186話 もう1体のナルディウス
「これは酷いな」
オレミナに到着したアーバスはメルファスの正装に着替えてから街に降り立つと、その惨状に思わず目を覆いたくなる。街は既に完全に破壊し尽くされており、生きている人間なんて誰もいないような光景が広がっていた。所々で家屋からまだ火が上がっているところに襲撃されてから間もないことが伺える。
(モンスターは何処だ?)
街には到着したものの、既にターゲットを変えたのかナルディウスの姿を見つけることが出来なかった。SSランク冒険者達が頑張ったのだろう、街にはSランクモンスターは数匹いたものの、その全てが死骸となって横たわっていた。それ以外のモンスターは見当たらなかったので、他のモンスター達も含めてナルディウスと一緒に行動しているのであろう。アーバスは索敵範囲を更に拡大し、ナルディウスが何処にいるのかを探していく。
(見つけた)
索敵を開始してから数分後、アーバスが強大はモンスターの集まりを発見することが出来た。その場所は此処から15キロ程北の場所で街道上を大群で進んでいるみたいだった。
(その先はビアールか。なら到着する前に叩くしかないな)
戦闘中では無いのだが、その先にあるビアールまでの距離は残り5キロを程度であり、このままだとビアールまで蹂躙されてしまうだろう。
(まずはモンスターの処理が優先か)
オレミナの生存者の確認もしたかったのだが、ナルディウスがビアールへ到達するのを阻止するのが先だと考えたアーバスはナルディウスの元への転移行う。
転移した先はナルディウス達の上空で、アーバスはナルディウスと配下のモンスター達を順番に鑑定していく。
(本当に強化個体なのかよ)
アーバスはナルディウスを鑑定て確認するとそのステータスの高さに思わず突っ込みをいれる。強化個体のナルディウスはスキルこそ持ってはいないものの、ステータスが普通のナルディウスのよりも3割増しで強化されており、普段は配下が居なければSS級と言われているナルディウスもこのステータスであれば単体でも災害級と言わざるを得なかった。
(始めるか)
アーバスはモンスターの確認を終えると自身の足元に大量のバフと軽減の魔法陣を展開し、戦闘用の装飾品を右手人差し指以外全てに装備する。
「契約の指輪解放」
アーバスはそう唱えると装備していなかった右手人差し指に虹色に光る指輪が装備され、そこから莫大な魔力が供給される。
(まずはモンスターを減らすところからだな)
アーバスは空中に大量の魔法陣を展開する。魔法陣を一切として隠さないアーバスにナルディウスはここでようやくアーバスの存在に気づき、アーバスの方向を向いて咆哮する。
「気づくのが遅えよ」
アーバスは展開した魔法陣から大量の魔力弾をナルディウス達に向けて放つ。魔力弾には全て虹属性を付与が掛けられており、しかもいつもの魔力弾とは違い肉体もダメージを与えれるようにとレイピアの刀身のように細長く先が鋭い形となっており、それが大量かつ高速に射出される。
「ギャォォォォォォッ」
「ギャシャァァァァァァァ」
と配下のモンスター達は次々と飛んでくる刀の雨を避けようとするが避けれる程の機動力がなく、その身で攻撃を受けて悶絶する。
「はっ」
アーバスは虹刀を取り出すと魔力を注ぎ込んでナルディウスに攻撃するが、ナルディウスは防御することはなく、その硬い鱗で受け止める。
(なんだこれ。別物じゃねぇか)
先程戦ったナルディウスの鱗も相当硬いと思ったが、こっちのナルディウスの方は鱗に傷すら入らずに澄ました顔でアーバスの方を見ると、高速で猫パンチが飛んでくる
(なる程な。そりゃ全滅するわけだ)
アーバスはそれを障壁で受けとめたのだが、強化個体のナルディウスの攻撃は多段ヒットなようで、防いだ障壁に3発もの追加の攻撃がヒットする。威力も十分なのでこれがアミールのような障壁を持っていない前衛なら今ので吹き飛んでいたな
「さてと、こっちの攻撃は止められるかな」
アーバスは虹刀に斬撃強化とモンスター特攻である貫通を付与させるとカウンターとばかりに剣を振り抜く、振り抜いた刀は鱗をバターのように切り裂くとその下にある肉まで貫通する。
「ギュアァァァァァッ」
とナルディウスは悲鳴を上げると、近くにいたハイヒュドラがアーバスにその強力な毒を吐こうとするが
「させねぇよ」
アーバスは魔法陣を展開するとハイヒュドラが毒を吐く前よりも早くに魔力弾を撃ち込む。ハイヒュドラは毒を吐く前というのもあったのか自身が毒に塗れながら一撃で絶命する。
アーバスがハイヒュドラへと視線が向く一瞬の隙をついてナルディウスはアーバスへ向けて猫パンチを放つ。放たれた猫パンチは視線を逸らしているアーバスに気づかれるわけもなく、アーバスは気づく素振りも見せなかったのだが
「ギュアァァァァァァァァッ」
「視線が逸れていても視ているっての」
アーバスは飛んできた猫パンチをバックステップで避けると眼の前にある伸び切った右前足を虹刀で切断する。ナルディウスは右前足が切断されたことにより3本足で立つしかなく、その動きが一気におぼつかなくなる。
「そんな隙を見せて空中戦に持ち込めるとでも思ったのか?」
ナルディウスはまだ、ダメージを゙負っていない翼を羽ばたかせて空中戦に持っていこうとするが、アーバスはナルディウスが飛び立つ前に頭を蹴って背中へと飛び移るとアーバスは飛び立てないように両方の翼を斬り落とす。
「ギュアァァッ」
「おっと」
背中に乗ったアーバスを振り落とそうとするナルディウスにアーバスは転移で退却すると今度は顔の前から首を落とそうとナルディウスに剣を振るうが、ナルディウスはそれをジャンプすることで攻撃を避けていく。
「そこまでされているに意外と俊敏だなぁっと」
アーバスはジャンプして避けるナルディウスの動きを意外そうに感じていると死角から高速で突撃してくるイノシシ型のモンスターであるワイルドボアをステップにして回避する。
「ギュッ」
攻撃の直前で回避されたワイルドボアはすぐには止まれずに着地したばかりのナルディウスの左前足に突撃して止まる。ナルディウスはただえさえ片足が半分以下しかなくて難しい体勢で着地せざるを得ない状況で着地したというのにその着地時に左前足をワイルドボアに刈られる形となったことになりダウンする。
(これは好都合なことで)
アーバスは突撃が止まってアーバスの方へと方向転換しているワイルドボアごと虹刀で今度はナルディウスの左前足を根本からぶった斬る。これには流石のナルディウスも体勢を立てなおすのは難しく、アーバスは虹刀に魔力を込めてナルディウスの首に向けて虹刀と振り下ろすとナルディウスの首は真っ二つとなって絶命する。
(今のうちか)
アーバスが最初に魔力弾で大量に倒したが、高ランクモンスターはまだ結構な数が生き延びていた。アーバスは近くにいたナルディウスから解放されて戸惑っているハイパーオークの首を撥ねると残党の討伐を始める。
(思ったよりも残ったな)
残党のモンスターは50体程で最初の時点では300体を超えるモンスターがいたので十分減ったと言えるものの、予想よりも多く残ったモンスターにアーバスは少し嫌な顔をする。まだ距離があるとはいえ、ビアールまでは距離はそこまであるわけではないからな。ビアールは厳戒体勢だとは思うが、ビアールへモンスターを打ち漏らすということだけは避けたいな。
「さっさと片付けるか」
アーバスは次々と残党のモンスターを刈ってはアイテムボックスへと仕舞うのであった。




