252話 エキシビション(アミール視点)
私が入口を潜り抜けるとアリーナに大歓声が巻き上がる。決勝戦は既に終わり私達の試合はエキシビション扱いなのだけど観客は帰っている様子はなく、むしろこの試合を見るために集まったのではないかと錯覚するくらいだった。
私はアリーナの中央へと歩きながらふと反対方向を見ると対戦相手であるリンウェルも同じようにこちらへと歩いているのが見えた。その表情には自信ありと言わんばかりで何かあるのは明白だった。
(これはアーバスが何か仕込んだわね)
何処かでサーラと一緒に見てるであろうパーティーリーダーがニヤニヤしながら見ていると思うとムカついてくる。一体どういったものを仕込んだのかはわからないが、警戒しておかないといけないだろう。
「リンウェル、いい試合にしましょうね」
「そうやな。今日こそは勝たしてもらうで」
中央で試合開始前の握手をする際にリンウェルとそんなやり取りをする。団体戦などの隙間時間にリンウェルと模擬戦をしていたが、その試合は全て私が勝っているので私が有利のはずなのだがやはりリンウェルにはどこか自信があるように感じたのだ。普段の団体戦だと少し緊張感を持っているはずなのに自信しかないその顔に私はやはり何か策があるのだなと確信する。
(何を考えてきたのかは知らないけど今回も勝つわよ)
私が定位置に着くとリンウェルともほぼ同時についたようで私達は戦闘の態勢へと入る。さっきまで上がっていた地鳴りのような歓声も試合に集中してくに連れて聞こえなくなっていく。そして観客の声が全く聞こえなくなったタイミングでカウントダウンが終了し、試合開始のブザーが鳴り響く。
(属性融合。今回も成功ね)
私は氷刀に氷属性と雷属性を融合させて氷刀に付与させる。2属性の属性融合は3組戦の時にダメ元でやって成功してからは一度も失敗せずに付与することが出来ていたので、2属性の属性融合は習得出来たのかもしれないわね。
「えっ」
「どうしたんやアミール。そんなに驚いて」
私が付与を確認して顔を上げるとリンウェルの槍にも属性付与が掛かっていたのだが、まさかの2属性付与されていたのだった。
「属性融合!?リンウェルいつの間に習得したのよ」
「昨日や。死ぬ気で特訓したんやらな」
リンウェルは胸を張ってそう答える。決勝戦このタイミングで属性融合を習得してしかも隠してくるなんて思ってもいなかった。
(でも、そのせいで属性の相性は五分ね)
リンウェルが雷属性のみなら氷属性を使う分私の方が不利になるのだけれど、2属性の属性付与となるとリンウェルは炎属性が追加になるのでお互いに有利属性が1つずつとなるわね。その分2属性付与の威力の増加は相殺されてしまうのは仕方ないわね。不利属性を威力の増加で補おうとした私の作戦は失敗といったところね。
「でも、こっちが有利なことには変わりないわ」
私は身体強化を付与すると一気に距離を詰めて一気に振り抜く。身体強化に加えて最近だと雷属性を使った身体強化も加えているので踏み込みと振り抜きの速度も速く人によってはこれだけで勝負が決まってしまう速度である。
(貰ったわね)
私は振り抜くと同時に勝利を確信する。私の攻撃速度にリンウェルは反応出来ていないからである。リンウェルとの模擬戦ではここから返せる手段が無く、私もそれを理解していたのでこの一撃で勝負が決まるだろう。
「それは愚直すぎるんやないか?」
リンウェルはそう言いながら私の剣に合わせて槍を振って氷刀を弾く。弾かれると思っていなかった私の身体は重心が右側に傾く形でバランスを崩す。
「隙ありや」
リンウェルは素早く槍を戻すと、バランスを崩した私に向けて突きを放ってくる。それを私は傾いた重心を利用して右へステップすることによって間一髪のところで回避をする。
「まだまだぁっ」
リンウェルは突きを外すと伸び切った槍で薙ぎ払ってくるが、それを私は予想していたのでステップでバランスを立て直してすぐに更に横に飛んでリンウェルの槍の射程圏から脱出することで攻撃を躱す。ただ、躱したといってもギリギリなところで私の身体から十数センチ先のところを槍が通過していった。
(危なかったわね)
リンウェルからの追撃が一旦途切れて仕切り直しとなると私はさっきの攻防について考える。最初の攻撃が入ったと錯覚した私はそこで気を抜いていたのかリンウェルに対して隙を見せてしまい、そこをカウンターされて負ける一歩手前までなってしまったのだ。リンウェルの突きを回避出来たのもほぼ全力でバフを掛けていたからで、もし余裕だからと雷属性の付与を掛けていなかったらあの突きを避けれずに退場しただろう。そして何よりも
(完全に対策をしてきたわね)
最初の攻撃も模擬戦のリンウェルなら確実に入っていた攻撃だ。それがカウンターされるということは今までは手を抜いていたと考えていいだろう。その上でリンウェルはアミールに勝てるように対策をしてきたということだろう。
(やけに自信があったのはそういうことね)
私のことをだいぶと研究したから勝つ見込みがあるということだろう。確かに模擬戦でも全力だった私にはリンウェルに対して隠し札は殆ど残っていないだろう。
「なんやアミール。万策尽きたか?」
「そんな訳ないでしょ。それくらい乗り越えられるわよ」
多少研究されたからどうした?手の内がバレていても相手は格下だ。こんなところで負けているようでは目標にはいつまで経っても近づけないだろう。
私は大振りは無理だと判断して手数でリンウェルを崩しにかかる。相手は雷属性に対してこちらは氷属性だ。槍さえ凍らせてしまえば動きが鈍くなって押し切れるだろう
「アミール、手数でウチの槍を凍らそうってか?こっちは炎属性で氷は溶かせるから連撃も対策済みやで」
「また厄介なことをしてきたわね」
リンウェルはもう一つの属性である炎属性の付与によって私の攻撃によってついた氷を即座に溶かして対応してきたのである。これにより氷で動きを鈍らせるという作戦が頓挫した上にリンウェルは私の連撃すら対策済みなのか攻撃に対して最小限の動きで攻撃を捌いており、時々混ぜる力を入れた攻撃も全て対処される。
「そんなもん全て模擬戦から学んで対策済みやで。その威力のある攻撃も足のモーションを見ればわかるんやからな」
「まさかここまでやるとはね」
ここまでの完璧な対策に私としても特に打開策が無くなってきており、技術だけではリンウェルに対して打つ手なしといったところである。
「じゃあ、これはどうかしら」
と私は氷刀に更に氷属性の魔力を注いで氷刀を強化する。強化されは氷刀は刀身に氷を纏ってその密度を濃くしていく。
「はあっ」
「それはお見通しやで」
私の振るった剣にリンウェルは問題ないかのように槍で弾く。私は防がれるが、すぐにもう一度攻撃を加えて連撃で再度リンウェルを攻めていく。
「そんな同じ手何度も聞くわけ…………」
と同じ手で意味がないとリンウェルは思ったのだろうが、槍の先にはしっかりと氷が付着しており、一撃一撃と攻撃を防ぐに連れてその氷はどんどんと大きさを増していく。
「どないやっとるんやこれは」
「氷属性の出力を上げて溶けにくいようにしただけよ」
氷が溶かされるのなら溶けない強度の氷を作って打ち勝ったら問題ないのよ。出力の差で勝った私の氷はついにリンウェルの防御が鈍るくらいにまで成長すると、私は温存していた最後のバフを使ってリンウェルの槍を弾き飛ばす。
「くっそおぉっ」
「いい試合だったわ。でもこれで決着よ」
リンウェルは防御が間に合わずに槍を叩き落とさせると悔しい声を上げる。私はそんなリンウェルに一撃を浴びせるとリンウェルは退場して試合終了のブザーが鳴ったのであった。




