304話 エリースの来訪
コンコン
とアーバスとリーゼロッテが抜き打ちで調査する隠居者を確認していると扉がノックされる。これから誰とも会う予定は無かったはずなのでアーバスは訝しげに入口に立つ人物の魔力を確認すると、入室させる。
「師匠久しぶり」
「久しぶりだなエリース」
と部屋へとやって来たエリースはアーバスを見つけるとこちらへとやって来る。エリースの年齢は100歳を超えているのだが、外見は15歳程度に固定されているので、数ヶ月くらいでは一切の見た目は変わらないな。
「どうしたんだ?」
「そりゃ、師匠に任せているサーラについてのことを聞きたくてね」
とエリースはサーラのことについて聞きたいみたいだった。任せているといってもメルファスからの依頼を出している辺り見捨ててはないみたいだけどな。
「サーラから直接聞いてないのか?」
「彼女からも聞いているよ。ただ、師匠から見たサーラを聞きたいだけだ」
サーラとは定期的に連絡は取っているみたいではあるが、それだけでは満足に実力を測れていないみたいだな。
「ちなみになんだが、サーラから何処まで聞いているんだ」
「不動や遮光を習得した話は聞いているよ。ただ、師匠がとんでもないことをしているせいか。詳細には語ってくれなくてね」
「そういうことか」
というエリースの話でアーバスはサーラが今の状況についてあまり詳細に語っていないことに気づいた。アーバスとしては別に話してくれて良かったのだが、エクストリームのことが絡んでくるからか報告しづらいみたいだな。
「俺達がエクストリームに行っていることは知っているよな?」
「そうだね。今はレベル2でそろそろ攻略しそうなんだっけ?」
エクストリームの攻略状況についてはサーラが話してくれているみたいで、最新の状況がエリースに伝わっているみたいだな。
「そうなのだが、そのエクストリームのドロップについて聞いているか?」
「聞いてないね。聞くのは魔法のことが中心だからね」
エリースは魔法のことばかりで装飾品のことについては一切話をしていないらしい。元から装飾品には興味のないことは知っていたが、エクストリームの産の装飾品すら興味がないとは思わなかった。
「これがその装飾品なんだが、どう思う?」
「どう思うってはそんなの普通の装飾品じゃないか…………」
と良くあるたかが数%の装飾品だろうとエリースは確認するとその異常な数値に話の途中で言葉を失う。
「これは異常じゃないか?」
「一般的にはな。でもエクストリームではこれが普通だ」
数%しかない上昇しない装飾品ばかりで興味がなかったエリースだが、流石にこの数値は無視出来なかったのか装飾品に少し興味が湧いたみたいだった。アーバスはエリースがエクストリームに興味を持ったところで本題へと入る。
「そのエクストリームで属性剣がドロップしたんだ」
「それはとてつもなく性能が良さそうだね」
「あぁ。それを使えば1ヶ月で属性を覚えることが出来る」
とアーバスにそう言われたエリースは思わず黙り込む。普通なら半年位かかる属性剣での属性の習得がまさかの1ヶ月なのだ。そして今のエリースはサーラが何属性を習得したのかを確認しているのだろう
「サーラは何の属性を覚えたんだい?」
「雷と龍属性だな。そして今は氷属性を習得中だ」
そう言われてエリースはアーバスの言葉を飲み込めなかったのか完全にフリーズしてしまう。いくらアーバスと仲が良く、アーバスの非常識さを理解しているエリースでさえもこれは理解出来なかったようだった。
「やり過ぎじゃないかい?しかも全てが上位属性じゃないか」
「何故か普通の属性剣じゃなくて上位属性ばっかり出るんだよ。これはがりは運だな」
普通の属性剣がドロップする確率も低いのに更に上位属性でしかもそれを複数属性分という天文学的な確率にエリースはその現実を拒絶しているようだった。
「はぁ。師匠もしかしてだけどサーラに全上位属性を覚えさせようとしてないかい?」
「サーラもそうだがパーティーメンバー全員に全属性を覚えてもらうつもりだな」
というアーバスにエリースは更にため息を1つと
「師匠。僕がいうのもおかしな話だけどそれは過剰すぎないかい?サーラもアミールも普通に学園生活を過ごしているだけで学年最強なはずだよ」
「あいつ等がハードに行きたいと言っているからな。その夢を叶える為にSSSランク冒険者にまで育てるつもりだ」
「そうかい。それが本人達の希望というのは僕が止めるつもりはないよ」
と言うアーバスにエリースは降参とばかりに両手を上げてアーバスの方を見る。どうやらエリースも本人の希望と言われてしまってはどうすることも出来ないみたいだな。
「そういうことだから日に日にサーラ達が成長すると思うがあまりに気にしないでくれ」
「それはそれで依頼をする時に困るんだけど」
と困ったようにエリースはアーバスに言うのだが、そこら辺は最悪アーバスに相談してくれれば倒せる範囲のモンスターを教えることが出来るんだけどな。
「ちなみに現状だとどれくらいのモンスターを倒しているんだい?」
「Aランク下位のモンスターは倒しているな。直近だとブルーホースを倒しているぞ」
直近で倒したモンスターはブルーホースだが、アーバスの想定していたよりも速く倒せているのでそこは嬉しい誤算といえるだろう。
「ということは僕の依頼もAランク下位にした方が良さそうだね」
「そうだなって、そもそもそんな依頼あるのか?」
アーバスの時には災害級より下のランクは無かったのだがエリースだと違うのだろうか
「僕の場合はサポートが基本なせいかモンスターの討伐依頼に結構なばらつきがあるんだよ。多分組んでくれる人にバラつきがあるからそれを考慮してじゃないかな?」
どうやらエリースはアーバスと違って依頼のランクに幅があるみたいである。エリース単体で倒せるモンスターが少ないので、ソロで倒す用とパーティーを組んで倒す前提の依頼と複数種類あるみたいだな。
「そうか。ということは他の連中は高ランクなのか?」
「それがわからないんだよ。アーバスと同じで僕も部下が少ない上に後衛だからね。それもあってか教皇様からの依頼が少ない上に幅があると聞いたことがことがあるんだ」
と言うエリースだが、アーバスの場合は部下がリーゼロッテしかいなかったのに1日数回高ランクモンスターと戦っていたのでまったく同じではないんだよな。
「それにしてもサーラ達はAランクが近そうだね」
「そうだな。このままいけば夏休みに入ったタイミングで昇格試験を受けてもらうつもりだ」
「そうかいもしAランクに上がったら報告してくれないか。依頼を少し考え直すよ」
「それはいいが下手に上げすぎないようにしてくれよ」
エリースが依頼を上げすぎたせいで全滅となっても困るからその辺りは気を付けてほしいな。
「わかったよ。そういえば最近リリファス様が外出することが増えたみたいだよ。だからアーバスもリリファス様に用事がある時は事前にアポイントしておいた方がいいよ」
「そうなのか?教皇が外出なんて珍しいな」
おそらくはお茶会組で行っているエクストリームの攻略の影響だろうが、エリースにとってリリファスが外出していること自体が珍しいみたいでアーバスは話を合わせる。
「だね。僕から言いたいことはこれだけだし、サーラのことも聞けて満足だから僕は戻ることにするよ」
「わかった。それではな」
「また顔を出して下さいよ師匠」
エリースはアーバスからの報告に満足すると自室へと戻っていったのだった。




