286話 作戦会議、でもアーバスの様子がおかしい
「さて、会議を始めるぞ」
「って何してくれるねんアーバス。負けたらどないすんねん」
とアーバス達は普段通りに教室の席に着席するとアーバスが障壁を張って作戦会議を始める。一応アーバス達の席に盗聴用の魔道具を確認したがそんなものは見当たらなかった。流石のロインもそこまでは堕ちていないようだな。
「どうせ勝てるんだから安心しろ。その為に事前に作戦会議をしてただろ」
「そうやけど、向こうが有利なフィールドで戦うんやろ?それは不利やないんか」
どうやらリンウェルは相手の用意したフィールドで戦うのが嫌なようだった。アーバスとしては別にどうでもいいポイントだったので気にしていなかったのだが、リンウェルはそうではなかったらしい。
「そんなの代表戦本戦でもあり得ることだろ。優勝するんだったらそれでも勝たないといけないんだからこれくらいで負けられては困るしな」
相手の方が相性の良いフィールドなんで団体戦本戦でも同じことがあり得るからな。負けたら相手の方がフィールドとの相性が良かったなんていう言い訳は代表戦では通用しないので、その考えは今の内に改めた方がいいだろう。
「それで配置はどうするのですか?」
サーラが今回の模擬戦ので誰をどこに置くのかを聞いてくる。なんせ作戦は今まで通りであり、そこから変更するつもりはこの場いる全員する必要がないと思っているからな。
「そうだな。当初2組戦の時に使う予定だった作戦で行こうかな」
とアーバスはメンバーの配置が書かれていた紙を3人に渡す。これは元々アーバスがどのクラスが決勝へ上がって来てもいいように事前に想定していたものであり、それを3人に渡したのである。ちなみにこの配置はアーバスしか知らないので3人はこの場で初めて見ることになる。
「ほぼ総力戦みたいな配置やな。4年生とやった時と同じ配置に見えるで」
「丸々同じだぞ。2組相手は総力戦をしないと安全に勝てないからな」
アーバスが渡した作戦は本陣を大将のサーラ1人にして残りを前線に投入するという戦い方である。本当はサーラの周りに何人か残しておきたかったのだが、2組相手だと前線から何人か護衛に回しても不利になりかねないからな。それを考えると総力戦の構図にした方が戦いやすいだろうというのがアーバスの判断である。
「でも、この場合奇襲はどうするのですか。フィールドによってはあり得ますよね?」
と懸念するのは本陣に残るサーラである。今は朝の朝礼前なのでフィールドはまだ発表されていないのだが、フィールドによっては別働隊がサーラへ奇襲を掛けてくることだってあるだろう。
「奇襲に関しては俺がフォローするから気にしないでくれ。今回はちゃんと参加するからな」
サーラの奇襲に関してはアーバスが対応するつもりなのでサーラが奇襲で退場となることはないだろう。大将を1人に出来るのもアーバスが1人で奇襲を対処できるからということが大きいからな。
「アーバスが参加ってそれはそれで嫌な予感がするんやが」
「そうね。アーバス、私達にも活躍できる場所を残しておいてよね」
「うーん。それは無理な相談かもしれないな」
アーバスはアミールからの相談に対して厳しいと答える。普段ならアミール達の活躍の場を残すアーバスがそんなことを言うなんて珍しいなとアミールとサーラは思ってしまう。
「もしかしてなんやがアーバス、キレてるんか?」
「お、良くわかったな。昼休みまでには頭を冷やしておくつもりだから気にしないでくれ」
「むしろ逆に気にするやろ」
正直に答えるアーバスにリンウェルは思わず突っ込んでしまう。本人が昼休みまでに頭を冷やすとは言っているのでそこまで気にする程ではないだろうが、冷静にキレているアーバスに対してこれが今から試合じゃなくて良かったとリンウェルは安堵する。
もし、今から模擬戦となっていたらリンウェルどころかアミールの出番すら来る前にアーバスによって全滅して試合が終わっていただろう。
「アーバス、そんな状態で作戦会議なんて出来るのですか?」
「出来る訳がないだろ。だから今やっているのは事前に予定していた作戦を共有しているだけだ」
アーバス自身も自分が冷静でないことは理解しているので、この朝礼前の作戦会議では団体戦の時に用意していたものだけを使うつもりなようだ。それにフィールドがわかっていない以上、フィールドの特性を見て運用を決めることが出来ないからな。
「それなら大丈夫よね?無謀な作戦なんてアーバスらしくないもの」
「そうやな。ここまでは事前に想定してたものと変わらんからウチも反対するつもりはないしな」
リンウェルもここまでは団体戦の時の事前会議と同じ内容なので特に何か言うつもりはないようだった。強いて言うならアーバスが前線で暴れることくらいだろうがその程度でアーバスが退場することはないのは知っているので聞くだけにするみたいだ。
「それにしてもロインは凄いことをしたわね。正気かしら」
「正気じゃないだろ。じゃないとあんな提案はしないだろうしな」
何せアーバスが居なければ自分達の方が上だと言い切るくらいには血迷っているからな。対抗戦終了してすぐならその評価でもわからなくないが、団体戦で対戦したことのあるクラスならその考えがどれだけ甘かったか身に沁みたはずである。実際に対戦したターニーとクロエはアミールとリンウェルが短期間で更に強くなっていると思っていなく、その圧倒的な強さになす術が無かったからな。
「やっぱりそうやんな。原因はやっぱり代表戦の結果なんか?」
「多分そうだろうな。まさか代表戦に出れるのがクラスメイト1人だけとは思っていなかったのだろうしな」
その原因としてはやはり代表戦の大敗北だろうな。何せ団体戦は準決勝落ちな上に個人戦は1回戦負けだったからな。個人戦に関しては運が悪かっただけだが、成績だけで見れば自身が格下と思っていたクロロトに追い越されるなんて思っても居なかっただろうからそのショックは計り知れないものだろう。
しかも、自分は取れるだろうと思っていた近接戦の推薦枠も4組のアカネに持っていかれたからな。しかも、そのアカネを推薦したのがアミールだったのでアミールから推薦されると思っていたロインからしてみれば衝撃だったに違いない。何せ、ワザと外したのではないかと疑ってロインはアミール本人に直接聞きにいったみたいだしな。
アーバスも一番強かったサポーネを推薦したのだが、他のクラスでサポーネより強い相手がいたらアーバスはそっちを推薦して2組から誰も選ばれずといった事態になっていたかもしれないしな。
「でも、だからといってこれは間違っていると思いますけどね」
「そうだな。しかも、俺的に結構無理そうな条件を提示したのにまさかそれを承諾すると思っていなかったな」
なんせ普段の冷静なロインなら断ることが確実なものだからな。それをアーバスはそれくらいは当たり前かのように振る舞った上に冷静なクラスメイト達に相談すらさせなかったからな。
本来ならそうしたことはしないのだが、3組と協定を結んだ時にロインは散々解消しろと言ってきたからな。今回の分を含めてこれ以上ロインがクラス代表として関わってくることにアーバス自身が限界に達してしまったので、これ以上接触されないような条件を提示したのである。
「ま、負けて反省するといいわ。流石に今回ので懲りるでしょう」
アミールはそんなことを言う。アミールも普通に振る舞っているように見えるが反省しろと言っている辺り内心は相当怒っているみたいだな。他の1組もクラスメイトも口には出していないが、内心は同じ気持ちだろう。
(頼むからいい勝負をしてくれよ)
とアーバスは2組に対してそう思うのだった。




