291話 勝ってもすんなりいくはずもなく
「アーバス、勝ったわよ」
「ご苦労様。思ったよりも早く削りきったな」
「誰もいなかったから攻撃し放題だったからね。むしろ遅い方よ」
アーバスとサーラが控え室に戻ると既にアミール達前衛は控え室へと戻ってきて来ていたようだった。アミール達がアーバスの予定よりも5分以上も早く相手本陣を削り切ってくれたようで、ロイン達が次の作戦を実行される前に終わらせてくれたのは有り難かったな。ただ、あの状況から次の手があったかどうか怪しいけどな。
「それよりもアーバスとサーラは大丈夫やったんか?2組全員が相手やったやろ?」
とリンウェルが聞いてくる。リンウェルと通信はしていないものの、2組がアーバス達1組の本陣の方に集結していたのを察していたらしい。
「そこはサーラがしっかりと障壁で護ってくれたからな。本陣も大将もダメージなしだ」
「流石サーラね」
ダメージが入らなかったと聞いてアミールは自慢気に言う。なんせ2組ほぼ全員の総攻撃でもビクともしなかったのだからアミールが自慢気になってしまうのも納得だろう。
「アーバス、総攻撃をサーラが耐えるのはわかるんやが2組は策なしやったんか?」
とリンウェルが聞いてくる。非常用の戦力としてアーバスが待機していたものの、サーラだけで守りきったので2組側が総攻撃のみでそれ以外の策を用意していないと思っているみたいだな。
「そんな訳無いだろ。向こうは城壁破壊のハンマーを用意してきたぞ」
「なんちゅうもん用意してきとんねん」
「城壁破壊のハンマー?なにそれ」
アーバスから聞いた2組の秘密兵器にリンウェルは頭を抱える。城壁破壊のハンマーは代表戦こそ禁止されてはいないものの、普通の障壁くらいなら一撃で障壁を叩き割ってしまう武器だからな。その凶悪さから毎年禁止の議論がされているが、何故か禁止はされていないそんなギリギリな武器だからな。
「何それズルじゃない。何で使用出来るのよ」
「障壁を実力が無くても叩き割るのは作戦なんだとさ」
城壁破壊のハンマーの性能を聞いたアミールがその凶悪な性能にズルだと言い張る。アーバスもそれは同じ意見なのだが、使えないと障壁が割れないからという理由で障壁破壊や貫通が使用出来るんだよな。こっちは不動を習得しているサーラがいるのでその辺りのスキルは関係ないのだが、強固な障壁を破壊出来ないのは実力が足りていないだけではと思ってしまう。
「で、そんなヤバい兵器を持ち出されたのに何で無傷だったんや?」
とリンウェルがサーラに聞くとサーラはアーバスの顔を見る。きっと不動のことを話していいのか迷っているのだろう。アーバスはそんなサーラに頷いて返事をする。別に話したところで他の人が習得出来ないので何も問題ないだろう。
「実は障壁破壊系に対抗できるスキルを持っているのですよ。詳細までは言えませんがそれで城壁破壊のハンマーの障壁破壊や貫通を防いだのです」
「なる程な。それで城壁破壊のハンマーが機能しなかったちゅうことやな」
頼みの障壁破壊系のスキルが無効化された以上、ロイン達は実力で障壁を破壊する必要があったのだが、実力不足のせいで破壊することは出来なかったからな。
「それと途中で回復が切れたんやが、あれは反撃の為なんか?」
「そうですね。相手の人数が多かったですので障壁を安定させる意味でも数を減らしたかったですからね」
相手の人数が多いとなるとサーラの強固な障壁と言えど負担が掛かるからな。流石に30人からの総攻撃を長時間耐え続けると障壁が破壊されるかもしれないからな。それなら、反撃して数を減らして負担を軽減した方が良いからな。
「なぁ、やっぱり本陣の護衛に人を割いた方が良かったんやないか?」
「そんなことはないぞ。むしろ短時間で相手本陣を削り切った方が負担が少なくなるからな」
リンウェルが本陣の人数を増やすように提案をしたのだが、それを断る。護衛の人数を増やすということは攻撃の戦力が減るということだからな。サーラ1人で耐えれそうにないのであれば増やして良いと思うが、耐えきれている以上はアーバスは本陣の人数を増やすよりも崩れる前に相手本陣を削り切った方がいいからな。
「アーバスくん、アミールさん。審判室へ来てください」
と1組の本陣であったことを話しているとシエスから呼び出しがかかる。メインはアーバスなのだろうが、アミールはクラス代表だから呼び出されたのだろう。
審判室に入るとロインとルーカスは先に呼び出されていたようで既に審判室で座っていたのである。アーバスとアミールはシエスに対面に座るように促されて着席する。
「お集まりの理由はわかりますね。今回の模擬戦の賭けの確認です」
とシエスは話しを始める。シエスは1組であった出来事について途中から聞いているのでこの場で内容の確認をするつもりみたいだな。
「学園長、その前に一言いいですか?」
とロインはシエスの話しを遮るように話を切り出す。シエスは話の途中ではあったものの、「いいですよ」と笑顔で返事をする。ただ、その目は一切笑ってはいないけどな。
「1組に不正疑惑があります。まずはそちらの検証をお願いしたいです」
「は?」
いきなりとんでもないことを言い出したロインをアミールはびっくりしたように見る。アーバスはそれを無言で聞いているだけで特に何か反応することはなかった。
「具体的にはどういう不正ですか?」
「封印魔法です。これにより城壁破壊のハンマーのスキルが使用不可能となり、サーラ嬢の障壁を破壊することを妨害されました」
封印魔法とはスキルを封印する魔法の1つでこれを受けた人は一定時間付与されているものも含めて魔法やスキルが使用不可能となるものである。代表戦や対抗戦などの学生大会ではHPを使った特殊なルールで試合をするのだが、その試合自体がスキルや魔法で構成させているので封印魔法を掛けられると攻撃を生身で受けることになり、最悪の場合は死に至ることから使用が禁止されているのである。
ロインは城壁破壊のハンマーのスキルが使えなかったのは封印魔法が理由と思っているので1組を不正で告発したのである。
「そんなことしてる理由ないでしょ」
「どうだか?アーバスならそれくらい可能だと思うけどね」
アミールは不正行為をしていないと確信を持って言うが、ロインはそれくらいで引き下がる訳がなく疑惑の目を向けながらアーバスの方を見る。アーバスは封印魔法を使えはするが不正行為をしなくても勝てるんだよな
「なる程。1組は反論がありますか?」
シエスが1組に対してそう言うとアーバスはアミールが話し始める前に手をアミールの顔の前に出して静止させる。
「まず、ロインの言う封印魔法ですが、確かに私は使用することは可能です」
というとロインは勝ち誇った顔をする。きっと封印魔法を使ったのだと思っているのだろうが、そんな訳無いだろ
「不動。このスキルを学園長は知っていますよね?」
「はい。それがどうかされましたか?」
とアーバスはシエスに不動について質問をする。不動のスキルは今はサーラも使えるがそれまではシエスしか使うことが出来ない特別な魔法だったのである。
アーバスの質問を理解していない2人を他所にアーバスはシエスに装飾品である指輪を渡す。
「入手場所は伏せますが、これは不動を習得できる指輪です」
「!?!?」
その言葉にシエスは明らかに動揺する。なんせシエスが不動を習得するのにそれなりの苦労があったと聞いているからな。それがまさか装飾品で習得できる物だったなんて思わなかっただろう。
「確かに不動が習得できますね」
「ということで城壁破壊のハンマーを無効化したのはこのスキルを付与していたこというで納得していただけますか?」
「そうですね。不動を付与されているのなら納得ですね」
とシエスはアーバスの言い分に納得する。会話についていけていない2人であったが
「待ってくれ。不正ではないということですか」
「はい。最も不動が付与されていたのは試合中に確認していますからね」
不動が習得できることに驚いたものの、サーラが不動を付与して障壁を展開していたことはシエスは知っていたみたいだな。シエスによって不正でないことを証明されたロインは何も言い返すことが出来ずに椅子に座ってしまう
「それでは模擬戦の結果、1組の勝利ということで2組はクラス代表の変更、及びクラスポイントを1組へ移行ということでよろしですね」
とシエスは高らかに宣言するのだった。




