210話 立ってるだけの2戦目
「誰も止めれないか」
アーバスは索敵魔法で戦況を確認しながらそう言った。現在アミールが1戦目同様に前線で大暴れしているのだが。それをA3組は止めることが出来ずに次々と前衛の数を減らしていく。
「A3組でも学年首席の相手は厳しいようですね」
「小細工が通用しないんだから仕方ないだろ」
団体戦の2戦目ではあるがS1組は1戦目同様の戦法で挑んでいるので何か対策して来るのかと期待したのだが、A3組は禄に抵抗が出来ていないようであった。A3組は一応対策として麻痺属性の武器を何本か持ち込んではいたものの、アミールは特殊属性無効化の指輪を付けていた上にそもそも攻撃が当たらないのでその装備が全く意味を成していなかったのである。
ただ、完全に不要になっているのではなく、麻痺属性のせいで何回かジャックが麻痺になっているが、ジャックに攻撃する前にアミールに攻撃されて退場になってしまっているのでジャックはまだ退場していないのだけどな。
「これで決勝進出なんて少し味気ないですね」
「普通はSクラスが勝って当然の戦いだからな。むしろ反対側のブロックの方が心配だな」
この裏ではS2組とA2組の試合が行われており、アーバスはむしろそっちの方を心配しているみたいだった。なんせロインが団体戦と個人戦の初戦を落として非常に落ち込んでいるという話を聞いていたからな。流石にこの試合は全力で戦うだろうが、決勝進出は抽選次第となるだろうしな。
「S3組の心配はしないのですね」
「あっちの作戦会議は既に終わっているからな」
準決勝のリーグが始まる前にS3組と作戦会議は終わらせていたのだが、ターニーから最終確認がしたいとのことで昨日はS3組の作戦会議に出ていたのだけれど杞憂になりそうな所は全て助言しておいたよ。
「それにしてもターニーは優秀だったな。1組に欲しいくらいだ」
ターニーはアーバスが全て言わなくてもちゃんと作戦を理解してくれるので作戦会議も特に荒れることが無かったので非常にやりやすかった。アーバスはS1組作戦会議にもう一人くらい作戦参謀が欲しいと感じているので引き抜けるのならターニーを引き抜きたいしな。
「それってリンウェルが泣きませんか?」
「リンウェルは前衛指揮だから後衛指揮のターニーには関係ないからな」
リンウェルは準決勝までは今まで通りの後衛で指揮をしてもらっているが、決勝からは前衛で戦いながらの指揮に変更するからな。そうなれば後衛の指揮官がいなくなるのでその枠にターニーが収まってくれれば良いんだけどな
「私は集団戦を率いたことがないのでわかりませんが後衛指揮官って大事なのですか?」
「いればそれに越したことはないが、居なかったら奇策が出来ないだけで普通に戦えるからな」
後衛の仕事はのメインはバフと回復だ。攻撃魔法を相手陣地に打ち込むこともあるが、相手の攻撃で割れない障壁を展開してバフと回復をしているだけで十分仕事をしていると言えるからな。
「後衛はそこまで重要視されていないのですね」
「1組はな。前衛が強い上にメインのバッファーは後衛ではなく本陣にいるからな」
本来なら後衛が全滅するのは痛いことなのだが、1組にはサーラという長距離からでもバフを掛けれる優秀な人材がいるからな。そのバフも1クラスのバフと同等のバフなのでアーバスからすれば後衛よりも本陣のサーラを叩かれる方が痛いからな。後衛のバフは大事だが、それよりも他の所が強すぎるのが1組の特徴といったところだ。
「そう考えると1組は基本が通じない特殊なクラスなのですね」
「そうだな。しかも狙撃も警戒させてるから相手からしたらやり辛いだろうしな」
アーバスの特徴は高い魔法技術を使って何でもできることである。その中でも隠密による狙撃をしているのだが、これはアーバスクラスの実力だと他の組の生徒からは隠密行動を絶対見抜かれない自信があってのことでの行動である。Aクラスはそこまで警戒してないようであるが、決勝で戦うSクラスにはそこは完全に警戒されているだろうな。
「ジョーカーによる隠密行動とかどうやって見抜くのですか?」
「見抜かれたらそれはそれで困るけどな。ただ、見抜けないからこそ1人で行動出来るのだけどな」
サーラはそれを聞きながら一安心する。これが他のクラスの敵だったらまず警戒しないといけないのに見つける手段がないのだ。戦うとしても、ある程度はやりたい放題されるのを覚悟した上で全力で攻めるしか選択肢はないだろう。
「そういえば次のS3組戦はどうするのですか?」
「準決勝で敗退する状況なら普通の勝負だな。引き分けでお互いに決勝へ行ける状況ならルールにある合意の引き分けを使うつもりだ」
合意の引き分けとは代表同士が合意した場合に限り、試合前の段階で審判室に行って引き分けを宣言することによって戦わずに引き分けとなるルールである。団体戦は勝利は3ポイント、引き分けと敗北は0ポイントなのだが、準決勝までなら引き分けは1ポイント入る仕組みとなっている。これは順位を付ける目的もあるのだが、それ以上に他の組に戦略や戦力を見られたくない組もあるのでそれに配慮した形だな。それとは別に団体戦の時間の短縮も兼ねているみたいで試合が早く終わればその分他の競技の決勝トーナメントに使うことが出来るからな。
「合意の上での引き分けですか。なら午後の試合はS3組が勝たないといけないですね」
「それかA1組が勝って最終戦でA1組が負けても合意の引き分けが使えるな」
Sクラスはその序列から準決勝までのシード以外に最終戦が午後からということもあって午前のAクラス同士の勝敗を見てから合意の引き分けを使うかどうか考えることが出来るのである。なので仮にS3組が負けたとしてもまだ合意の引き分けが使える可能性は残っているのだ。
「Sクラスは色々と優遇されているのですね」
「Sクラスはその分実力があるからな。ただ、AクラスもSクラスのポイントを直接削ることができるメリットがあるからな」
団体戦は唯一Sクラスよりもポイントを稼げる可能性がある場所だからな。Sクラスに1勝でも出来たら決勝へと進める可能性のある2勝のボーダーに近づくことが出来るからな。もし2勝して決勝に進出することが出来れば入れ替え戦に発展することになるかもしれないからな。
「おっと」
アーバスはびっくりするような反応をするとアイテムボックスから銃を取り出と誰も居ない通路へと照準を合わせる。
「敵ですか?」
「あぁ。どうやら各個撃破に失敗した奴がこちらへ抜けていたみたいだな」
既に相手の前線は崩壊してアミールは大将を倒すだ為に攻撃を仕掛けているのだが、その大将が逃げ回っているせいか中々攻撃が当たらず思うように削れていないみたいだな。残りのメンバーで大将以外を倒しているみたいだが、何人か後衛へと向かった敵をリンウェルは認識することが出来なかったみたいだった。その敵が後衛からの魔法攻撃に晒されながらも何とか1人だけ大将狙いでアーバス達の元へと来たみたいだな。
パシュン
アーバスが引き金を引くと小さい音と共に弾丸が飛んでいく。弾丸は気づかれないように迷彩を施しており、しかも跳弾まで付与して飛んでいく。
「命中だな」
「流石ですね」
アーバスは弾丸を壁に1回跳弾させると相手の頭に当ててクリティカルで一撃で退場させる。そのあまりの自然な流れ作業にサーラは思わず感服するが、アーバスからしたらいつも通りなので何とも思わなかった。
「向こうもやっと倒せたみたいだな」
どうやらアミールがやっと相手の大将を削り切ったみたいで試合終了のブザーが鳴り響く。最終戦はどうなるのかわからないがこれでS1組の決勝進出が大きく近づいたのだった。




