175話 フラッグへの攻撃
ブザーと同時に私は氷魔法で自分が滑る箇所だけ凍らせてその上を滑っていく。全てを凍らせてなかったのは相手にこちらの意図を悟らせない為ね。
(バレてないわね)
ジャック達のパーティーはアミールの行動に気付いていないのか、フラッグにサーシャだけを残してそれぞれ散っており、フラッグはがら空きといってもいい状態であった。
「アミール、今のところジャック達はアミールに気付いていないみたいで森の中を移動中だ。だが警戒だけはしとけよ」
「わかったわ」
と、アーバスからの通信に私は簡潔に答える。今はアミールに気付いていないと言っているが、ジャック達のことだからこれも想定済だろう。私は順調に川を下っていき、フラッグまで残り50メートルを切ったところだった。
(来たわね)
突如川の進行方向左の崖上から初級魔法であるファイアーアローが3つ飛んでくる。恐らくラウムによる魔法攻撃でしょうね。ただ、ラウムはそこまで魔法に慣れていないのかファイアーアローはサーラのよりも遅いのだが、その狙いは正確でこのままの速度でいけば私に直撃しそうだった。
(その程度は余裕ね)
と、私は温存しておいた身体強化を使うことで移動速度を上げるてそのファイアーアローを回避する。ファイアーアローの射程から外れたことを確認すると私はラウムがいるであろう場所に走りながら手を向けてそこからアイスランスを放つ。放たれたアイスランスは狙い通りの場所へと飛んでいき、崖に当たると崖一面が凍りつく。
(本当に魔法操作が上手くなっているわね)
ダンジョンではアーバスの魔力弾やサーラとリンウェルのレイン系の攻撃により私が魔法を使うという場面は殆ど無いのだが、久しぶりに使った魔法は驚く程正確に飛んでいき私の狙ったところにアイスランスが直撃したのだった。
今までは狙い通りに魔法が飛んで行ったことはなく、前後2メートルの誤差で当てることが出来れば上出来だっただけにこれには驚きが隠せなかった。
(アーバスからの連絡が無いということは当たらなかったみたいね)
狙い通りにいけばラウムを退場させれると思っていたが、どうやらラウムは攻撃すると直ぐに移動したみたいで外れたみたいだ。
(仕方ないわね。さっさとフラッグを破壊しましょ)
私は直ぐに気持ちを切り替えてる。アーバスから言われた本来の作戦はフラッグの破壊か相手パーティー全員の退場なのだ。ここでラウムを倒してもいいのだが、時間を稼がれてフラッグ周りを強化される方が厄介なので私はフラッグのある方へと向かっていく。
そしてフラッグを射程に捉えると私は足を力強く蹴って一気にフラッグの前にいるサーシャとの距離を詰める。
「はぁぁぁぁぁぁっ」
「へ?」
跳躍する瞬間に抜いた氷刀に魔力を込めると私は勢いそのままにサーシャごとフラッグを切り裂く。サーシャは私の速度に反応出来たなかったのか抵抗も出来ずに攻撃をもろに受ける。そしてズドンとした衝撃と共にフラッグのHPが削れたのだが
(囮!?)
フラッグには攻撃が当たったものの、サーシャ自身は幻影だったようで斬られた後は陽炎のようにして消えていってしまったのだ。周囲を見渡すとフラッグの後ろにいるサーシャを見つけたので私はサーシャを優先して攻撃しようと行動に移そうとしたのだが
(アミール、そっちも幻影だ。サーシャはこっちで対処するからアミールはジャック達が来るまでフラッグを優先して削ってくれ)
と私がサーシャに気を取られているとアーバスから通信が飛んでくる。どうやらフラッグの後ろにいるサーシャも幻影とのことだ。アーバスが対処するみたいなので恐らく私では対処することが出来ないのでしょうね。私が地面を一面氷にしたら対処出来るのかもしれないのだが、それもアーバスにとっては非効率なのかもしかしたらここには居ないかもしれないわね
「やあっ」
サーシャを放置して私はフラッグを攻撃し始める。フラッグを削り切るのは全員倒すよりも難しいとよく言われるのだが、それは実際にそうであり先程の攻撃で1割すら削れていなかったのだ。私とサーラが全力ではないとはいえ、それなりの魔力を込めた一撃でも全然削れていないのだ。確かにこれならフラッグを削り切るよりも先にフラッグの破壊を阻止しに来た相手パーティーを全滅させたほうが早いだろうなと思ってしまう。
「そんな。幻影を無視して攻撃するなんて」
「悪いわね。こっちには優秀な参謀がいるのよ」
サーシャを無視してフラッグを攻撃し始めるサーシャに対してサーシャは信じられない顔をするが、よくよく考えてみればサーシャは回復とバフと妨害が専門で攻撃魔法は使えないのだ。
「無視して良いのですか、『ポイズン』、『スリープ』、『スロウ』」
と、サーシャを無視して攻撃する私に向けて特殊魔法で攻撃をしようとしてくるのだが、その魔法は全て私に効くことは無かった。
「なんで、私の特殊魔法が効かないのよ」
「そりゃ特殊属性無効を付けているからよ」
と、私の無慈悲な言葉にサーシャは絶望する。後衛のサーシャは攻撃魔法こそないが、ポイズンを始めとした特殊魔法の大半を使用することが出来るのだ。ただ、単一の対象にしか使用出来ないので対抗戦や団体戦では不向きなのだが、パーティー戦などの個別の敵に対して時間稼ぎをすることが出来るのでこういった敵アタッカーを本陣で足止めさせるには非常に有効な魔法が揃っていたのだ。実際この特殊魔法があったお陰で勝てた試合も少なくないみたいだ。
ただ、そんなことはアーバスは想定済でアーバスが所持していた特殊属性無効の指輪を私へ貸し出していたのである。この特殊攻撃無効の指輪は生産品で、これ以外のスキルはないのだが、対抗戦を見越してアーバスが入学前に作っておいた装飾品の1つだったみたいね。
「そんなのルール違反じゃないですか?」
「そんなルールないわよ」
属性の無効にに関しては何をどれだけ無効にしてもペナルティーはないのだ。なので特殊属性と属性を無効するに装飾品を装備していしたとしても反則になることはないのだ。これは属性のダメージは入らないが、剣や無属性魔法のダメージが入るからという理由が主な理由だったりする。無属性の攻撃魔法を発動させるのは難しいだろうが、物理の剣やハンマーなら属性を込めずに身体強化のみで攻撃したら無属性扱いでダメージが入るのよね。
「アーバス。ジャック達は何処にいるの?」
と、私は通信もせずに虚空に問いかける。本来なら通信しないと答えてくれないので意味がないのだが、それに反応して通信してくる人物がいた。
「ジャック達は全員合流して急いでこちらへと向かっているが、後5分くらいは攻撃していても大丈夫だ。近づいてきた時はまた通信を入れるからアミールは何も気にせずに攻撃をしてくれ」
「わかったわ」
私はアミールの質問も索敵魔法で聞き取ると、ジャック達の距離を移動速度から測って計算したのである。しかも、この予測も非常に正確であり、サーシャは先程ジャックから到着まで5分と伝えられていたのだった。
「えっ。ちょっと待って」
とジャック達の位置を聞いても尚攻撃する私にサーシャは戸惑うだけで何もしてこなくなったのだ。時折サーシャが身体を張って止めようかと悩んでいたようだが、どうせいっても1撃で退場されるので寸前のところで踏みとどまったみたいね
「アミール、そろそろジャック達が来るから迎撃準備をしてくれ」
「もうそんな時間なのね。わかったわ」
と、やりたい放題に攻撃していたらアーバスから終了の連絡が来てしまった。これだけ攻撃したのにも関わらずフラッグの耐久はまだ半分以上残っているのでいかにフラッグを削り切っての勝利が難しいかがわかるだろう。
私はフラッグへの攻撃を止めるとジャック達を迎え討つべく来るのを待つのだった。