327話 奴隷の移送先
「全員戻ってきたな」
夕方、アーバスはキリコ達全員が揃ったことを確認する。全員拠点へ帰ってきた際に発見の報告がなかったことから空振りだったと想像がつく。
「それではまずはキリコから聞いていいか?」
「はい。次元艦隊での捜索ですが、セーティス全土を確認しましたが、発見には至っておりません。現在は中央大陸全土に捜索範囲を拡げております」
次元艦隊は既にセーティス全土の索敵を終えたそうでその上で発見に至ってないようだった。この短期間でセーティスから脱出したとなると誘拐するのに相当手慣れていることが伺えるな。
「こちらも色々とツテを使いましたが、発見には至っておりません。国を出入りする奴隷商は全て抜き打ち検査を実施しましたが空振りでした」
ルーファも商会を使って情報収集や検査をできる限りやったみたいだが発見には至らなかったようだ。
「こちらも精鋭部隊を使って調査をいたしましたが発見には至りませんでした」
レイラも情報部隊を使って探したみたいだが、やはり何処へ消えたのか全く情報がない状態で探し出すのは数時間では厳しかったようだな。
「そうか。全くの情報なしか」
足取りすら掴めないか。これから捜索範囲が拡がって色々と情報が集まってくるだろうが、ここまで情報が全く無しだとはアーバスは思っていなかった。
「アーバス様は何処を捜索されたのですか?」
「俺か。まずはミーサスのところへいって奴隷申請がされていないか確認したが、どうやらまだ申請はされていないようだった」
とアーバスは別れてからの行った場所と内容を報告する。結果的には全て空振りだったが、事前に違法な奴隷商の調査が出来て良かったと思っている。まだミーサスには報告していないが、ミーサスに対しては良い報告ができるだろう。
「そうですか。結構な数を調査をされたのですね」
「空振りだったけどな」
アーバスも違法な奴隷商のところにいると思って念入りに確認したのだが、結局見つけれはなかったからな。ただ、普通の奴隷商を回るよりかは遥かに有意義ではあったな。
「ここまで何も無いとなりますとどう探せばいいのか困りますね」
「そうでありますね。いっそサードオプティマスの仕業と考えた方がよろしいのではないでしょうか?」
「その考えは当たっていると思うぞ」
何も情報が無さすぎて半分サードオプティマスのせいにするレイラにアーバスはそう答える。その答え方は明らかに自信があるように思えた。
「アーバス様、決めつけはよろしくないかと」
「それがそうでも無いんだよな」
とアーバスはミーサスから貰った地図を拡げる。キリコ達はそれを見るが、特に何かおかしいところがあるように思えなかった。
「これは違法奴隷商の場所に共通しているところがあってな。それは各大陸と呼ばれる国の近くに必ずあるんだ」
「確かにそうですが、それでも各大国ごとにではないですよね?」
キリコの言う通りで大国全ての近くに違法奴隷商がいる訳ではない。だが、それにはある共通点があるのが理由だからである。
「見たらわかるが国外から半径100キロ以内にこの拠点は存在しているんだ。そしてその範囲に被る拠点については省略されているにすぎない」
大国といっても大国同士が隣り合っていたりするし、半径100キロだとそこそこ広いこともあって共通点として見つけ辛いしな。100キロな理由は恐らく転移で一回か連続で移動できる距離の限界なのだろうな。ヘルティアは国の端ということ、その違法奴隷商の拠点から1番近い都市だからな。
「それではそこを襲撃すればアルフとラビーがいるのですか?」
「確認したが、既に移送されているみたいだな」
アーバスもそこだと思って真っ先に向かったのだが、アルフとラビーを見つけることが出来なかったのである。
「移送されているということは移送先はわかっているのですか?」
「ツオークだ。これは帳簿を確認したから確かな情報だな」
アーバスが魔法で確認したところ奴隷の売買リストが纏められており、その共通として主な販売先がツオークなのである。アルフもラビーもそのリストの中に入っており、移送先がツオークなことを書かれていたのである。
「主、アルフとラビーの居場所はわかっているのですか?」
「そこをまだ発見出来ていなくてな。空振りと言ったのもそれが理由だ」
ツオークへ移送されたといってもどうやって移送されたのかが詳細不明だったので、何処に移送されたのかがはっきりしていなかったのである。ツオークへ移送と書いてあって他へ移送されていることもあり得るしな。
「次元艦隊をツオークとファルフォスを中心に捜索するように指示を出します」
「セーティス周辺を探すくらいならその方がいいだろう」
キリコは次元艦隊にツオークとファルフォスを重点的に探すように通信で伝える。恐らくどちらかにはいるだろうが、見つかるまでは下手に動けないな。
「皆様お揃いでございますね」
「ミーサスか。どうしましたか?」
次元艦隊での捜索を始めたその時だった。ミーサスが転移で拠点へとやって来たのである。ここへやって来たということはエルキュール王国で何か情報が入ったのだろう。
「朗報ですわ。先程、ツオークよりアルフさんとラビーさんの奴隷の申請書が届きましたわ」
とミーサスは申請書をテーブルの上に置く。どうやら申請者はツオークの奴隷商であり、申請書には孤児院から買い取ったと書かれていた。
「巫山戯ないでください。ミーサス、こんなもので簡単に通るのですか?」
「通りますわね。不本意ではありますが、実際に孤児院が奴隷商に孤児を売る事案なんて珍しくありませんわ」
その言葉にキリコは絶句する。それはルーファやレイラも同じなのだが、そんなことを嫌ほど見てきたアーバスからすれば当たり前だと思ってしまう。なんせ孤児院も慈善だけではやっていけないのだ。セーティスはまだ保証が手厚いのでそういうことに手を染めている孤児院はないが、小国だと当たり前のようにあるからな。
「つまりこの申請書も通ったということですか?」
「そんな訳ありませんわ。私の権限で申請は却下しておりますわ」
申請書は既に不許可済なようで、ミーサスは証拠としてこの書類を持ってきただけのようであった。今回は事前にアーバスが根回しをしていたから却下されたが、根回ししていなかったら許可されていただろう。それくらいに今の奴隷制度は緩いものなのだが、あまりキツくするとエルキュール王国の財政に問題が出るらしく現状維持で精一杯とのらしい。
「ミーサス、期限は?」
「申請結果は全て翌日の朝に出すようにしております。ですので、今晩中が限界でございますね」
どうやらその日中に結果は出てはいるものの、申請者への返答は翌日にしているみたいだ。それなら今日中にアルフとラビーを奪還する必要があるな。
「すぐに出発する。作戦はここいるメンバーで行う。キリコ、次元艦隊を街の外へ回してくれ」
「わかりました。すぐに準備致します」
本当は拠点の前に置きたいが、目の前の道が狭いのとシエスに何か言われるだろうからな。それならタポリスの外で乗り込んだ方がまだ迷惑にならないだろう。
アーバス達はトゥールの正装に着替えると次元艦隊に乗り込んでツオークへと向うのだった。




