326話 エルキュール王国
「着いたか。久しぶりだな」
アーバスは到着するとそう感想を漏らす。アーバスは用事の為に西大陸にあるエルキュール王国という国の首都であるバートンに来たのである。アーバスは書類を出して入国すると脇目も触れずに王城へと歩き出す。ここの王城は全体的が金色に輝いているので晴れている今日は眩しくて仕方ないが、相変わらずわかりやすくていいな
(情報の2人はなしか)
アーバスは王城へ辿り着くまでにあった奴隷商の奴隷を魔法で確認したのだが、キリコの情報に当てはまる人物を見つけることが出来なかった。
「止まれ、何者だ」
「急用の為に女王陛下に面会を申し込みたい」
とアーバスは1枚のカードを守衛に差し出す。これはエルキュール王国の女王から渡されたもので、これがあれば面会など用事で外せない時を除いて可能な限り面会してもらえるというものである。
「確認を取るので少々お時間を頂きたい」
「わかった」
守衛はそのカードを見て目配せをすると1人が急いで王城の中へと入っていく。きっと女王陛下に都合と確認を取っているのだろう。待っている間は無言であったものの、守衛達からは緊張しながらこちらをチロチロと見てくる。なんせこのカードを持っている者はアーバスを含めて数人しかいない上に全員要人らしいので緊張するのは仕方ないか。
「面会の許可が取れました。案内致しますのでどうぞ付いてきてください」
戻ってきた守衛から面会の許可が取れたことを聞くとアーバスは守衛の案内に従って王城の中へと入っていく。王城の中は外観に負けず中も金色で装飾されており、廊下は埃や傷1つもないピカピカに仕上がっていて見ただけで掃除が行き届いているのがわかる。アーバスはその廊下にある応接室へと通されると主が来るまでソファーに座って待機する。
「お久しぶりでございますわね主様」
と現れたのは十代後半の金髪縦ロールの女性で、その女性は部屋へ入ってすぐにアーバスへ挨拶をするとアーバスの向かいのソファーへ腰掛ける。
「すまないミーサス。急に押しかけて」
「いえ。呼びかけに応じるのは私達幹部の義務であります」
この女性はミーサスと言い。エルキュール王国の女帝であると共にトゥールの幹部の一員でもある。エルキュール王国は全ての奴隷商が所属する大元の国家であり、奴隷商が奴隷を販売するにはこの国の許可が必要なのである。そして許可のない奴隷は全て違法として扱われておりそれが発覚すればその奴隷商は金輪際商売ができないくらいである。なのでもし、アルフとラビーが奴隷として売られるのならここを経由する必要があるのでアーバスは真っ先にこの国を尋ねたのである。
「何事でごさいましょう?主様がこちらへ来られるということは重大な問題が起きたと推察致します」
「その通りだ。どうやら孤児院から2人誘拐されたようだ」
その瞬間ミーサスの視線が冷ややかなものになる。それはアーバスへ向けてでは無いだろうが、目を合わすのはアーバスなのでアーバスが失言したかのようになってしまう。まぁ失態には変わりがないのだがな。
「なる程。主様がこちらへ来られた理由は奴隷への阻止ということですね」
「そういうことだ。奴隷にするにしてもこの国の承認が必要だからな」
人を奴隷として登録するには奴隷の契約書の写しと奴隷化をする全うな理由さえあれば大抵は承認されるからな。アルフとラビーは孤児なので契約さえ出来てしまえば後は申請書を適当に書いて申請すれば簡単に承認されるだろうからな。
「情報を頂いてもよろしくて?」
「これだな」
アーバスはミーサスにキリコから借りた資料を手渡す。ミーサスは資料を読んだ後、ブラックボードを取り出すとそれを操作し始める。恐らく奴隷の中に2人がいないかの確認をしているのだろう。
「今のところは奴隷として申請されてないようでございますわね」
と2人がまだ奴隷になっていないことを確認するとミーサスは手を叩いく。すると、何処に待機していたのかメイド2人が入口から入ってきたのである。
「この2人がもし、奴隷として申請されたらその奴隷商を拘束しなさい。これは命令ですわ」
「「はっ」」
ミーサスがメイドにそう言うとメイドは資料を持って大急ぎで何処かへ向う。きっと申請を承認している場所だろうが、そのメイド達の目は非常に血走っていたのだが大丈夫なのだろうか?
「ちょっと前に冒険者の違法奴隷事件がごさいましてね。彼女達は名誉挽回の為に必死なのですわ」
冒険者の違法奴隷事件というとセーティスの王都で起こったあの事件だろう。なんせ高ランク冒険者の奴隷申請をエルキュール王国は承認してしまったからな。承認自体は問題はないのだが、問題だったのはその過程である冒険者ギルドへ在籍の確認を怠ったことだ。奴隷になるには冒険者ギルドを退会する必要があり、エルキュール王国は冒険者からの奴隷申請があった際に冒険者ギルド本部に確認を取り、除籍されていることを確認してから承認しないといけないのだが、どうやらそれをしていなかったらしい。
この事はアーバスがミーサスへ問い合わせて初めて発覚した事実であり、これに激怒したミーサスは承認した職員を国家反逆罪として奴隷落ちさせた上で強制労働へと動員し、役職者達にも役職落ちは無かったものの厳しい処分が下されたのである。
それもあってか今のエルキュール王国内部は審査に対して非常に敏感な時期となっており、ミスがないように普段より念入りに審査しているそうである。そんな中での命令なので審査する部署にはさぞかしプレッシャーが掛かってしまうだろうが、自分達がやらかしたミスが原因なので仕方ない。ミーサスも「絶対捕まえてやりますわ」と意気込んでいるが、ミーサスのやる気は癒やしである孤児院から孤児を誘拐したことへの怒りだろう
「主様、申請があった場合はどうすればよろしくて?」
「俺に報告してくれ。直接乗り込んで解放するつもりだ」
もし、見つかればキリコ達を連れて孤児達を解放しに行くだろうな。しかもその奴隷商の扱っている奴隷は違法の可能性が高いのでアーバスはついでに捕まえて記憶を確認した上で生かすかどうか判断するつもりである。
「わかりましたわ。ですが、もし申請されなかった場合はどうするおつもりで?」
「そこは強硬手段だな。サードオプティマスの可能性があるからな」
一応強硬手段を使えばアルフとラビーを見つける方法もあるが、サードオプティマスの傾向からすると何処かの奴隷商から申請されるとアーバスは思っている。もし申請が無かった時は最悪その強硬手段を使ってアルフとラビーを救いに向うつもりである。
「無茶だけはお控え下さいませ。主様の無茶はトゥール一同望んでおりませんわ」
「わかってる。だからこっちまで来たんだからな」
最初から強硬手段をするならわざわざ押しかけてまでエルキュール王国に来ないからな。そう思っていると先程のメイド達が何処かから戻ってきたようでミーサスへ耳打ちをする。その声は小さいものの、この静かすぎる空間ではその声でもアーバスにまで十分聞こえる声であった。ミーサスはメイド達を下がらせるとアーバスの方へと向き直り
「捜索に来たお二人ですが、現時点で申請は確認出来ませんわ」
「そうか。ありがとうミーサス」
アーバスは回答に満足すると立ち上がる。後は申請があればミーサスから連絡が入るのでここにいる意味がないからな。まだ、予定の時間まで余裕があるのでアーバスの方で奴隷商を虱潰しに探すしかやることはないだろう。
「主様、こちらをお渡ししますわ」
とアーバスはミーサスから紙を受け取るとそれを広げる。紙は世界地図となっており、そのには各大陸に数個赤い点の目印が記されられている。
「これは?」
「現在確認済の裏取りが終わっていない非合法の奴隷組織ですわ。もし、探しに行かれるのでしたらこちらから探すことをお勧めしますわ」
「ありがとうミーサス。ここから優先に回ってくる」
アーバスはミーサスのお礼を言うとその非合法の奴隷組織から探しに行くのだった。




