34話 エクストリーム3層
(さて、ここまで順調だが大丈夫か?)
現在は3層目の距離にして真ん中辺りなのだが、ここまでの道中は変異種のスライムだけということでそこまで苦労することなく来ていたのだが、あまりにも順調すぎてアーバスは逆に不安になっていたのである。というのも、風索敵はあくまでもダンジョン内の構造を把握するだけであってモンスター強さが一切わからないのである。勿論近くまで来ると索敵魔法でどのモンスターかわかるのだが、それまでは通常のモンスターかイレギュラーモンスターかが全くわからないのである。
(強敵なら索敵外から攻撃されるかもしれないからな)
アミール達とダンジョンに入った時にエンカウントしたスライムキングみたいなイレギュラーモンスターならアーバスの索敵外からの平気で攻撃して来るだろうしな。その為に、アーバスは昨日から強固な障壁を展開しているのだが、今のところそれが生かされた展開は皆無であった。そして、次にエンカウントしたモンスターは目的であった黄金のスライムだった。
(出たか)
エンカウントするかどうかは運なところはあったが、エンカウントしたのは有り難い。アーバスは魔力弾を打ち込むとスライムは黄金に輝き爆発する。その爆発で一緒にエンカウントしていた普通の変異種スライムも誘爆し、変異種のスライムはすぐにHPが0になり、光に還ったが黄金のスライムのHPはやっぱりと言っていいが減ることはなかった。
(まずはと)
アーバスは魔力弾の魔法陣を展開する。普通の強度だと破壊される為、昨日のよりも倍程度の強度があるものを展開する。魔法陣は爆発に晒されてグラグラ揺れているものの魔力弾を出すまでは持ちこたえて魔力弾を発射する。
(魔力不足か)
魔力弾は黄金のスライム向けて飛んでいったが、爆風を浴びながらということもあってかだんだんと小さくなっていき、スライムに到達する前に霧散してしまった。そして、魔法陣の方も1発発射するのが精一杯だったのか残りを発射する前に魔法陣が壊れてしまった。
(今の強度なら1発撃つまでは問題ないが、問題は魔力弾の強度か)
魔力弾は他の魔法とは少し違うことがあり、その1つに魔法陣の形成というものがある。普通の魔法は魔力を込めるとそのまま込めた魔力分の威力を持つ魔法が自動的に発動される。たが、魔力弾は魔法陣から形成しているので、魔法陣の強度や威力、さらには属性や発射弾数と同じ魔法でありながら色々なことが出来るのがメリットである。ただ、問題としては全て1から形成する必要があるので慣れが必要なのと威力や属性も全て魔法陣の方で調整が必要なところである。
(威力は今の感じ的には3倍あったら足りるかな?属性は必要ないとしてもちょっと面倒だな)
アーバスはそう考えながら魔法陣を構成していく、全力の魔力弾を使えば楽だがそれではサンプルにはならないし、魔力消費も凄いことになるので倒せるギリギリのラインを見極めていく。アーバスは魔法陣を展開するとそこから1発の魔力弾を発射する。魔力弾は1発のみに変更しており、魔力弾を発射すると魔法陣は破壊される前に消滅する。
魔力弾は勢いを衰えさせながらも進んでいき黄金のスライムに直撃する。
(よし、狙い通り)
直撃した黄金のスライムのHPは僅かに減っただけだったがアーバスにとっては十分な成果であった。アーバスはHPが減ったことを確認すると、順番に魔法陣を出しては魔力弾を打ち込みスライムへのダメージ与えてHPの減り具合を確認していく。その数は全部で12発で、これは火、水、風、地、光、闇の基本的な属性6つとその上位属性の合計である。他にも属性はあるのだが、それは例外なので試さずにしておく。
(1番減退したのは闇だけど当たると闇属性の方が上か…)
アーバスは与えたダメージを見ながら弱点属性を確認していく。無属性はどの属性にも属さないのでブレは一切なく、基本的な属性はそれぞれ相性があるので先に無属性で攻撃してから基本属性を当てた形だな。実際、弱点属性以外は耐性持ちでダメージが入らないとかもあるしな。それでも無属性は属性の耐性を無視してダメージを与えれるのが良いところかな。
このダメージから見るに弱点は闇で間違いないだろうな。ただ、その場合は光属性になるので光属性の爆発に晒されて飛んでいるせいか、魔力弾の威力減少も凄まじいものだった。なので、結果的に他の等倍属性や無属性とダメージ量は同じだった。
(火属性と光属性は逆に耐性持ちと)
本来スライム系統で共通の弱点であるはずの火属性が今回は耐性持ちだった。もし仮に討伐依頼を出すなら火属性の魔法師は非推奨で闇属性の魔法師が優先ように依頼を出すことになるだろう。そもそもこの爆発を耐えれるくらいの障壁を展開できる魔法師を派遣することが前提だけどな。サーラなら耐えれるとは思うが、障壁を維持するのが精一杯だろうな。
(魔法の耐性は確認したところで、次は斬撃耐性を確認しますか)
アーバスは剣を取り出すとそのまま剣をひと振りする。すると剣先から斬撃が放たれる。アーバスはそれを転移でスライムの近くへと飛ばすとその斬撃はスライムに直撃する。
(斬撃耐性あるのかよ)
斬撃耐性は流石にないだろうと思って斬ってみたのだが、上位スライムによくある斬撃耐性がついていた。そんな耐性つけても剣士はそもそも近づけないと思ってしまう。本当ならハンマーで攻撃したいのだが、現状のアーバスができる障壁の技術では武器を当てることは出来ないし、ハンマーの打撃は転移でも飛ばせないから検証は不可能だな。
(とりあえず検証はこれでお終いかな)
サンプルは取れたしこれでリリファスに報告しても怒られないだろう。本当はモンスター自体を持って帰れたらいいのだが、ダンジョンではモンスターは倒すと自動ドロップしてモンスターは消えてしまうので持って帰れないのがなぁ。仮に捕獲したとしてもダンジョンから出れば消滅してしまうしな
(とりあえず倒しますか)
アーバスは魔法陣で黄金のスライムを撃ち抜く。属性は闇を付与しており、ダメージも残りのHPを削りきれるくらいの威力で攻撃したのでそのまま黄金のスライムは銀色の宝箱となって消えていった。
(銀色?レア度+1はあるけどそれは銅色の宝箱がドロップするだけでは?)
何故、宝箱の色が変わったのかはわからないのだが、それでも銀色になったので恐らく期待値は上がってると思っていいだろう。
(条件はわからんが、昨日は雷刀がドロップしたからな。もしかしたら昨日のあれも実際は銅色だったのかなぁ)
昨日のドロップの色は普通の木箱だったのだが、実は見た目は木箱だっただけで、裏では銅色級のものがドロップしたのかもしれないな。もしそうだったら有り難い話なのだが。
(開けるか、銀色なんて何が入ってるのだろう)
アーバスは宝箱を開けると、そこには指輪が入っていた。指輪は相変わらずダイヤモンドのようなカットであったが、色が透き通った青色となっていたのだ。アーバスはすぐに鑑定をかけるとそこにはこう表示されていた。
(魔力増幅+120%)
アーバスは言葉を失う。どれだけやばいかと言うと、これを装備するだけで魔力が込めた倍以上に跳ね上がるのである。アーバスが生産で持っているものでも最高は100%なのでそれを上回る代物である。その100%もSSクラスのモンスターを倒した時に作れたもので二度と同じ物は作れないと思っていたくらいにはレア物だったんだけどな。
(こんなにあっさりと抜かれるとはね)
自分で言うのも何だが、この装備を作る為に倒したモンスター、ハイレジェンドエンシェントドラゴンは相当苦戦したんだけどなぁ。ダンジョン限定のレア度+1の装備があるとはいえ、金色のスライムの方が倒すのははるかに楽だっただけになんとも言えない表情になるな。それに
(こんな倍率のものが市場に出回ったらどうなるんだよ)
想像であるのだが、これが銀色の宝箱から出たものなので、もしハードでレア度+3の装備をしていた場合には出る可能性があるのかもしれないな。というよりレア度+1でもハードクラスのドロップあったのでハードならエクストリーム級の装飾品がドロップしても不思議ではない。だが、その報告がないということは
(今のトップ層はレア度+系統の装備は持ってないか)
そう考えるのが自然だろう。持ってはいるが、ハード産のドロップが少なくて市場まで出回ってない可能性も捨てれないが、それでもトップ層がハードに行きだしたのは数年前からだ。溢れ出していても不思議ではないだろう。
(探索が終わったらリリファスに報告するか)
装飾品や装備の異常値も込で報告する必要があるな。トゥールへの報告は週末に会議があるのでそこで報告すれば問題ないだろう。
(ただ、ルーファへの報告はすぐにする必要があるな。ルーファに大損させる訳にはいかないし)
ルーファ商会はトゥールの最大の資金源である。そこが大損してしまえばトゥールの活動を縮小させる必要が出てくるからな。
(進むか。留まるのは危険だしな)
今のところスライムだけだが、他のモンスターもいるかもしれないからな。変異種に囲まれるのは危険しかないからな。アーバスは更に進んでいくが、変異種スライム以外のモンスターを見ることはなかった。
(3層目もスライムだけか?流石にそれはないだろ)
変異種スライムだけでも脅威ではあるが、流石にそれだけでエクストリームダンジョンが構成されているとは思わなかった。アーバスは警戒しながらも進んでいくが、結局3層目もスライムしか出ないまま階段まで辿り着いてしまった。
(結局はスライムのみか。他からしたら脅威だが、それでもなぁ)
確かにエクストリームに上がりたてならそれも脅威だろうが、それも3層もやってしまうと完全に慣れてしまうだろう。
(時間も少しだけあから、4層目を少しだけ見たら時間になりそうだな)
魔道具が示している残り時間は5分で、4層で1回戦闘出来るくらいの時間だった。アーバスは階段を下におりて4層目へと辿り着く。そして階層の情報を確認するべく、風索敵を発動しようとしたその時であった。
「は?」
障壁が割られる音と同時にアーバスはダンジョンの入口へと戻されていたのであった。