243話 宴会場にて
「ほォ、天使が奇襲してくるとはァ思わなかったな」
「そうですね。来るならシヴドラの残党かと思っていましたね」
アーバスからの報告に二人は予想外に思いながら奇襲に備えてリーゼロッテは周囲に僅かな気配が無いかどうか確認を行う。
「主が対応してるんだァ、周囲を探っても無駄だと思うぜェ」
「ですが別働隊が来るなんてことがありますからね。警戒して損はないはずです」
とバルファーティアがリーゼロッテに声を掛ける。アーバスが個人ではなくキリコを連れて対応に当たるということは敵の天使はそこそこな数がいるのだろうが、キリコだけということは2人で対処可能な数ということだろう。
この会場への奇襲に備えてリーゼロッテとバルファーティアを残したということも考えられるが、アーバスなら討ち漏らしがないように対処をするはずなので転移でやって来ない限りはリーゼロッテとバルファーティアの出番はないだろう。
「師匠どうされましたか?」
「丁度いいところに来ましたね」
リーゼロッテとバルファーティアが真剣な様子で考えているのが見えたのかミラガロスがリーゼロッテの元へとやってきたのだ。リーゼロッテは丁度いいと言わんばかりに現在の状況と今後あり得ることについてミラガロスに話す。
「なる程。ドラゴン達のことは私が話をして対応を纏めておきましょう」
「助かります。迎撃はこちらでしますので手を出さないでくれると有り難いです」
ミラガロスがそう言ってくれているのでリーゼロッテはドラゴンのことについてはミラガロスにお願いをする。ルー達はリーゼロッテの話を素直に聞いてくれるだろうが、他のドラゴンはそうもいかないだろうから長老の立ち位置にいるミラガロスなら問題なく話を聞かせることができるだろう。
そして、ドラゴン達に手出し無用と伝えたのは上位天使相手だとドラゴン達であっても太刀打ち出来ないからである。アーバスのことだからこの戦いでドラゴンの犠牲は望んでいないはずだろうから、リーゼロッテとバルファーティアの主目標はドラゴンの犠牲を出さずに相手を倒すことだろう。
「リーゼロッテェ、主の戦況はどうなってやがるゥ」
「優勢ですね。殲滅できるのも時間の問題ですかね」
ミラガロスとバルファーティアがドラゴン達に状況の話をし終わって戻ってきたタイミングで戦況を聞かれたので包み隠さずに答える。
「倒せそうかァ。ならこっちは杞憂ってことだなァ」
「そうでもないですね。肝心の上位天使が姿を現してませんのでそれまでは安心出来ませんね」
ドラゴン達に危害が加わりそうにない状況にバルファーティアは安堵するが、リーゼロッテはそうではなくむしろこれからだと感じていた。今回の天使の数を見るに大規模の襲撃といっていいくらいだろう。なんせ天使の数が40体を超えると上位天使が1体いるのだ。100体いる今回の襲撃では上位天使が複数体いても不思議ではないだろう。
(それどころか。複数部隊での襲撃なんてのもあり得ますね)
これまで大規模な襲撃ならこのドラゴン達の宴会の情報は事前に漏れていたといっていいだろう。アーバス達の出席まで想定されているかはわからないが、天界は集まったドラゴン達を屠る為に戦力を寄越したに違いないだろう。そう予測すればアーバスの方が揺動でこちらに本隊ということもあり得るだろう。
そして、アーバスが対処している天使の数が残り1/4になったところで上空の時空が歪みそこから2体の天使が現れる。
「来たわね」
遠目から見ただけでわかる上位天使の登場にリーゼロッテは少し熟考する。アーバスの方にも上位天使が出現しており、アーバスが対処していることからアーバスがこちらへと応援へ来ることはないだろう。そして上位天使が2体ということは最低でも天使が80体は出てくることからバルファーティアだけでの対処は難しくリーゼロッテも参加しないと上位天使を処理することが出来ないだろう。
(そうなればミラガロスとルーに任せるしかないわね)
リーゼロッテはドラゴンを護るよりも天使を狩るべく一歩前に出ようとするがそれを手で静止させる人物が現れる。
「リーゼロッテさんよォ、これは俺の獲物だァ。お前はドラゴン達でも護っておきなァ」
というのはバルファーティアだ。バルファーティアはどうやらこの状況でも1人で戦える自信があるらしい。
「そうですか。バルファーティア任せましたよ」
リーゼロッテはそんなバルファーティアを信じてか天使達と戦闘することを辞めてドラゴン達を護るべく動き出す。
「我等15柱の2人がやって来たというのに1人で戦う愚か者がいるとは思いませんでしたよ」
「そうほざいてないで掛かって来いよ。雑魚共が」
「そうですか、なら15柱の力を見せてあげましょう」
と上位天使はの1人がバルファーティアに実力を見せつけるべく魔法陣を展開する。上位天使は見せつけるかのように聖属性の光を魔法陣の前に集めて1つの球体を作る。恐らくこれを放って一撃で決めるのだろう。
「貴様らァ。漢なら正々堂々と戦えェ」
とバルファーティアは叫ぶように咆哮すると右足を思いっきり地面へ叩きつける。普通なら負け惜しみとも言えるその発言に魔法を準備する上位天使は勝ち誇ったような表情を浮かべる。
「な゛っ。アァァァァァァァァァッ」
「セラシン!?」
魔法の発動準備をしていた上位天使セラシンがバルファーティアの咆哮の後に突如として揚力を失って地面へと叩きつけられる。セラシンは勝ったと慢心していたのか落下の際に満足に受け身を取ることが出来ずに着地と同時にスタン状態へと陥る。バルファーティアはセラシンの元へ高速で移動すると、既にアイテムボックスから出していた大剣を振りかぶっていた。
「ダリャァァァァァァァァッ」
バルファーティアは大剣に自身の魔力を注入すると勢いのままにセラシンへ大剣を振り抜く。大剣はセラシンの首を跳ね飛ばすとセラシンの首から下の胴体から大量の血を吹き出して絶命する。
「貴様ァァァァァっ。今度はこのセルザラが相手だ」
相方であるセラシンが葬られたことにセルザラは激昂し、バルファーティアを屠るべく大量に魔法陣を展開する。ただ、先程のセラシンのこともあってかセルザラは地面へと着地した状態で展開するだけの理性は持ち合わせていたようだった。
「マジックブレイクゥゥゥゥッ」
バルファーティアは展開された魔法陣に向けて大剣を振るとその衝撃波で展開されていた魔法陣全てが叩き割られる。
「何だとぉ」
一撃で破壊された魔法陣にセルザラは驚きはするが、もう一度魔法陣を展開して対処しようとするがこれもバルファーティアのマジックブレイクによって全て叩き割られてしまう。
「クソッ」
「バックブラックゥゥゥッ」
2度の魔法陣の破壊により近距離まで詰められたセルザラは距離を取る為に魔法で後ろへと飛ぼうとするが、それもバルファーティアによって破壊されてしまう。
「魔法が尽くだと…貴様何者だ」
「死にゆく者に名乗る名などないのだが、冥土の土産に特別に教えてやろゥ」
自身の魔法を尽く破壊され、何も抵抗出来なくなったセルザラは降参したかのようにバルファーティアに話しかける。バルファーティアはセルザラの元へとゆっくりと近づいてその大剣を振りかぶると
「我が名はバルファーティア・ブラック。天界の咎人よ」
バルファーティアはそう言い終えるとセルザラの首を跳ね飛ばして戦いを終わらせるのだった。




