181話 毎日の訪問
「ねぇ、アーバス君」
「断る。ちなみに考える直す気も無いぞ」
アーバスは今日も待ち構えていたロインの話を聞く前に断ると教室へと入っていく。
「アーバス、あれでいいの?」
「こっちは考え直す気がないのに毎日来るんだぞ。向こうが悪い」
と、アミールの言葉に少し苛立つように返事をする。1組が3組と組むと言う話がロインの耳に入ってからずっとロインは説得の為に毎日1組の教室の前で待ち構えるようになったのだ。
最初の3日間はアーバスも聞いていたが、ずっと同じにアーバスは飽きてロインが話しかけていても断るようにしていたのだ。ロインがクラス代表のアミールに相談しないのはどうせ相談してもアーバスが実質的な1組のリーダーをしているのでアミールの提案であっても断ると考えているからだろう。
「アーバスの気持ちを考えて下さい。毎日同じ話ばっかりは流石にうんざりしますよ」
「それはそうね。でも何でロインは毎日くるのよ?」
「根気良く行けば考えを変えてくれるとか思っているんだろ」
確かに相手に根気よく突撃して話を聞いてもらうと言う手法があるにはあるのだが、それは良い時と悪い時があるからな。
アーバスにメリットがあれば当然話に乗るのもやぶさかではないのだが、ロインは3組との協力関係を解消しろと言ってくるだけでこちらには見返りが何もないからな。
「アーバスはもし3組との協力関係の解消を求められてメリットもあればどうするつもりだったのですか?」
「内容次第だろうな。せめて決勝での勝ちを譲ってくれるくらいはしてくれないと割に合わないな」
アーバスの作戦では3組に準決勝を勝ってもらって決勝で3組に勝つ作戦だからな。決勝はガチンコの勝負とはなるが、戦力は1組の方が有利なので勝つのは確実だろう。
それに3組と協定を解消するということ決勝の確実な勝ち星が1つ消えるということだ。それなので1組の協定を解消するにしても1組としては勝ち星を1つくれない限り今解消する理由がないのだ。むしろ得をしているのは協定を結んでいる2組と4組になるしな。
「勝ち………ですか。むしろそれくらいしないとアーバスは折れないのですね」
「そのつもりだ。3組を落としたいのかもしれないが、こっちの都合を考えてくれないとな」
ロインの目的は恐らく3組を入れ替えなしで降格させるというシナリオだろう。この団体戦でもし準決勝で負けるとなると1組であっても残りの対抗戦や団体戦を好成績で収めないといけないくらいにはポイントレースで不利になるからな。
1組が協定さえ解消してくれれば、3組の準決勝の突破の確率が下がるのは当然として、決勝に上がったとしても3組が最下位確実だろうしな。
「そこまでして3組を落としたいんやな」
「というかそこまでしで3組を落としたいのかが理解出来ないな」
1組が協定を結んだとてアーバス達が出来ることは限られているし、先の対抗戦の結果を考えれば3組は自然と最下位を独走するはずだ。なのにロインはどうして3組を必要以上に落としたがるのかが一切理解できないのだ。
「それは家の都合かもしれないわね」
「そんなに仲が悪いのか?」
家の都合か。アミールとサーラは家同士の仲が良いがそうじゃない場合もあるもんな。恐らくロインとクロロトの仲は悪いのだろう。ただ、そうだとしても恨みすぎではないだろうか。
「アーバスはこの国の情勢はそこまで知らないのでしたっけ?」
「そうだな。政治もそうだが、貴族関係は特に疎いな」
サーラの質問にアーバスは正直に答える。紛争のある国だと政治や貴族関係は調べて接触しないといけないのだが、大国になると国自体が安定しているので貴族の情報はそこまで積極的に入手していないからな。
この前のギルドの癒着の貴族のリストも見たけど見ただけでは全くわからなかったからな。
「そうね。クロロトが元々傲慢な性格だったでしょ。あれって親のせいなのよ」
と、アミールは話し始める。貴族は学園や公の場では貴族を証明する羽飾りしか付けてないが、実際は公爵、侯爵、伯爵、子爵、 男爵と5段階に分かれているそうだ。
クロロトのところはアミールと同じ侯爵に当たるそうなのだが、武術の家系であるが故に武力はあるのだが、傲慢で政治には少し疎いそうだ。
そのせいか、反乱は起きてはないものの、その政治の疎さに不満に思っている民が一定数いるそうでどちらといえば不人気の領地らしい。
逆にロインのところは子爵なのだが、税も少なく国内でも有数の平穏の領であることから人気が高いそうだ。一見すると人気と不人気というだけなのだが、問題は領が隣同士ということなのだ。
「なる程な。それで親同士の歪みが子供にまで来ていると」
「そうね。しかも、クロロトはつい最近まであんなのだったでしょ。だから余計にロインの気に障ったみたいたのよ」
と、アミールは続ける。となると4組と手を組んだのも1組に協定解消を言いに来ているのも私怨ということか
「それだとますます解消する気になれないな」
理由はともかく私怨で3組を潰す理由にはならないからな。ロインはクロロトが気に入らないのかもしれないが、3組をAクラスに落とすということはクロロト以外のクラスメイトも一緒に落ちるということだ。
それを私怨でやろうとしているのだから3組が最下位になるにしてもせめて入れ替え戦だけは出来るように協力してやりたくなったな。
「そうですね。私怨で落とすのは絶対に間違っていますよ」
「そうね。やることが汚すぎるわ」
と、ロインの思惑にアミールとサーラからも異論が出る。勝つために協力することにはアーバスは賛同するが、誰かを蹴落とすことに協力は一切としたくないな。アーバスがそれをしてしまうと政治組と同レベルにまで堕ちてしまうからな。
「ロインってそんなことをするんだな」
「正義感は強そうでしたけど方向性が間違っていますね」
「そうやな。自分が正義と思っている悪人と全く同じやな」
と、ロインに対する評価が急激に落ちていく。対抗戦の時に抱いていた印象が全く逆になってしまったな。1ヶ月でどうしてそこまで変われるんだよと思いつつアーバスはとあることを思いつく。
「いっそ決勝まで協力するのもありかもな」
今の時点での協定だと準決勝までだが、この際だからいっそ決勝まで協力を引き伸ばしてもいいかもな。1組は1位を取るが、2位以下はどの組がなってもアーバス的には問題ないからな。それなので3組の下剋上の意味も込めてアーバスが作戦会議に介入して2組と4組を倒せるような作戦を教えておくのもありだな。
「それはありやな。それで3組がまた最下位なのも可哀想やしな」
「2組と4組は協定を結んでいるのですから文句を言われる筋合いもないですからね」
サーラとリンウェルも賛同し、決勝でどうやって3組に勝ってもらおうかという流れになった時だった。
「アーバスならAクラスをけしかけて、準決勝で2組を脱落させそうよね」
「お、良いなそれ」
アミールの何気ない一言にアーバスは食い付くと悪い笑みを浮かべる。3組を助けようとのことだけを考えていたのだが、2組を準決勝で落とせばいいなんて思いつかなかったな。
「ねぇ、私絶対に余計なことを言った気がするのは気の所為かしら」
「そうですね。もしかしたら本当に2組が準決勝敗退になりかねませんよね」
アーバスはそんな2人の会話を余所目に作戦を練り始める。2組と4組は準決勝を勝った気でいるみたいだが、その足元を掬わせてもらおうか。