315話 力の解放
(そろそろまた攻撃パターンが変わりそうだな)
不動を付与して再度エルダーデスウイッチのHPを削っていたアーバスだが、HPが半分を切りそうなところで警戒を強める。なんせ前回戦った時は半分になったところから肉弾戦になったからな。
(今回は捌けるのか?)
とアーバスはエルダーデスウイッチの肉弾戦を対処できるか不安になる。前回は肉弾戦になった時に攻撃の速さに一発喰らいかけたからな。鎌から肉弾戦に移行した時に攻撃の速さが更に速くなるのは仕方ないが、それで退場していはメルファス最強の名が泣いてしまうだろう。アーバスは更にバフを追加してエルダーデスウイッチの肉弾戦に対抗する準備をする。
「やっぱり来たか」
と案の定HPが半分を切るとエルダーデスウイッチは鎌を捨てて肉弾戦へと移行する。アーバスは初撃を虹刀で難なく弾くがもう片方の手からの2撃目は虹刀で対処出来ない場所から放たれる。
「それも対処済なんだよ」
とアーバスはアイテムボックスから雷刀を取り出すともう片方の手に装備してエルダーデスウイッチの2撃目を防ぐ。
(ダメージは斬撃だけか)
アーバスはエルダーデスウイッチの連撃を捌きながらHPを確認する。虹刀で防いだ時は斬撃ダメージと別に虹属性のダメージも入るが、雷刀で受け止める時は剣で防いでいるので斬撃ダメージは入るものの武器の属性が雷ということもあって光属性以外無効のエルダーデスウイッチにはそれ以上のダメージを与えることが出来なかったのである。
(捌けるだけマシか)
これ以上の追加ダメージは見込めないが、攻撃を捌いているだけで微量ではあるもののHPが削れていってくれてるのは有り難いな。アーバスはそのままこちらから手を出さずに防御だけでHPを削っていく。
「おい。それは聞いてないぞ」
「ケケケケケ」
とそこから更にHPが2割削れたタイミングでエルダーデスウイッチは空中に大量の魔法陣を展開される。アーバスは魔法陣から魔法が放たれる前に魔力弾で叩き割っていくのだが、間に合わなかった魔法陣から即死のレーザーがアーバスに向けて放たれる。アーバスはエルダーデスウイッチ本体の攻撃を捌きながらギリギリのところをステップで避けると真横をレーザーが通り過ぎる。
(危ねぇ。ってまたかよ)
とレーザー魔法陣からのレーザーを撃ち終わると2撃目と言わんばかりに大量の魔法陣が展開される。アーバスもそれ対抗して魔法陣を大量展開すると魔力弾を撃ち込んで魔法陣を破壊していく。エルダーデスウイッチは近距離が得意なこともあってか魔法陣の展開から即死のレーザーを放つまで時間があり、魔力弾の迎撃が間に合うのがまだ救いといったところか。エルダーデスウイッチはそれを嘲笑うからのように嗤いながらアーバスのことを見ながら攻撃するのだが今のアーバスにそれを返すだけの余力が存在しなかった。
(流石にこれを対処し続けるのは辛いな)
なんせエルダーデスウイッチにだけ集中していたものが、周囲の即死レーザーの魔法陣の迎撃と回避が加わったのである。それを視覚ではなく索敵で探知しないといけないので、魔力と集中力が必然的に爆増してしまう。
(開放するか?)
アーバスはいい加減焼ききれそうな脳内でそう考える。今のところは対処出来てはいるものの、既に自身の脳内キャパは限界に近く、既にエルダーデスウイッチへ反撃するタイミングを数回逃していた。
「クッソ」
更にこれまでのお返しとばかりにエルダーデスウイッチは緑色の魔力を拳に宿すと更に高速化した拳がアーバスの元へと飛んでくる。
(もう無理だな)
アーバスはここでエルダーデスウイッチが倒れるまで自力で続けるのは到底不可能と判断して契約の指輪の力を開放する。
ピタリとアーバスが契約の指輪を開放すると同時に全ての動きが止まり、それと同時にとてつもない魔力がアーバスの右手薬指に集まる。やがて、魔力が集まり終わるとその指には虹色の光を放つ指輪が現れる。アーバスは契約の指輪が完全に具現化したことを確認すると止めていた時間を再始動させる。本当はそのままでも魔法を行使することも出来るのだが、久しぶりの指輪の開放なのでリハビリがてら普通に戦うことにしたのである。
「!!!!」
「へぇ、ウイッチでも流石にこの魔力は驚くんだな」
時間を再始動させると突如として大量の魔力を纏ったアーバスに驚いたのかエルダーデスウイッチは攻撃を中断すると後へ飛び退いてアーバスとの距離を取ると同時に即死レーザーの遠距離攻撃でアーバスと戦おうとする。
「邪魔だな」
アーバスは自身の魔力である虹色の光をボス部屋一体に広げると展開されていたエルダーデスウイッチの魔法陣は魔力に触れただけで叩き壊される。
エルダーデスウイッチは全ての魔法陣を破壊されたからか再度展開するものの今度は魔法陣すら現れることなく失敗に終わる。
「指輪を開放した俺の前でそんな魔法を使えると思うなよ」
魔法陣が展開されなかったのはアーバスの魔力の効果であったりする。この魔力が届いている空間は全てアーバスの管理下にあり、アーバスの許可がない魔法は全て発動出来なくなるのである。本来ならこの魔法は魔力を膨大に使うので使用しないのだが、契約の指輪を使っている間は魔力は無限に供給されるのでアーバスはこの荒業を使うことが可能なのである。
この魔力こそがアーバスが現代最強の魔法師と言われる力であり、この力でトゥールの幹部達である大罪人や厄災級、それ以上の高ランクモンスター達を1人で完封出来る理由でもあった。そしてこの魔力はアーバスしか使えないただ1つのものであり、アーバスがどの属性にも属さない系統外といわれる理由でもあった。この力を使ってているアーバスがエルダーデスウイッチくらいに遅れを取るわけがなかった。
「そう来るしかないよな?」
エルダーデスウイッチは魔法陣が出現しないことで即死レーザーによる遠距離攻撃が出来ないことを感じ取ると今度はアーバスへ接近して接近戦へと持ち込もうとする。
「その手に乗ってもいいが、久しぶりの力だ。存分に使わせてもらうぞ」
とアーバスは魔法陣でエルダーデスウイッチを弾き飛ばすと今度はこちらの番と言わんばかりに上空に虹色の魔法陣を展開させるとそこから虹色の光が降り注ぐ。エルダーデスウイッチは全力で回避するものの、全てを避けることは出来ずに当たった部分から消滅していく。
「ただ、最後はやっぱり剣で止めを刺したいよな」
アーバスはエルダーデスウイッチがある程度消滅して機動力が落ちたところで手に持っていた虹刀に自身の魔力を付与する。付与された虹刀は普段よりも一層虹色の輝きを増してその力を思う存分に見せつける。
ズサリ
と本能からなのだろうか、付与された虹刀を見てエルダーデスウイッチは身の危険を感じて後ろへと身を引き摺るように後退する。ただ、エルダーデスウイッチはその身を削られすぎたのか殆ど後退出来ずにアーバスのことを見つめる。ダンジョンのボスでアーバスを相手にしないといけないのは仕方ないとはいえ、今頃は戦ったことを後悔しているだろう。
「それじゃあな」
アーバスはエルダーデスウイッチへ最後の言葉を言うと虹刀でエルダーデスウイッチを真っ二つに切り裂いたのである。切り裂かれたエルダーデスウイッチは2つに切断された後、宝箱を残して光となって消えて行ってしまうのであった。




