336話 本日の限界
「あーもう無理」
先程までのニコニコら何処へ行ったのやら最下層前の広場でついにアミールの理性の限界が来たようで本音をぶち撒けるとへたり込む。
「アミール大丈夫ですか?」
「頑張ったけど今日はこれが限界よ」
とサーラが声を掛けるとアミールはもう無理であることをアピールする。アーバスはそれを静かに聞きながら暫くは再起不能なことを悟る。
「いつものアミールに戻ったな」
「そうだな」
「ちょっとそこは素直に褒めなさいよ」
「あー頑張った頑張った」
「そうじゃない。もっと心を込めて言いなさいよ」
リンウェルはいつものアミールに戻ったことに安心したのかアーバスにまるでアミールが正気に戻ったかのように話しかける。アーバスはそのアミールの努力を素直に褒めるのではなく、リンウェルに同調するとアミールは褒めろと言わんばかりに抗議する。本当は褒めたいんだが、褒めるとアミールが調子に乗ってしまうので素直に褒めれないんだよなぁ
「アミール、あんまりアーバスを困らさないでください」
「なんでよ。悪いのはコイツでしょ」
そんなことを知ってかサーラはアミールを注意するとアミールは更に怒りだす。さっきまでと違っていつも通りの状態になったアミールを見てアーバスは安心する。ここまで戻ればいつでもボス戦に挑めるからな。
「アーバス、嫌いなモンスターの克服ってこんな感じでいいの?」
「見た目だけが嫌いならそれでいいと思うぞ」
冷静にアミールは今日の立ち回りが合っていたのかどうかアーバスへ確認する。人によるが、ビジュアルが苦手なモンスターなら数をこなせば嫌でも身体が慣れてくるからな。これが攻撃パターンや回避が苦手とかなら立ち回りや自分の動きを見直すのがベストとなるんだけどな。
「アーバス、虫型のペットモンスターっておるんか?」
「いるにはいるけどあれば別物だから克服には使えないぞ」
「いい案やと思ったんやけどな」
「見た目が全然違いますからね」
リンウェルは虫型のペットモンスターであれば克服の手助けになると思っていたみたいだが、あれは虫の形をした別物だからな。アーバスも同じような事をリリファスに相談したことがあるのだが、失敗したとリリファスが言っていたのでそれは無理だとアーバスは諦めている。
「アーバス、この方法以外って何かないの?」
「見慣れる以外に方法はないが、強いて言えばスライムみたいに一撃で倒すくらいだな」
「それってあんまり変わらなくないですか?」
見慣れるとは別の方法として大したモンスターではないという風に身体に覚え込ませることだな。これだと例え苦手なモンスターを相手することとなっても速攻で倒して仕舞えばいいとなるので理性が限界を迎える前に倒せば問題ないとなるからな。ただ、この方法も結局は回数を積むか格下のモンスターの相手が基本となるので慣れるまで倒すとあまり変わらないのでネックなんだよな。
「俺の方法だとそれが限界だな。後は先輩やクラスメイトにアドバイスを求めてくれ」
アーバスはこれ以上は他を当たってくれとお手上げといった状態となる。一応アドバイスになるかとトゥールの幹部達に話を聞いたのだが、そもそも人外や戦闘狂ばかりのトゥールに聞いたのが間違いであり、大抵は嫌いなモンスターなんていないですという回答だったのである。ルーに至っては「虫型モンスターなんてお肉が一杯でご馳走じゃないですか」と言ってくる始末で、これに関してはモンスターを主食にしているドラゴンに聞いたアーバスが悪かったと後悔するのだった。聞くなら前衛アタッカーであるリリファスやギルディオンに聞くべきだったな。
「そうね。水曜日にクロエちゃんやアカネちゃんに聞くことにするわ」
アミールは代表戦の練習の日に2人に聞くことにしたみたいだな。二人共ダンジョンでは前衛アタッカーをしているのでもしかしたら良いアドバイスを聞けるかもしれないしな。
「ところで水曜日の練習会って何をするのですか?」
「そういえば何も聞いてないわね」
と話は練習会の話題になる。リンウェルは出ていたが、アミールとサーラはテスト後の作戦会議には出ていなかったからな。普段の作戦会議にはクラス代表として参加していたのですっかりと忘れていたな。
「一応予定としては実践形式の模擬戦がメインの練習となる予定だな。本番みたいな環境にするために第1アリーナを貸し切っていて順番に試合をしていく形になるな」
「なる程ね。実践で戦って反省点を探したり対戦相手を変えて戦ったりするわけね」
「そういうことだ。後、パーティー戦の練習と模擬戦はやらないからそのつもりでな」
一応わかっていると思うけどこれはあくまで1組の練習に時間を割いてくれている他のクラスへのお礼も兼ねているからな。なのでこの午前中だけはアーバス達は協力という形で参加するだけであり、決して自分達の練習の為の時間ではないということだけは自覚しておかないといけないのである。
「それくらいわかっているわよ。他の種目の代表戦も勝って欲しいものね」
「そうですね。私達よりも他の代表の方が心配ですからね」
なんせ他の代表は全てアーバス達のパーティーに負ける結果となってしまったので他のクラスの方が勝てるかどうか心配だしな。
「作戦会議の時にも思ったんやが、本当にウチらはパーティー戦の練習をせんでええんか?」
「?」
「なんで不思議そうな顔するのよ」
とリンウェルはパーティー戦の練習がないことについて聞いてくるが、アーバスは何故と言った顔をしながら首を傾げる。アミールは不思議そうにするアーバスに当然のことだと思いながらツッコミを入れる。
「じゃあ、何の練習をするんだ?」
「それは連携の練習ぅ……」
「気づいたか」
アーバスに練習内容を聞かれたリンウェルはその答えとして連携の練習と言おうとして途中で固まる。連携の練習というが、作戦は団体戦と同じくアミールを主戦力に置いた力押しである。アミールがメインアタッカーでリンウェルがサブアタッカーというのは今回の代表戦でやり方を学んでいる上にダンジョンでボスモンスター相手に同じことを行っているのである。更にサーラの役割もフラッグの死守と遠距離でのバフと回復ということでこちらも団体戦で1人で大将をやりながら本陣を護っているサーラからすると役割が一切変わっていないのである。
唯一役割が違うといえばアーバスであるが、アーバス自身は何でもできるようにメルファスで訓練を積んでいるのでそもそも連携の練習は必要ないのである。従ってパーティー戦だからといって新たに練習するところは何もないのである。
「でも、対人戦の練習は必要じゃないの?」
「どことやるんだ。それに相手は最高でもBランクなのに必要か?」
「えっ」
アーバスの返事にアミールもリンウェルと同じように固まってしまう。アミールはまさかアーバスが既に他校の調査を終えていないと思っていたのでこの事実はびっくりすぎる内容であった。それはリンウェルとサーラも同じであり、どこからそんな情報を得てきたのか不思議で仕方なかった。
「それは信頼出来る情報なんか?」
「あぁ。というかBランク以上の冒険者が魔法学園に在籍しているかどうかなんて調べるのは簡単なんだけどな」
実はアーバスは既に他校の1年生の冒険者ランクをルーファを使って確認しており、その結果今年の10大大国で入学時点でAランク冒険者だった人物は居なかったのである。それなのにSランク冒険者相手に対等な試合で勝つことが出来るアミールに誰も対抗することは出来ないだろう。仮に出来るような人材がいるとしたら事前にアーバスの耳に入ってくるはずなので、それから対抗策を考えても遅くないだろう。
「そ、そう。テリーヌ先輩のところと模擬戦をと思ったのだけれど必要無さそうね」
「そういうことだから団体戦とパーティー戦のところは俺に任せてくれて問題ない」
なんせアーバス以上の情報網を持っている人物なんていないからな。アーバスは他に意見がないことを確認すると話のキリが良いこともあってボスへと挑むのだった。




