3話 試験日当日
試験当日。アーバスが学園に着くと前回と違い受験生の学生や在校生達で溢れ返っていた。アーバスは地図の通りの教室に行くとまだ早かったのか数人しか座っておらず、席は自由とのことだったで一番後ろの空いている席に着席する。試験には最低値があり座学と魔法と剣術でそれぞれあるらしいが魔法と剣術はそれぞれ合格点があり、それを超えるとどちらかが最低値以下でも問題ないとのことだった。しかし、座学が最低値以下の場合は他が良くても不合格になるとのことだった。アーバスにはその最低値も関係ないのだが教材を開け試験時間ギリギリまで頭に座学を叩き込んでテストに臨んだのだ。
「そこまで。試験官が回収するまで回答を裏に向けてそのままでいてください」
座学の試験が終了しアーバスは一息をつく。この世界には記憶魔法という魔法で記憶することが出来るのだが、当然シエスは対策済みで開始した瞬間に妨害魔法を展開して使えないようにしてきたのだ。記憶魔法自体はありきたりではあるが覚えておくためには魔力が常に消費されるため短期間しか覚える必要のないテスト等には有効なのだが普通に使う分には非効率な魔法であるので一般的にはあまり使われない魔法である。
アーバスなら妨害魔法を展開されても記憶魔法を使うことが出来るのだが入学試験でもあるため今回は正攻法で挑んだのだがそれが功を奏した形だな。
座学の次は剣術の試験の為、記憶魔法を封じ込まれて禄に回答が出来なくて阿鼻叫喚をしている受験者を放置してアーバスは指定された教室へと移動する。剣術の試験会場は別であるアリーナで行うとのことだが一度に数人しか呼ばれない為待機場所としてこの教室を使っているそうだ。座ってから30分くらい待っただろうか、アーバスは名前を呼ばれてアリーナへ移動する。
アリーナでは試験官より木刀を手渡された後、軽く木刀を振りながら身体を動かす。対戦相手は女性のようで魔法も使う剣術に男女差はそこまでないのだがまさか女性と対戦するとは思ってもいなかった。
「ルールを説明する。魔法は身体強化や属性付与の使用のみ可能とする。時間は無制限。勝敗はどちらかがギブアップもしくは審判は続行不能と判断するまで、それでは両者、始め」
開始と同時に相手は速攻とばかりに身体強化の魔法で高速で接近してくる。そこから放たれる横薙ぎをアーバスは軽く身体を捻り流すようにして剣を当てる。これが未熟な相手ならバランスを崩してくれるのだがそう甘くはなく、バランスを崩すどころかこっちを向いて着地していた。
「小手先でなんとかなる相手じゃないな」
アーバスは相手が厄介であることにため息をつく。
相手も簡単に倒せないと察したのが次の攻撃は接近戦での連撃だった。アーバスも応戦するが身体強化の魔法で強化されている相手に何とか捌くので精一杯だ。剣術の試験とはいっているが実際は魔法も使用している為、実際は魔力容量の勝負なところもある。
魔力容量が大きければ身体強化の魔法などを常時発動しても問題ないのだが、実はアーバスの魔力容量はリリファスやシエスと比べるとそこまで大きくなくはない。普段なら魔力消費を抑える魔法や魔力を増幅する魔法などを使って消費を抑えているのだが今回はそれも禁止されているので身体強化の魔法を使い続けていると相手より先に魔力切れを起こす可能性があるのだ。なので向こうは自由に魔力を使えるのに対しこちらは必要なタイミングでしか使えないのである。
(ここ)
連撃を捌きながら相手の少ない隙。相手が切り上げて手が伸び切ったタイミングで身体強化魔法魔法を使って木刀を叩くが
「チッ」
速度、威力共に弾き飛ばすには十分だったはずだが相手の木刀は弾かれることはなく、こちらの攻撃を受け流しながらそのままに一回転して反撃される。これにはアーバスも攻撃を木刀で受けながら下がって距離と取るしかなく試合は仕切り直しとなる。
(不味いなぁ)
使っていなかった身体強化の魔法を使って木刀を弾き飛ばしにいったのだが結果は失敗。同じ手は使えないだろうし今のでこっちが身体強化の魔法を使っていなかったのがバレただろう。その証拠に再度攻撃してきた相手の剣には薄い水色のオーラを纏っていた。
(属性付与か)
人の体内には魔力があり。それを使うことで魔法というものを使用出来ている。ただ、人によって適性魔法があり、それによって得意不得意の属性魔法がある。属性は大まかに火、水、風、地、光、闇と無属性に分けられており、魔法適性は後天的に増やすことが可能ではあるが習得に時間がかかるのがネックとなっている。属性付与とは剣に属性を付与することにより威力や追加効果を与えることが出来る魔法のことである。付与する魔法は自身の適性魔法しか付与することが出来ないが、その分追加効果があるので前衛をする人の大抵は属性付与を覚えていたりする。属性を付与すると与えた属性に応じてオーラを纏うので、何の属性かは見ただけである程度わかる。今回は水色のオーラなので水属性の系統だろう。
相手の剣筋はある程度見切っている為、特に苦労もなく弾くが弾いたが、剣の部分には拳大の氷が出来ていた。
(氷属性か)
無属性以外の火、水、風、地、光、闇にはそれぞれの属性の他に上位属性という更に強い属性があるのだ。そして氷属性もその1つであり、下位である水属性の属性付与は本来威力の増大とノックバック効果が付与されるのだが氷属性だとその特性が変わり氷結という、触れた相手に氷が付着するというものがある。これを連続して当てることにより氷は大きくなって最終的には相手の行動が阻害されたり、場合によっては行動不能になってしまう凶悪な属性だったりする。対策も時間経過で氷が溶けるか相性の有利な火属性で戦うことしか明確な対策が存在していなかったりする。
「使うしかないかぁ…」
剣術は相手の身体強化込みでほぼ互角で魔力切れ勝負の長期戦を覚悟していたアーバスであったが、氷属性相手にこれ以上の長期戦は不可能と判断。アーバスも剣に属性に与えて勝負を決める為に木刀を振る。
「えっ」
こちらの振った一撃が相手の木刀に当たると同時に相手の属性付与が解除され勢いそのままに相手の木刀を弾き飛ばす。そんなことを想定してなかったであろう相手はただ呆然と立ち尽くしていた。
「そこまで」
そんな状況を判断してか審判は試合の終了を宣言する。アーバスは未だに呆然としている少女に礼をするとアリーナを後にする。
その1時間後、アーバスは最後の試験である魔法試験の会場へと移動したのだが
「いらっしゃい」
扉を開けると学園長であるシエスが座っていた。それもそのはずで最後の試験の場所が何故か校長室だったのである。シエスはアーバスをソファーへ座らすと目の前に1つの水晶を取り出した。
「試験は簡単。これに手を当てて魔力を込めてちょうだい。やり方はわかるでしょ」
これは魔力の水晶というもので、これに触れて魔力を込めるとその人の魔法適性や魔力強度を目視で見ることができるアイテムである。アーバスは水晶に魔力を込めると水晶内にノイズのようなものが入り、やがてそれは綺麗な無色の球体を作る。
「噂には聞いていたけど、本当に系統外なのね。それでいて魔力制御は非常に安定している」
シエスはそう言いながらメモを取っている。系統外とは水晶に映された魔力に属性が一切ないことで、これは適性魔法が火、水、風、地、光、闇以外であるということである。ちなみに魔法適性なしだとそもそも水晶にノイズ自体が入らなかったりする。
この水晶内の魔力制御は非常に難しく何かの形にするのはメルファスの幹部であっても出来る人間は非常に少なく、シエスであってもここまでは制御出来ない。
ただ、系統外はどの国であっても差別されることが多く、この国であってもそれは例外ではない。シエスはその思想を排除しようと動いてはいるが、一度根付いてしまったものを変えるのはそう簡単ではなく貴族を中心にまだまだ差別意識が残っているのが現実である。シエスはアーバスが系統外なのを噂ではあるが聞いてはいたので特別に校長室で魔力測定を行ったのである。
「試験はこれで終わりです。何か質問はありませんか?」
「魔法試験ってこれだけだっけ?」
あまりに試験が早く終わってしまったので素で聞いてしまった。聞いてた話だと魔力測定をした後に剣術同様に対戦形式での魔法試験があったはずなのだが…
「剣術試験の結果だけでSクラス相当ですよ。Sクラス確定なのに魔法試験する意味なんてないですね」
どうやら先程の剣術試験でSクラス確定だったらしい。相手はメルファス所属と言われても問題ないくらいには強かったからそれはそうか。
「ちなみに剣術でSクラス相当の人には皆同じ対応です。そこだけは勘違いしないでくださいね」
「そうですか…」
本当かどうかはわからないが、試験が少なくなることは良いことだろう。そう考えてるとシエスから予想外の質問が飛んできた。
「クラス編成について希望はありませんか?ないなら普段通りに編成しますけど」
クラス編成も希望があれば通るらしい。そんなこと聞かれても困るが理想のクラスというのはある
「まず求めるのは差別しない人だな。じゃないとクラスが纏らないからな。他は伸びしろがある人がいると有り難いな」
貴族には実力はあるが、平民を差別する人間がいる。その逆もいるのだが、そんな人がいるクラスだと満足に連携も取れないし実力も伸びないと思っているからな。
「出来るだけそうなるように編成しますね。他には何もないなら次は入学式になります。楽しみにしていますね」
「失礼しました」
そういってアーバスは退出する。その3日後に制服と一緒に合格通知書が届いており合格通知書にはSクラスとの記載があったのだった。