182話 アウグスト領とデナー領
「アーバス様どうされたのですか?」
その日の夜、帰ってからずっと資料をにらめっこし続けているているアーバスにルーファが聞いてくる。
「アウグスト領とデナー領のことでな」
「そこの問題ですか。あの2人は特に仲が悪いですからね」
ルーファの質問にアーバスが答えるとルーファは知っているくらいには不仲みたいだな。
「今日クラスメイトからアウグスト領は不人気でデナー領が人気と聞いたから調べていたんだよ」
アーバスはトゥールにある各領の資料をブラックボードを使って引っ張り出して財務や経営、民への圧迫具合などを確認していたのだが、アウグスト領には結構な内部留保があるものの税制が特段高いということはなく、領主が豪遊しているわけでもないみたいだった。これで不人気と言われるのは流石に可哀想だとアーバスは思っていたのだが
「それはデナー領が異常な税制優遇をしているせいですね。そのせいで周囲の領土の民はこぞって自身の領に不満を覚えているみたいですね」
どうやらデナー領が税制優遇をしているみたいで、それが周辺国の民の不満が貯まる原因となっているみたいだ。確かに隣が税制優遇されているのに自分の領地は普通のままだと不公平感を抱いてしまうのは必然か。
「加えてアウグスト領は領主が政治に疎く、言動が傲慢なところがありますからね。そのせいで他の領地と比べたら人気は落ちますね」
アウグスト領主が侯爵になった理由も武力による功績で、度々侵略してくる魔物を領主自ら追い返しているみたいだ。それにより一部の民からは支持されているが、それを知らない民は隣のデナー領と比較して文句を言っているらしい。
「それならデナー領へ移住すればいいのにな」
「デナー領は人口が増えすぎて今は移民を受け入れてないのです。ただ、移民の3割はアウグスト領からで、それもデナー領主とアウグスト領主の関係が更に悪くなった原因でもあります」
どうやら今デナー領では新規の移住を受け付けていないようだ。デナー領では街の開拓が非常に進んでいるのだが、その一歩で人口が爆発的に増えていて特に領の中心であるモダはこれ以上入らないくらいに人口が爆発しているみたいだ。
「でも、それはデナー領の自業自得じゃないのか?」
「確かにそうですが、ここで内部留保が問題となってきます」
アウグスト領は何か問題があった際にすぐに使えるように内部留保を結構な量を溜め込んでいるみたいだが、それを税制優遇に当てないことにデナー領の領主は激怒しているみたいだった。何度か交渉はしたみたいだが、アウグスト領主の態度が悪いせいか結果的に更に関係が拗れることとなったらしい。
「それも確認したがデナー領は逆に内部留保が少なすぎないか?」
「そうですね。それがルーファ商会がデナー領に出店していない理由でもあるんですけどね」
デナー領は人口が多いのだが、民からの税が元から少いのとその少い税を民に優先的に還元しているせいか内部留保がほぼ無いと言っていいほど少いのだ。これによってデナー領に何かあった時は領主からの支援がないと判断したルーファ商会はデナー領には提携店舗だけを置いているそうだ。
「万が一の時に大商会にタダ働きしろとか言いそうだしな」
「そうですね。確かにこれなら民からは人気はありそうですが、何かあった時には資金不足に陥るでしょう。ただそれもモンスターの侵略などが起きない限りは問題が露呈しないと思います」
なる程な。税制で国民から慕われるデナー領と昔のやり方そのままで反感を買うアウグスト領ね。民から見たら前者だろうが、商会などの運営側から見れば後者の方が望ましいのだろうな。
「息子のクロロトも傲慢な性格ではありますが、アウグスト領主からは厳しく育てられたせいか、性格の割にはちゃんと民のことを考えているとは聞きますね」
クロロトがあれだったからてっきり父親は悪徳領主だと思っていたが、普通の侯爵で厳しく育てられていたのか。傲慢な性格は父親譲りなだけでそれ以外はまともとかどうやったらそうなるんだよ
「そのクロロトだが、目が覚めたようで普通の性格になったみたいだ」
「もしかしたら猫を被っていたのかもしれませんね」
「なんだそれ?」
と、ルーファがアーバスの話を聞いて考察する。周りの印象を良くする為に猫を被るのは聞いたことがあるが、印象を悪くする為に猫を被るとか聞いたことないぞ
「確証はありませんが、人はそう変わりませんからね。いきなり性格が変わるのであれば元の性格がそうだったと考える方が自然じゃないですか?」
「でも何故そんなことをするんだ」
「そこまではわからないですね」
ルーファの言う通りいきなり人格が変わることなんてそうはないだろうから、元がそうだったと考える方が自然だ。本当に傲慢な人間であれば自分が見下していた人物に土下座なんてしないだろうし、ライバルに頭を下げたりなんてこともしないだろうしな。
「これはクロロトに直接聞いてみるのもありかもな?」
「答えてくれるかはわかりませんが聞く価値はあるでしょうね」
ルーファの質問にアーバスも同じく思ったので次の作戦会議後にでも聞いて見ることにしようかな。
「ルーファ、団体戦で格上に勝とうとしたらどうしたらいいと思う?」
「はい?アーバス様のクラスより上があるのですか?」
アーバスは、本題として今日の1日の悩みをルーファに聞くことにした。アーバス自身で既にある程度の結論は出ているのだが、本当にに実行してもいいのかという悩みもある。ルーファはどうやらアーバスよりも強いクラスがあると勘違いしたみたいで理由もわからずに聞き返してくる。
「そうではなくてな」
アーバスはここまでの経緯と今日の一連のやり取りとそして自身の考えている作戦も併せて話す。ルーファは一通り理解した後に
「簡単な解決法だとそれでしょうね。ですが、色々とリスクの高い方法でもありますね」
ルーファは作戦について冷静に評価してくれる。アーバスが用意した作戦とは団体戦用の特化武器をエバクに作らせてルーファ商会を経由して納品してもらうという方法だ。これだと全員均等に強くなり、ロインみたいなBクラス冒険者相手であっても武器性能でごり押しで勝つことが出来る。ただ、Aクラス全員に前衛武器を配る必要があるので回収する必要があるのと、人数が大量なので足が付きやすいことだな。
アーバスは足が付いてもルール違反ではないので問題ないと考えていたが、それだとロイン達から敵判定を貰ってしまうので今後を考えると良くないとのことだった。
「作戦でもいいんだが、流石にロイン達の総攻撃をAクラス達が耐えれるとは思えないんだよな」
「そうですね。相手が温存してくる以外で勝ち目はありそうにないですね」
Aクラスの主力といっても最高レベルがSクラスよりも下だからな。Aクラスの大半がダンジョンに行けてないのもあり、AクラスとSクラスの差は非常に大きなものになりつつあるからな。
ルーファもアミールやサーラの依頼を用意する為か、レイラが用意しているセーティスの魔法学園の情報にはブラックボードを経由して時々確認しているのでAクラスまでの大まかな情報は頭の中に入っていたりする。
「ですがら一応私からは提案出来るものはあります。これならまだバレる可能性は低いかと」
そう言ってルーファはアーバスに提案する。作戦の内容も非常にシンプルで相手の総力戦にしか有効ではないが、それでも総力戦での勝率が良さそうだ。
「よし、それにしようか。ルーファ、直ぐに手配しておいてくれ」
「わかりました。とびっきり質の高いのを用意しておきます」
アーバスはルーファの案に参戦すると、早速ルーファに必要なものの発注をするのだった。




