241話 襲撃と迎撃
「主、少しお話が」
「キリコどうした?」
アーバスがミラガロスと話しているとキリコが唐突に会話へと割って入ってきた。アーバスは後をリーゼロッテに任せると宴会の片隅へと移動する。
「主、お気づきかと思いますが、こちらへ天使の大群が近づいております」
「みたいだな。狙いはドラゴン達か?」
「詳細まではわかりませんがそうでしょうね」
今いるガロス山の100キロ南のところをこちらへと向かってきていたのだ。アーバスもキリコに言われる少し前から気づいており、どのタイミングで抜けようかと思っていたので丁度良かったタイミングだ。
「天使ということは天界か。アイツらも懲りないな」
「魔界と違って情勢が安定していますからね。それでいて柱の者達は人間を見下していますからね」
天界とはその名前の通り天空にある別世界とのことでその存在は人間から見ると魔界とあまり変わりがないような存在だ。魔界と違うところは天界は自分達が1番だと思っている存在であり、天罰と称して人間界へ定期的へ兵を出して、虐殺しているところである。それに対してリリファス達勇者パーティーやトゥールも迎撃して天界へ送り返しているのだが、損害が少ない為か魔界よりも多い頻度でこちらへとやってくるのだ。
「キリコ、次元艦隊総出で迎撃するぞ」
「はい。アーバス様はどうしますか?」
「俺も出る。ここの守りはリーゼロッテとバルファーティアに任せておけば十分だろう」
アーバスはその場でリーゼロッテとバルファーティアに通信で迎撃しにいくことを伝えるとキリコを連れて飛行魔法で次元艦隊旗艦へと戻っていく。
「総統閣下。お帰りなさいませ」
「艦長、敵の位置と数は?」
「敵は南西に90キロ。数は100です」
「結構な大部隊ですね」
キリコは相手の数を確認すると艦隊の配置について考えだす。相手の数は100なので戦闘機を出せば有利に戦えるのだが、天使というのは1体だけでSランクモンスター2体分に相当するくらいには強いモンスターなので1体に対して戦闘機を複数機当てる必要があるだろう。今回エンタープライズ級は3隻なので半分を出撃に回すとして450機になるので一体に対して4機で対処するのが限界だろうな。
「キリコ、対処出来そうか?」
「可能ですが先に数を減らしてから戦闘したいですね」
戦闘機だけで対処は出来るみたいだが、今のままでは損害が大きいみたいだな。どれくらい減らせばいいのかはわからないがそれくらいなら協力できるな。
「なら、主砲での一斉射で削ろうか。俺も一緒に攻撃するから効果があるはずだ」
主砲での遠距離攻撃なら全滅まではいかないがある程度のモンスターは削れるだろう。次元艦隊の主砲だけでも相当削れるだろうが、アーバスが協力すれば更に数を減らせることができるだろう。
「それでいきましょう。艦長、どの地点が適切ですか?」
「迎撃地点はガロス山から70キロ地点が良いでしょう。我々は40キロ地点から撃てればこちらへ攻撃出来ない距離で迎撃できるはずであります」
「だそうです。主はそれで問題ありませんか」
「大丈夫だ。艦長の案でいこう」
30キロ先なら問題なくアーバスの魔法も届くからな。ルディック村の時は50キロ先のドラゴンを迎撃したが、今回が30キロ先なのは戦闘機の航続距離や戦闘の柔軟性からなんだろうな。
「艦長、作戦を承認します。直ぐに準備を」
「はっ。10分後に迎撃戦闘機を発艦させた後に一斉射を行います」
どうやら移動と発艦準備が10分で済むらしい。毎回思うのだが次元艦隊の戦闘機は1回の発艦で150機も出すのに時間は10分も掛かってないのが凄いんだよな。
「わかりました。主、ご準備を」
「わかった。艦長、艦橋屋上を使うが構わないか?」
「どうぞ。お使いください」
アーバスは艦橋の屋上部を魔法を撃つために使いたいので艦長から使用許可をもらう。それが駄目なら主砲の上から撃つつもりだったが、それだと主砲の攻撃を巻き込んだり、主砲自体にアーバスの魔法が当たったりしかねなかったので許可されたことでほっとする。
「キリコ、行ってくる。通信は魔道具にて行うのでそのつもりで頼む」
「はい。主、いってらっしゃいませ」
アーバスはそのままエレベーターへと移動すると1番上の階のボタンを押して屋上へと上がっていく。王城ならこんなものは付いていないので階段をひたすら登らないといけないのだが、次元艦隊はそれもボタンを押せば自動で登ってくれるから有り難いな。
(もう到着したか。速いな)
屋上へ到達すると旗艦であるヤマトは既に発射地点に到着しているのか移動を終えて主砲の角度を調整をしているところだった。次元艦隊のフィールド内からだと光学迷彩が掛かっていても他の次元艦隊の様子が目視で見えるようで、エンタープライズ級では次と艦内から戦闘機が甲板へと上がって来て発艦に向けた準備をしているようだった。
「主、聞こえますか?」
「聞こえているぞ。通信は良好だ」
アーバスがその様子を見ているとキリコから通信が飛んでくる。アーバスは通信がはっきりと聞こえていることを確認するとキリコへ返答する。
「これより、戦闘機を発艦させます。発艦終了前に連絡しますので、そのタイミングで準備をお願いします」
「わかった。直ぐに始めてくれ」
アーバスがそう言うとキリコが指示を出したのかエンタープライズ級から次々と戦闘機が発艦し始める。
(思ったよりも速くないか。キリコの奴無理してないか?)
エンタープライズ級は先端から交互に戦闘機を発艦しているのだが、その間隔はアーバスが見た限りでは3秒に1機というペースで発艦していたのだ。そんな間隔で発艦しているのでアーバスからするとぶつからないか心配になってくるのだが、そこは次元艦隊なのだろう。この間隔でも危ないと思うような場面を見せることはなく次々と戦闘機を発艦させていく。そんな場面を見ながら凡そ半数くらいだろうか、それくらいの戦闘機が迎撃に上がったタイミングで旗艦であるヤマトの主砲が変化し、砲身の中からレーザー砲が姿を現す。
(そろそろ準備するか)
それを見てアーバスも一斉射に合わせて放つ魔法の準備を始める。まずは、右手の中指に魔力を込めると虹色の指輪が出現する。これが契約の指輪で契約の指輪はその特徴によって輝きが違うのが特徴で、リリファスは契約の指輪は赤色だったのに対してアーバスの契約の指輪は虹色に輝いている。
(さて、生まれ変わった魔法の威力を確認するか)
アーバスは各属性の魔法陣を出現させて魔力球を作ると、それを属性融合を使って1つの魔法へと融合させていく。
(やっぱり契約の指輪がないとこれは安定しないな)
アーバスは何回かアリーナでアミール達に隠れてそっそり属性融合を練習していたのだが、魔力が足りずに失敗して一度も成功することがなかったのだが、契約の指輪により無限の魔力を得たアーバスは魔力が尽きることなく次々と属性を融合させていく。
(ここまでは完璧だな)
アーバスは全属性を融合し終わるとそこには虹色に輝く魔力球が出来上がる。これがアーバスの切り札で、この魔法こそがアーバスが最強と言われる象徴的なものでもあった。
(だが今の俺は更に進化したからな)
アーバスは更に魔法陣を展開し、虹属性の魔力球を作るとそれを属性融合が追加させる。
(成功したな)
融合された2つの虹は合わさって青白い魔力球へと変貌する。これが新しいアーバスの切り札で、まだ成功率は100%ではないものの、高確率で作れるくらいには裏でこっそり練習していたのだ。
「主、準備は出来ましたか?」
「あぁ。いつでもいいぞ」
アーバスが属性融合を終わらせるのを待っていたのか属性融合し終えたタイミングでキリコが通信で話しかけてくる。戦闘機は今まさに発艦し終えたようでこれから主砲による一斉射が始まるのだろう
「よーい。撃てー」
キリコの号令と共にアーバスは魔法を放つ。放たれた魔法は次元艦隊の主砲と共に飛んでいき、天使達へと直撃するのだった。




