22話 初めての探索を終えて
「これからどうします?」
レベル6をクリアして入口へと戻るとサーラがそんなことを言い出した。時間的に残り1時間半、このままレベル7に行くのもいいが恐らく5層目に辿り着くのは難しいだろう。
「レベル7へ行くにしても中途半端だな」
「そうね。明日にしましょうか」
「ですね。換金とかはどうしますか」
「アミール達に任せるよ。この後予定があるからな」
今日の攻略は早いがこれで終わり。レベル7はまた明日とのことだ。換金はアミール達に任せても問題ないだろう。別にアーバスはお金に困っているわけではないしな
「そうですね。アーバスくんは私との予定がありますもんね」
「シエス…学園長」
「学園長お久しぶりです」
「お久しぶりですね、アミールさん。ちょっとアーバスくんを借りていっていいですか?」
シエスはいつもにも増して笑顔なように見える。が、これ確実に怒ってるよな。報告すると言ったがそれはエクストリームの攻略時間が終わってからだ。こんな時間にクリアしたタイミングを見計らって来るなんて普通じゃあり得ない。
「えっ、えぇ。どうぞ」
シエスの迫力に押されてか、アミールは顔を引きつりながら承諾する。
「ありがとうございます。アーバスくん。私は転移で先に行ってますので直ぐに来てくださいね。くれぐれもダンジョンへ行かないように」
そう言い残すとシエスは転移で学園長室へと戻っていく。アーバスも転移を使えるのだが、この場では非常に目立つ。それもあって転移を使わずに徒歩で学園長室へ来いとのことだろう。
「ということだ。行ってくる」
「何があったは知らないけどアーバスも学園長を怒らせるのは程々にね」
アミールがそんなことを行ってくる。失礼な。イレギュラーと遭遇しただけでシエスの怒るようなことはしてないぞ多分。
アーバスはアミール達と解散するとそのまま寄り道もすることはなく学園長室へと直行する。アーバスはドアをノックすると入っていいとのことだったので入室する。
「よく来たわね。ちょっとそこに座りましょうか」
アーバスは言われたソファーに座るとシエスはその対面に座る。
「アーバス、さっきまでどのレベルのダンジョンに行ってたのでしょうか?」
「…」
口調は相変わらずで顔もいつと通り優しい顔だが、目が完全に笑っていない。
「無言はエクストリームに行ったと捉えるわよ」
「ブハッ。それはない」
アミールとサーラと一緒にエクストリームに行ったらワンパンどころか掠っただけで退場になるわ
「で?いくつなの?」
「レベル6だよ」
「ショートカットしたわね」
シエスの目が更に冷たくなる。この世界のショートカットに対する評価は実は良くなかったりする。なんそショートカットのせいで強化された敵が倒せなくなりそのせいで攻略が詰んでしまうという報告が良くあるからな。
「初心者ダンジョンだと時間を無駄に浪費するだけだしな。レベル6くらいまで開放出来そうな敵を選んだだけだ」
「その影響で本来得られるはずの魔力が得られないのはわかってる?」
「あぁ。それを考慮しても先のレベルでやることの方が伸びると判断しただけだ」
敵を倒すと魔力が増えるが、それは未踏破の場合だけだ。1度攻略した階層やその下のレベルだといくら倒しても魔力が得られないと言われている。なのでエクストリームまで開放されているアーバスはノーマルやハードダンジョンへ行っても一切魔力を貰うことができないのである。
「とりあえず、今日の報告を聞いてもいいかしら」
「エクストリームはまだ行ってないぞ」
「いいから」
シエスに圧倒され、アーバスは今日起きたことについて説明していく。シエスは全てを聞き終えるとため息を1つ吐き
「レベル2にハイオーク、レベル6にスライムキングねぇ」
「道中にいたのはスライムキングだけだな」
シエスが頭を抱えていたのでアーバスは補足をする。ハイオークは隠し扉だしな。隠し扉はボス部屋以外の各層で見られるみたいだ。ただ、絶対ではないみたいだし、隠し扉の先のモンスターは様々で、ハードやエクストリームが開放されてもおかしくないモンスターから少し先のレベルが開放されそうなモンスターまで種類が豊富だった。
「レベル6で稀に道中で全滅報告があったのって」
「多分こいつだろうな。レベル6を攻略する程度の奴に回避のは無理だろ」
外なら緊急招集がかるレベルだな。そんなレベルの敵を初心者を抜け出したばっかりの探索者が初見で勝つのは難しいな。幸いなことはダンジョンはHP制なので死ぬことはないということくらいか。
「ところで変異種や進化個体は倒すとどうなるんだ?」
問題はそこだ。今回は倒せたので問題ないが、他の生徒がダンジョンへ行くときにまた出てきたら本来攻略出来たものが攻略できず、1日を棒に振ってしまう可能性が出てくる。
「倒してもまた出てきますね。ただ、毎回出るわけではなく、稀に遭遇するみたいですけどね」
どうやら何パターンかあるようだった。ただ、レベル6ダンジョンは今までよりもモンスターが明らかに強くなるのでイレギュラーモンスターとの戦闘は避けたいところだな。
「ちなみにそのパターンを意図的に引くことでできるのか?」
「それは出来ないですね。私も試したことがあるのですが完全に運でしたね。ちなみに難易度が上がれば上がる程パターンが多いみたいです」
既に実験済みか。出来れば問題のあるレベルのモンスターを意図的に倒しに行くことが出来るのにな。宝箱とか諸々有り難いし
「後、これは決定事項ですが、報告はここで18時からでお願いしますね。ギリギリまで探索していたら時間を超えるかと思いますがそれは構いません」
「それってエクストリームの探索時間が減るくないか?」
「そこは問題ありません。エクストリームの探索時間を19時から22時にすることにしました。18時からだと他の人に見られる可能性がありますからね」
確かに18時から探索しようとすると帰ってくる人もいるだろうし探索するのも不審がられるな。
「移動も目につくのでここからダンジョンまでの転移も許可しますね」
これは移動を見られないようにする為の配慮だろう。学生がダンジョンに入れる時間を超えて向かうのも違和感があるしな
「そことこれを」
「これは何だ?」
「これはダンジョンの探索時間を伸ばせる魔道具です。これを持ち歩いておけば1日1回、パーティーの探索時間を伸ばせます。使い方も教えておきますね」
シエスより渡されたものは星型の魔道具でこれを使うことで探索時間が伸びるのだという。これもボスからのドロップしたものらしく、学園が持っている中で1番時間伸びる魔道具らしい。裏にはオンオフのスイッチがあり、これをオンにしている間は時間外でもダンジョンを探索出来るとのことだった。
「それにしてもこんなものがあるんだな」
「えぇ。それはとあるパーティーが持っていたものですが、卒業と同時に学園が買い取ったものなんです」
どうやら卒業の際に要らなくなったのであろう。それを買い取って必要な時に貸し出しをしているようだ。
「ちなみにこれを持っていたパーティーはどこまでいったんだ?」
「ハードのレベル10ね」
「おいそれって」
そんな実力を持っていたパーティーなんて1つしかない。かつて大昔に存在したというパーティー。記録も殆どなく、アーバスも噂程度にしかしらず、でもその人物達は今でも現存していてそれも納得するような人物達であった。
「私達のパーティーよ」
現在このパーティーのメンバーで誰でも知っている人物は2人、一人は目の前にいるシエス。もう一人はメルファスの代表のリリファスである。後2人いるらしいがその名前はわかっていない。そして何故、そんなものが学園に転がっているのかというと全員ダンジョンに興味がなかったのでダンジョンでしか使えないものは一切必要なかったので売却したらしい。
「ちなみにこれは何処で出てきたものなんだ?」
「ハードの1の最下層ね。ノーマルでは30分伸ばすものが最高だったと思うわ」
やはりハード産か、シエスやリリファスがダンジョンへ潜っていたのは何百年と前だ。一部はまだ持っているみたいだが大半は手放したらしく、手放したものについても大半が所在不明らしい。
「ありがとう。遠慮なく使わせてもらう」
「また明日のこの時間に報告を聞きますわね」
「いい報告が出来るように頑張ってくるわ」
アーバスはそう言うと校長室を後にする。時刻は18時過ぎ、ダンジョンへ行くにはまだ1時間程早い。アミールから既にメッセージが来ており、今日のところはもう寮へ戻るとのことだった。特にやることがないのでアーバスは早いがダンジョンへと向かうことにした。その途中
「アーバスくん。昨日ぶりだね」
「ロインか」
ロインと遭遇した。ロインはダンジョン帰りのようで寮へ帰るところだった。
「今日はどうだった?」
「僕のところはレベル2の5層まで進んだよ。昨日みたいな速度では進めなかったけど、それでも早い方だよ」
「それは凄いな。頑張ったらレベル3の攻略まで行けるんじゃないか?」
ロインの目標はレベル2攻略だったはずだが、それよりも先のレベル3まで行けるだろう
「アーバスくんがレベル1を攻略してくれたからね。それでもレベル2が限界だと思っていたんだけどね」
でも、順調で良かった。クラスは違うが関わった人が順調にクリアしているところを見ると安心するぜ
「アーバスくんのところはどうだい?」
「こっちはレベル6をクリアしたところだな。この調子だと自習期間中にレベル10行くんじゃないかな」
このペースでいくと1日に1つのダンジョンは攻略出来るだろう。残り4日もあるしどれだけ順調に進まなくてもレベル10は最低限いけるだろう。
「レベル6!?もうそんなところまで行ってるのかい」
「そりゃ寄り道せずに最短距離で行けるんだぜ。そりゃ早いだろ」
「確かに最短距離だろうけどそれでも早すぎない?」
「そこまで早くはないけどな。ロイン達も頑張ったら出来ると思うぞ」
「僕は無理だと思うけどね。でも、できる限り追いつくさ。それじゃあ僕は行くね」
「あぁ、またな」
寮の門限の関係かな?足早にロインは去ってしまった。
「丁度いい時間か。行くか」
アーバスはダンジョンへ向かって移動することにした。




