197話 不正疑惑は向こうから
パーティー戦に勝利した放課後、アーバス達の代表戦優勝を記念して組内でパーティーが行われているのだが、アーバスの姿はそこには無かった。
「パーティーの最中に申し訳ないですね」
「元々ああいうのは苦手だから丁度良かったかな」
アーバスの短い人生の中で盛大に祝われたことなんて殆どないのでクラスと一緒にパーティーしたりするのは苦手なんだよなぁ。シエスからはパーティーが終わってからでも良いと言われたのだが、何やら重大なことらしいのでパーティーに出席せずに校長室へとアーバスは来ていたのだ。
「それで話って何なんだ?」
「対戦相手のパーティーから不正疑惑で抗議が上がってます」
はぁ、とそれを聞いてアーバスはため息をつく。不正を行ったのは向こうのパーティーのはずなのに抗議なんて出来たな
「内容は?」
「不正をして索敵を回避したことと、もう一つは事前に対戦相手の情報を盗んだ盗聴の疑惑ですね」
アーバスはそれを聞いて悲しみに満ちた表情でシエスの方を見る。索敵に関しては位置偽装を使ったが、代表戦やその予選である学園の試合の規定にも位置偽装の禁止は書かれていなかった。盗聴は向こうがしていただけでアーバスはそれを利用しただけだ。アーバス側として一切不正はしないので完全にでっち上げだな
「シエスはどう思っているんだ?」
全てにおいて無理があるこの言い分をシエスはどう感じているのだろうか?シエスのことだから決勝くらいは観戦に来ているだろうから試合の内容は見ているだろうしな。
「確かに決勝の試合開始直後のAクラスパーティーの行動は不可解と言って良いレベルでした。対してアーバスのパーティーは今までと同じ行動でしたのでAクラスパーティー側に何かあったことは察することは出来ました。が、アーバスがAクラス側に対して何か不正するメリットもないのも事実です」
やはり試合開始直後のAクラスパーティーの行動は観客席からでも不可解だったらしい。アーバスは事前に情報を撒いた側なのでその行動を理解しているが、それを知らないシエスは何が起こったかわからないよな。ただ、実力はアーバス達のパーティーが上なのでアーバスが不正するメリットが一切ないのもシエスは理解しているみたいだ。
「アーバス、何があったか聞いても良いですか?」
「わかった。まず最初の索敵の不正からだけど、これは位置偽装を使ってそこにアミールがいるかのようにしただけだ」
「それはわかっています。位置偽装は禁止魔法ではないですから見抜けなかったAクラス側が悪いと結論付けています。Aクラスが突撃したタイミングでの爆発もサーラさんのヘルファイアであることも確認済みです」
まずは、理解してそうな位置偽装の話から始めたのだが、そこはシエスも理由がわかっていたみたいで位置偽装やヘルファイアが禁止魔法でないことも既に確認済みなようだった。
「次に最初のAクラスの不可解な行動だが、こっちの原因はこれだな」
「これは盗聴機ですか…」
と、アーバスは回収しておいた盗聴機をシエスに渡す。盗聴機は念の為破壊はしているのでこの会話がAクラスパーティーの元に聞こえることはないだろう。ちなみに回収したのは試合が終わってからで理由は試合前に破壊すると盗聴に気づいたのが相手にバレて相手の作戦が変わるかもしれなかったからな
「タイミングは事前見学で俺達が居ない合間に仕掛けたのだろうな。帰ってきたら机の下にこれが仕掛けられてたな」
「事前見学の合間ですか、でもAランクパーティーも外へ出れないはずなのでは?」
事前見学は現地で作戦を立てたりする関係上、お互いに別々の時間になっていてその間は他のパーティーは控え室で待機しておくこととなっているのだ。
「そこは何かしらの理由を付けて部屋から出たのだろうな。部屋から出てしまえば後はある程度の自由行動が許されるからな」
トイレや忘れ物とかいったら部屋から出れてしまうからな。控え室に盗聴機を付けるのはそこまで時間が掛からないのでついでに寄って仕掛けたのだろう。
「そうだったのですね。それでアーバス達の作戦を聞いていたから極端な作戦だったのですね」
「そういうことだ」
事前に相手の作戦を聞いていたからあんな極端な作戦をしたのだとシエスは納得する。勝てば代表戦に出れるとはいえ、そこまでしなくてもとアーバスは感じるのだけどAクラスが代表戦に出れることが稀だから何としても勝ちたかったのだろうな。それでも露骨すぎるのでもう配置は考えた方が良かったかもしれないとアーバスは思った。
「その割には全く当たってなかったですけどそれはどうしてですか?」
「試合開始前のフラッグ前で作戦を破棄して元の真ん中を突っ切る作戦に変えたんだよ」
なんせ相手が右側に固まるように事前に作戦を漏らしたからな。わざわざ敵が右側に固まってくれているのだから、そこ所を通らずにがら空きの中央を突破した方が良いだろう。
「そういうことですか。それならあの不可解な行動も理解できますね」
「そういうことだ。事前情報が無ければあんな陣形を用意することなんて出来ないだろうな」
なんせ準決勝までの戦い全てを中央突破で勝ち抜いてきたからな。セオリーなら中央に戦力を集めて置くのが正しいだろう。それなのに右側に集中して配置するなんてことは普通はしないだろう。
「これは審議委員に掛けてもいいかもしれませんね」
審議委員とはシエスと教員から構成されるところで、代表戦や対抗戦で何か問題が発生した時に集められて協議するところである。
「優勝を逃したんだから必要なくないか?」
「いえ。不正をしているのですから何かしらの処罰は必要です」
これがまだパーティー戦が行われている最中や優勝しているのなら大問題なのだろうが、結果は準優勝だ。パーティー戦の代表は1枠しかないのでアーバスのパーティーしか出ないのだから問題ないのではとアーバスは思っているのだが、シエスの立場では準優勝とはいえ不正をしているのだから何かしらの処罰は必要とのことだった。確かに準決勝やそれ以下の予選で不正をしていないとも限らないしな
「いっそ団体戦の序列を下げた方がいいですかね」
「それだとトーナメントが組み直しになるし、何より他のクラスメイトが被害を受けるだろ」
シエスがとんでもない事を言い出してアーバスは止めにかかる。組の中心メンバーのパーティーとはいえそれが理由で序列が下がるとなると組の指揮に影響が出るからな。他のクラスメイトのモチベーションの為にも処罰は対戦相手のパーティーだけに留めておきたい。
「それはそうですね。アーバスは何か良いアイデアはありますか?」
「序列の特典を停止すれば良いんじゃないか?」
Sランクはダンジョンへ行く制約がないが、Aクラスの場合は上位序列の特典の中にダンジョンへの入ダンがあったはずだ。なので序列の特典を停止させればAクラスが入れる第2学期までダンジョンへ行くことを禁止できるはずだ。シエスが不正を重く受け止めているみたいなのでアーバスは特典の停止を提案したのだ。
「それはいい考えですね。第2学期まで停止しておくこととしましょう」
第2学期とは夏休み明けに始まる学期なので実質夏休み終了までの期間限定であるが、集中してダンジョン攻略ができる夏休みにダンジョンへ行けなくなるのはかなりの痛手であるだろう。この後審議委員に掛けるそうだが、余程の事がない限りはこの処罰が適用されそうだなと思った。確認はそれだけだったみたいでアーバスはシエスと一緒に退出するのであった。




