪いが、前から2体来てるぞ」
「「!!!」」
その1言にアミールとリンウェルは臨戦態勢をとるが、アミールはこの階層はリンウェルがメインで戦うことを思い出して戦闘姿勢を解除する。
そして、そこまで間を置かずに新たにゴーレム2体が現れた。さっき倒したゴーレムと一緒だな。リンウェルはゴーレムとの戦闘を開始する。
「アーバス、他は大丈夫なの?」
「大丈夫だぞ。他にこっちに来ているモンスターは居ないしな」
索敵魔法で確認していはいるが、今来た2体以外はこちらへ来ようとするモンスターは居ないみたいだった。その2体もここからすぐ近くのところにいたので異変を察知してやってきただけみたいだけどな。
「えー、つまらないのー」
「お前なぁ」
そんな簡単にモンスターとエンカウントしてたら階段に辿り着くまでにどれだけの回数の戦闘になるんだよ。今は簡単に倒せてるから問題ないが、これが高レベルで強敵まみれだと1体倒す前に次から次へとモンスターが来て全滅するからな。
「まぁまぁ、暫くは交代で戦えば良いじゃないですか」
「むー。それはそうだけどさー」
「どうせその内2人共戦う必要あるんだから今は我慢しとけ」
「はーい」
このパーティーだとノーマルの中レベルくらいで前衛1人じゃ苦しくなるだろう。それまでは我慢してほしいところだ。
一方のリンウェルはというと相手の攻撃を捌きながらちまちまとダメージを与えてるようだった。状況は劣勢のように見えがちだが、実際はダメージを貰わずに相手にはダメージを与えれているのでリンウェルの方が優勢だな。移動速度10%が影響しているのはわからないが、苦しい体制になって攻撃を捌くところまでは行ってないのでまだ余裕はあるだろうしな。
「1体減ったわね」
「そうだな」
粘ること十数分、ついに削っていた片方のゴーレムが光になって消えていったのだ。これで1対1になったのでリンウェルは一転して攻撃に転じてゴーレムを削ってていく。ゴーレムは攻撃を避けようとするが、俊敏ではないゴーレムは全てを躱すことは出来ずにダメージが蓄積されていく。そしてゴーレムのHPが無くなるとゴーレムは光へと還っていった。
「問題なさそうね」
「そうだな。この階層は加勢は必要なさそうだな」
ゴーレムの位置を確認する限り1回にエンカウントするゴーレムは2体のようだった。なので時間はかかるが、ゴーレムを倒せるのなら問題なく任せそうだ。ただ、魔力の問題もあるのでそこは本人と相談しながらだな。
「リンウェル。魔力は大丈夫そうか?」
「大丈夫や。この階層くらいなら問題ないで」
「よし、なら任せた」
リンウェルの魔力面が心配だったが、それも問題ないらしい。アミールよりかは時間はかかるが、経験を積ませることも考えてリンウェルに任せることにした。
「なぁ、ウチってひょっとして時間掛けすぎか」
「そんなことはないぞ。アミールが強すぎるだけだ」
現在階層が変わって3層目、前衛がリンウェルからアミールに変わったところなのだが、戦えるのが嬉しいのか普段よりもハイペースでアミールはゴーレムを倒して進んでいく。
これにはリンウェルの2層目の攻略時間が掛かっていたこともあり、遅れを取り戻す意味でもあったのだが、その姿を見て自分が時間を掛けすぎて攻略ペースを落としたのだと思ったらしい。そりゃ不利属性で相手すると時間は掛かるだろう。ゴーレム系は風属性の上位属性である雷属性でもその通りにくさから天敵のモンスターの1つに数えられるくらいだ。
「でも、ウチのせいで攻略が遅くなるのはなぁ」
「なら4層目はサーラも加えて戦おうか」
「私ですか?」
「その方が魔法の練習が出来るから丁度いいだろ」
このままだと出番が無さそうだしな。せっかく雷魔法を練習しているのに戦えないもの良くないしな
「そうですね。では、そうさせて貰いますね」
「サーラが居れば心強いな。助かるわ」
「いえいえ。私も新しい魔法を練習している身ですから」
他の属性ならサーラだったらアミール並に速く終わらせてしまいそうだが、雷属性なら程よいダメージソースになるだろう。
「サーラ更に追加の属性か?で、今のところどのくらいなんや?」
「今は中級魔法が問題なく扱えるレベルですね。上級魔法はまだもう少しかかりそうです」
「中級魔法って速すぎやないか?学園に入る前から練習してたんか?」
「いえいえ。まだ2日目ですよ」
「どうなってるんや…」
普通はそういう反応になるよな。1日で中級魔法を覚えるとか得意属性でもそうはいかないからな。まさか武器に付属している習熟度アップがここまで影響しているとは誰も思わないだろう。
「この剣のお陰ですかね」
「これって雷刀って奴やんな」
「そうですね。アーバスが貸してくれているんです」
リンウェルも雷刀って初めて見るんだな。そもそもエクストリームでドロップしたものだから本来の雷刀とはだいぶ違うがな。
「これって本当に雷刀なんか?家にあった奴と全然違うんやが」
どうやら家に雷刀があるらしい。そりゃ貴族だから持っていても不思議ではないか。形が違うのはエクストリームでのドロップなのでそりゃ違うだろう。生産でもここまでの雷刀は作れないはずだからな。それと、もしかしたらリンウェルは使ってる魔法は雷属性だが、本当は違う属性が適正の可能性もあるな。
「そりゃ特注だからな。ドロップ品と違って色々と見た目とかを変えれるんだよ」
本当はドロップしたのそのままなんだがな。鍛冶で見た目や性能を変えれるのは事実なんだけどな。
「そんなこと出来るんやな。ただ、そうすると結構な素材を使うんと違うか」
リンウェルが痛いところを突っ込んでくる。生産でこの性能を出そうとしたらSランクモンスター何体分だろう?考えたくもない
「かなりの出費だったがそれで雷属性を習得出来るなら安いもんだろ?」
「それはそうやけど…アーバスって思い切ったことするんやな」
どうやら誤魔化しは完璧なようだ。これでこの武器は鑑定されない限りは生産で作ったことになったはずだ。パーティーに鑑定持ちが居ないのも救いだな
「アーバス。こっちは終わったわよ」
「相変わらず早いな」
どうやらアミールがゴーレムを倒しきったらしい。もうすぐ次の階層への階段に着くから雑談もそろそろ終わりだな。少し進むと次の階層への階段が見えてきて、次の階層へと向かうのだった。