35話 報告
(何があった?)
アーバスはダンジョンの入口に戻されたことを認識するとポケットに入っていた魔道具の時間を確認する。魔道具の残り時間は3分となっており、制限時間で地上へと戻ってきたのではないことを理解する。
(障壁が割られて退場した?そんなことあるわけ…)
アーバスは障壁を破壊してくるモンスターなんている訳がないと思ったが、ダンジョンに入った瞬間にいきなり攻撃してくるモンスターがいた事を思い出す。
(スライムキングか)
そう、初日にノーマルで出会ったスライムキングだ。あいつなら亜音速で攻撃してくるし、何より変異種のスライムキングならこちらが認識する前に障壁を破壊されて退場もあり得るだろう。
(油断した。イレギュラーモンスターは黄金のスライムだと思ってた)
アーバスはエクストリーム4層目のこともあって完全に油断していたのだ。スライムやウルフを始めとしたFやEランクのモンスターの変異種は可能性としてあり得たのでそこくらいは不意打ちでも耐えれるような障壁を展開していたが、スライムキングクラスを防げるくらいの障壁は展開しいなかったのである。しかも黄金のスライムが殆ど遭遇しないことから勝手にイレギュラーモンスターだとアーバスは思っていたのだった。
(時間ギリギリのタイミングで助かったか?)
これがダンジョンに入ってすぐなら残り時間的にも非常に痛かったが、残り数分での退場で、しかも様子見だったのでそこは運が良かったと言えるのかもしれない。それでも理不尽だったのは事実ではあるが‥
(どう対処しろって言うんだよ)
とりあえずは障壁を強化して対策するしかない。もし、吐き出すスライムに障壁破壊のスキルが付いていたりでもしたら最悪なのだが、そこをどう対策するのかを考えるは明日までの宿題か。
(とりあえずは報告だな。時間も遅いしルーファから先に報告するか)
リリファスは基本的には不眠だからいつ連絡しても問題ないからな。その点、ルーファは睡眠は取っているそうなので寝てしまう前に報告する必要があるからな。
アーバスは帰りながらルーファに連絡すると、ルーファももう少しで仕事が終わるそうなのでそれから拠点へ来るとのことだ。
「アーバス様。お待たせしました」
「ルーファ仕事お疲れ様。椅子へ掛けてくれ」
アーバスが拠点に戻ってから5分程でルーファがやってきた。アーバスはルーファを椅子に掛けされるとアーバスもルーファの前に座って話を始める。
「まずだが、これを見てほしい」
「これはこの前の指輪ですか?」
見た目は確かに同じだな。ルーファは鑑定が出来るアイテムを出すと鑑定を始める。するとルーファは驚愕した表情で
「これは鑑定スキル習得の指輪ですか。そんなものがあったなんて…」
ルーファの驚愕は最もだ。鑑定は後から習得出来ないスキルと言われている内の一つだからな。
「エクストリーム産のドロップ品だ。それを始めここには昨日と今日集めたエクストリーム産のドロップ品がある」
「これ全部ですか。鑑定してもいいですか?」
「いいぞ。偽物かどうかも含めて確認してもらって構わない」
「アーバス様のことですから偽物とは思いませんが…」
ルーファは1つ1つ装飾品を鑑定していく。どれもこれもスキルの倍率の高さに驚愕するルーファだが、全部鑑定し終えるとルーファは聞いてくる。
「これをどうするおつもりですか?」
「使えるところはトゥールや商会で使ってくれて構わない。使えないものはオークション等で処理してくれ、くれぐれも名前は出さないようにな」
「そういうことですか。わかりました」
ルーファは困惑しながらも納得してくれた。処理には時間がかかるとは思うが何とかしてくれるだろう。装飾品のことも大事だが、それよりも1番重要な本題へと移る。
「ルーファ、レア度+1って知ってるか」
「いえ、知りませんね。何ですかそれは?」
ルーファも知らないか、ということは商会では扱ってない代物だな。それか未知のスキルで買い取り拒否をしたかのどっちかだな。
「ドロップ率が下がる代わりにレアなドロップがしやすくなる装備だ」
「そんなものがあるのですね。アーバス様はそれをお求めで?」
ルーファがそんなのことを聞いてくる。欲しいか欲しくないかで言えば欲しいが、レア度+2の装飾品は恐らく存在しないだろう。
「いや。そうではなくてだな」
アーバスはスキルの内容について詳しく話していく。世間一般でいうレアなスキルが出やすくなること、1つ上のレベルのアイテムが落ちる可能性があること、それによって既存の最高級品の価格が暴落する可能性があり、商会が大損するかもしれないとのことを伝える。
「それは確かに怖いですね」
ルーファはそう言うと下を向いて少し黙り込む。どうやら何か考えているようだった。1分程考えたのちルーファは顔を上げると
「わかりました。明日から最高級品の買い取り価格を落として対処します」
「いいのか?そんなことをして」
これはレア度+1のアイテムが使わているのが前提の話だ。もし、ドロップしてなかったら最高級品は買い取りで入って来ないに等しくなる。
「いいですよ。こちらで十分利益になりますし、ハズレスキルでも最高級品になると無駄に買い取り金額が高い上に不良在庫になりやすいのですよ」
どうやらエクストリームの装飾品の売却で十分な利益になるので問題ないらしい。それにゴミスキルの買い取りも下げれるので一石二鳥なみたいだな。
「そうか、なら任せる」
「ありがとうございます」
これにてエクストリームのドロップの話が終わる。時間はだいぶ遅いが、ルーファは商会の仕事がまだ残っているらしく商会本部へと戻っていった。アーバスはそれを見送ると次はリリファスへの報告の為に通信を立ち上げる。
「久しぶりですね、ジョーカー。貴方から通信とは珍しいじゃないですか」
「急ぎで報告する要件がありまして通信をした次第です」
「急用ですか、聞きましょう」
そこからは今日ダンジョンで試した黄金のスライムについての報告を行う。形や特徴、弱点などをリリファスに伝える。リリファスは全てを聞いた後
「要件はわかりました。それはどこで発見されたのですか?」
「学園のダンジョンにあるエクストリームのレベル1です」
「エクストリーム?それはどういった場所なのですか?」
アーバスはそう言われて思い出す。そうか、エクストリームはリリファスまで報告が行っていないのか。
「エクストリームはハードの1つ上の難易度で、モンスターは今のところ全て変異種しか出現しておらません」
「ほう。ハードに上があったとは、私も知らないことがあるとは思いませんでしたね」
リリファスはエクストリームについてそう納得する。ハードに上があるなんて信じてくれないと思ったが、素直に信じてくれたらしい。
「ただ、確かめる必要もありますね。確認の為の人材を送りますので明日はその人と攻略をしてください」
「わかりましたが、相手はシエスですので外部からの人材は厳しいと思いますよ」
シエスは外部からの人物の受け入れには非常に厳しく、それこそ見知った人間でも学園の外で待たせるといったことが多々あるそうだ。しかもダンジョンへの入ダン許可は特に厳しいそうで、学園でも下のクラスでは最上級生でも腕前が足りてないければ入ることができず、外部に至っては一切入ることができないそうだ。
「セーティス王国の魔法学園ならメルファス所属の生徒がいるので大丈夫ですよ。それにその子ならエクストリームに連れて行っても問題ないと思いますからね」
「そういうこと事情ならわかりました。受け入れましょう」
「生徒については明日本人から聞いてください。シエスへの説明はこちらからしておきます」
「わかりました。お願いします」
対象の生徒が誰かは知らないが、今は考えないでおこう。そんなことを考えているとリリファスから思いもよらない言葉が出てくる。
「そういえば氷結と女神と一緒に行動されているそうですね。どうですか彼女達は?」
「どうしてそれを?」
「それは内緒ですよ」
まさかリリファスが知ってるとはな。どこから情報が漏れているんだよ。そのメルファス所属の生徒からか?アーバスは少し考えてから
「そうですね。実力自体はノーマルの後半でも十分通用するとは思いますが、エクストリームは厳しいですね。ただ、今後の成長は期待できますね」
そのうちSランクになるかもしれないくらいの実力があるしな。今はまだ無理でも実力があればハードやエクストリームまでいける可能性だってある。
「そうですか。それは期待出来ますね。メルファス所属になるかはわからないにしても冒険者として更に良い結果を残せそうですね」
「そうですね。そのうち一緒にエクストリームに潜れないかとは思ってますね」
「うふふ。それは楽しみですね。それでは期待していますよジョーカー」
リリファスはそういうと通信を切ってしまった。それにしても学園内にメルファス所属の生徒か。考えたことなかったな。しかも、言い方的に複数人居ても不思議じゃなさそうだな。エクストリームへ潜れることを考えたら、1年だとSクラスでしかもエースクラスだろう。
(ってことは上位か代表クラスってことか)
クロロトはあの性格的に違うだろうが、それ意外なら誰でも十分にあり得るな。何ならアミールやサーラでも不思議じゃないくらいだ。
(ただ、アミールとサーラはBランク冒険者だからそれはないか)
メルファス所属だと基本的に冒険者としては潜入以外で活動することはないので冒険者としてメインで活動している2人は自然と除外されるな。となると
(他のクラスか。ただ、エクストリームに潜れるとなると実力は確実に隠してそうだな。)
もし、メルファス所属で全力なら組対抗戦でアーバスが苦戦していたであろう。それがないというのとは上級生もしくはそいつが手を抜いていたってことになるな。
(いずれにせよ明日わかることか…)
アーバスは誰なのかを考えながら明日へと備えるのであった。