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275話 癖

「今日は時間だからここで終わりだ」


アーバスはアミールが気絶から復帰したのを確認してそう告げる。時刻は18時前であれから復帰する度に模擬戦を繰り返し合計で12戦行い全てアーバスが勝利で終わる。アミールはアリーナに置いてある時計を確認した後、力尽きたように力を抜いてその場に倒れ込む。


「完敗ね」


「初日だからな」


完全敗北を宣言するアミールにアーバスは初日だから仕方ないといったように励ます。なんせ使う魔法が限られているとはいえアーバスも制約の中で全力で戦っているのだからそうなるだろう。


「バフと属性付与だけで負けるとは思わないじゃない。しかも、無属性の属性付与を使ってないんでしょ」


「そうだな。何なら特殊属性の全てが使えないからな」


アミールはどうやらバフと属性付与だけに完敗するとは思っていなかったらしく、初日で一回で倒したかったみたいだがそこは経験の差が出たな。しかも、アーバスの得意属性である無属性や麻痺や睡眠といった特殊属性も使用せずにアーバスが勝ったしな。


「はぁ、なんでそんな状態のアーバスに勝てないのかしら」


「そりゃ、氷属性とカウンターに頼った防御だからだな。攻撃に対して守備の幅が少なすぎるんだよ」


今日の模擬戦ではやはりアーバスが予想した通りアミールの防戦時の対処の仕方が非常に甘いところが目立ったな。アミールの守り方はやはり氷属性主体の守り方に依存しており、2戦目以降は氷属性の出力を上げて意地でも氷属性で有利を取りたいみたいだったが、その氷を尽く炎属性で溶かすとカウンター狙いの戦い方しか出来なかったからな。そのカウンターもアーバスに読まれており、カウンターにカウンターを合わされての負けるというのが残りの試合の主な流れであった。


「守備ですか、確かにそれは意外な弱点ですね」


「氷属性とカウンター重視の守備だから悪くはないんだけどな。ただ、見切られた時にそれ以上の引き出しがないのが問題だな」


守備の方向性で見れば悪い方ではないのだが、それが見破られた時に選択肢がないのが良くないところだな。これはアミール自身が押し負ける経験が殆どないことが原因なのだろうが、その守備をそろそろ改善させておかないと守備がサーラの障壁頼みになってしまうからな。


「それとモンスターによってはワザと隙を見せてそこを狙ってきたのをカウンターするというのもいるから隙があったとしてもそこを狙うのが必ず良いということではないぞ」


冒険者を始めた頃にそう教わる人もいるらしいのだが、高ランクモンスターになるとカウンターを狙ってくるモンスターもいるからな。そういったモンスターは初見殺しとして事前に警告されることもあるが、警告されない時もあるので言われてないからといっても警戒しておいて損はないだろう。


「アーバス、もしかして今日見せていた癖ってそうなの?」


「あれは元からのものだが改善済だな。今はそこを狙っきたのに対してカウンター出来るようにしているな」


アーバス自身も完璧に癖がないということはなく、これまでに何度か癖を直したがその度に新しい癖が出来るといういたちごっこだったのである。それに嫌気が差したアーバスは癖を直すのではなくむしろそれを利用して狙ってきた敵にカウンターを入れることにしたのである。


「あの癖って対策済だったのね。狙ったつもりだったけど上手くいかないのはそういうことだったのね」


「そうだな。癖を見抜いたことは褒めてもいいが、それを狙うにしてもワンパターン過ぎるしな」


何せそこに対して鋭い一撃を入れるということしか考えて無かったみたいだったからな。CランクやBランク冒険者だとそれで勝てるが、アーバスにはそれが通用しないからな。


「それでもですよ。普通は癖を放置して改善とかしませんよ」


「そうは言っても改善はしておかないと癖を狙われるからな」


隙というのは他人を始めとした誰かに言われないと気づかないものだからな。アーバスの場合はしょっちゅう模擬戦をしていたバルファーティアに指摘されていたので理解していただけである。


「ちなみに私も癖ってあるの?」


「あるぞ。カウンターみたいに速くて鋭い攻撃をする時だけ右足が前でその足先に力が入るな」


とアーバスはアミールの癖を流れのままに言う。アミールの力の入る攻撃は聞き手である右手からの振り抜きでその為の予備動作として右足を踏み出してその足先に力を入れるのである。普通の前衛であればそれを試合中に見抜くのは不可能なのだが、アーバスは試合中も索敵が出来るので目で見えてなくても索敵でその予備動作を確認することが可能なのである。


「そうなの!?知らなかったわ」


「誰も気付いてないみたいけどな」


この癖に対して他のクラスは今まで何も対策をして来なかったのでそれを知らないかもしくは知っているが対策が出来ないかのどちらかだろうな。


「それは修正しないといけないわね」


「今はしなくても大丈夫だぞ。修正しようとしてフォームを崩す方が良くないからな」


今はフォームの修正よりも防戦の時の戦い方を考える方が先だからな。そっちの方が癖よりも余程大事な上に今後も使えるからな。フォームの修正はするのは良いのだがそれで癖で直るとは限らないし、修正しようとして更に増えたり失敗して前よりも弱くなったりすることがあるのであまり積極的にやらないほうがいいからな。

アーバスも過去に癖を直そうとして失敗してフォームを崩したことがあるからな。そこから元のフォームに戻すのに結構時間が掛かったのでそこからは殆ど修正することは無くなったな。


「ということは私にも癖があるのですね」


「あるにはあるがサーラは後衛だから修正する必要がないだろ」


サーラにも癖があるにはあるが、後衛の魔法師は障壁が割られない限りは近接戦をすることが皆無だし、戦闘のある時は前衛とのレベル差が開き過ぎているので攻撃や防御に癖があったとしても誤差のレベルにしか影響が出ないからな。なので前衛を兼任しない限りは癖を直す理由がないのである。


「サーラはそれでいいじゃない。なんでそんな大きな癖があるのに放置なのよ。直したら良いに決まってるじゃない」


そんなアーバスの経験談はさておき、アミールとしては癖があるならフォームを修正しておきたいみたいだな。


「今のアミールのフォームは無駄が無いからな。ここから修正するとなると俺でも難しいな」


アーバスもメルファスやトゥールに所属している人間から癖の発見と修正を依頼されることがあるのだが、無駄の無いフォームを使っている人間なんて殆どいないからな。それなのでアーバスとしてはここから変えるのは勿体ないので何も弄って欲しくないな。


「じゃあこの癖はどうするのよ?」


「それに関しては案があるが、今はそっちを試している場合じゃないから放っておく」


「放っておくって、本当にそれでいいの?」


「あぁ。今のアミールにはまだ早いからな」


なんせ優先順位が違うからな。それにこの練習をしていく中で新たな癖も発見するかもしれないから一定のレベルに行くまではフォームの修正はしないつもりである。


「だから明日以降の為に今日みたいに防戦一方になった時の対処法を考えておいてくれ。出ないと何時まで経っても勝つことが出来ないぞ」


とアーバスはアミールに忠告をしておく。このまま解散したらフォーム修正のことばかり考えてそうだからな。アーバスはそうしてアミールに対処法を考えることに集中させるようにすると今日は解散したのである。

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