339話 練習初日、来る人は早く
「アーバス、久しぶりだの」
水曜日、アーバスが予定時間よりも早くに第2アリーナへと入ると先に来ていたクロロトが声を掛けていた。準備や設定を理解する為に集合時間の1時間半前に来たはずなのにもう居るとはな。
「クロロト久しぶりだな。調子の方はどうだ?」
「順調だ。レベル2の攻略も終わったところだ」
クロロトは今までの自分勝手な行動を改めてからはパーティーメンバーとの連携が上手くいっているようでレベル2の攻略か終わったところらしい。レベル1の攻略速度と比べて桁違いな速度で攻略しているし、このペースだと早々に一年のダンジョン上位組に追いつくだろう。
「改めてだが、こんな機会を頂いて感謝する」
「そんなことはない。団体戦で時間を取られるからその礼だ」
クロロトからそんなことを言われるが、アーバスからしたら当然のことだと思ってやっているのだけどな。
「それがそうでもないのだ。普通は代表に選ばれたら参加するのは義務だからの。そこに礼などは必要ないからな」
リンウェルからも聞いていた話だが、普通は代表戦に選ばれるというのは光栄な話であって選ばれた以上そこに参加するというのは義務なのである。そのお礼というのは代表戦本番での優勝であり、その為に死力を尽くすのが選ばれたクラスの責務らしい。
「クロロト達は個人戦の練習はどうなんだ?」
「一度全員で集まって模擬戦をしたのだが、少し物足りなくてな。次からは上級生と模擬戦をしようかと考えているところだ」
どうやら既に一度個人戦の代表同士で集まって練習したようであるのだが、やはり一年生内というのもあってか全員満足のいく模擬戦にはならなかったようだ。決勝戦ではそこそこ良い戦いをしていた面々だったが、やはりアーバス達みたいに格上と試合をして経験を積みたいみたいだな。
「なら後でテリーヌ先輩に聞いてみようか?サポートする準備があるって言っていたしな」
1組は例年とは違う方針で育成しているせいで普段と違って上級生を使う機会というのは少ないそうだからな。なので余った時間をクロロト達1年生の個人戦の練習時間に当てれないかと思ったのである。
「そうなのか!?失礼だがお願いして頂いてもいいか?」
「わかった。今日の模擬戦の時にでも話しておく」
夏休みに入ってしまったこのタイミングでの相談に快諾してくれるどうかはわからないが、テリーヌ先輩にとりあえず相談しておいて損はないだろう。アーバス達には必要なくてもクロロト達には必要だったかもしれないので夏休みまでに聞いておいた方が良かったのは反省するところだな。
「でも、いいのか?パーティー戦の練習が全くないと噂で聞いたぞ」
「そこはダンジョンでこと足りているからな」
アーバスは夏休み中にパーティー戦の模擬戦は一切として入れていないのだが、その前代未聞の話は学年中に伝わり噂として持ち切りになっているらしい。
「それに模擬戦をするにしても何処とするんだよ」
「それもそうだな。アーバスのパーティーに対抗できるパーティーなんて最上級生くらいか」
アーバスがリンウェルにもした質問をクロロトにするとクロロトは模擬戦をしない理由を納得する。ジャックやニールに話していることもあってアーバス達のパーティーがレベル20を攻略済ということは周知の事実となっているのである。そんなパーティーと同レベルと言えるパーティーはテリーヌ先輩のパーティーくらいだからな。むしろ4年生の最上位と一緒の実力だからこそ模擬戦の必要がないという発言にクロロトは納得してしまう。
「そういうことでパーティー戦は独自に仕上げるから気にするな。むしろ1年生の総合優勝はクロロト達に掛かっているから頑張ってくれ」
「あれ?アーバスとクロロトじゃない。もう来ていたの」
とそんな話しをしているとアミールとサーラがやってきた。まだ1時間以上あるのだが早すぎではないか?
「楽しみ過ぎて寝れなったみたいなんですよ」
とサーラがそんなことを言う。どうやらアミールは今日の練習が待ちきれなかったようで早めに起きたみたいだな。そういえば昨日のダンジョン攻略の時も練習の話しを出すくらいには楽しみにしていたな。ということはサーラは普段の時間よりも早くに起こされたのか。可哀想に
「ちょっと。私が子供だって言いたいの?」
「その通りだろ。疲れは何処いったんだよ」
「楽しみにしてくれるのはありがたいが、他人に迷惑をかけるのは良くないと思うぞ」
と子供扱いに怒るアミールにアーバスとクロロトはそれぞれ思ったことを言う。楽しみにしていたのなら1人で来たら良いのにとアーバスは思ってしまう。
「というかクロロトこそ何でこんなに早くからいるのよ」
とアミールはクロロトに話しを逸らすように質問する。集合時間までの間かなりの時間があるはずなのにその間はどうするかアーバスも気になっていたのである。
「何、少しばかりウォーミングアップするだけだ。いきなり身体を動かすのは苦手でな」
とどうやらウォーミングアップの為に早くから来ていただけとのことだった。それはそれで早すぎだろうとアーバスは思うのだが、それも人それぞれなので何も言わないでおこうとアーバスは思ったのである。
「そういうアミール達は集合時間までどうするつもりなんだ?」
「特に考えてないわね。剣を振ったり話したりかしらね」
「私は何も考えていませんが魔力操作をするつもりです」
どうやら2人共何も考えていないらしい。サーラが考えていないのは仕方ないにしてもアミールが何も考えていないはどうかと思うぞ。ただ、2人共時間を潰す方法はあるので問題はないだろう。
「わかった。俺はちょっと説明を聞いてくるから皆はゆっくりしてくれ」
「えー、アーバス教えてくれないの?」
とアーバスが隣の第1アリーナへ移動しようとするとアミールはそんなことを言ってくる。もしかしたらアーバスとの練習する為に早く来たのかもしれないな。
「悪いな。初日は説明で人が来ているからな。やるにしても次回からだな」
「わかったわ。次回はやってよね」
とアミールがなんでそんなことを言うのか疑問だったが、放課後の特訓は夏休みの間はダンジョン攻略で出来ないのでその変わりに少しやりたいのだろう。ただ、初日は操作手順の確認の為にシエスがわざわざ来てくれているのである。そろそろ集合時間なので移動しておかないと向こうも困るだろうしな。
「人気ですね」
第1アリーナへ到着するとシエスがそんなことを言う。さっきの話しを聞いているのだろうなと思っていたがやっぱりか
「何故なんだろうな?」
「ちゃんと教えているからですよ」
とアーバスは特に人気な理由とか考えたことは無かったが、どうやら教えているのが理由だそうだ。そんなのもので評価されるとは教員は何もやっていると聞きたくなるが、教員もやることがあるから仕方ないか。
「さっさと教えてくれ。始まるまでに理解する必要があるからな」
「わかっていますよ。といってもそこまで難しい操作はないんですけどね」
とシエスがそんなことを言うがコントロールパネルの操作方法は明らかに難しく、アーバスは集合時間ギリギリまでコントロールパネルの操作を確認するのであった。




