166話 ロインの企み
「アーバス君ちょっといいかい?」
と一旦お昼ご飯を食べていたアーバス達にロインが話かけてきた。アーバスはロインの後についていくと個室へと通される。
「すまないね。ダンジョン攻略中にわざわざ呼び出して」
「休憩してる最中だから大丈夫だ」
ダンジョン攻略中なのをわかって呼び出すくらいなのだから急ぎの用事なのだろう。
「まずはだ。団体戦とパーティー戦が始まっているが、アーバス君達は何かしているのかい?」
「団体戦は大まかな方針は通達したが、詳細な作戦はまだ何も話していないな。パーティー戦に至っては脅威となるパーティーがいないからあっさり終わるだろう」
と、アーバスは現状についてロインに話す。団体戦の詳細な作戦はAクラスが混ざり始める準々決勝が終わった後に最終決定するつもりだしな。それまでは作戦会議や作戦の構想の時間に費やすつもりだ。
「なる程ね。こっちは既に準決勝と決勝の組を想定して作戦会議をしているよ」
と、2組では既に出てくる組を想定して作戦会議をしているようだ。2組のところは序列1位のA5組は確実だろうからもう1クラスを想定するだけでいいので作戦を練るのは簡単だろう。
「で?ロインの決勝の予想ではAブロックからはどっちが抜けると思っているんだ?」
「本題はそこなんだ。僕のAブロック2位の想定と違う可能性が出てきてね。それを確認しき来たかったんだ」
と、ロインが本題を切り出す。ロインの想定と違うということが出てきたということはやはりあれが関係しているのかな
「1組が3組と手を組んだという話は本当かい?」
やっぱりその話か。ということはロインはAクラスの1つが決勝へ進むと予想してたのだろうな。
「本当だ。提案してきたのは向こうからだけどな」
とアーバスは悪びれることもなく答える。共闘なんてよくある話だからな。現に2組と4組も団体戦や個人戦で結構共闘しているみたいだしな。
「何故そんなことをしたんだい?1組なら手を組まなくても決勝へ行けるだろうに」
「そりゃ決勝をやりやすくする為だろ。Aクラスなんて入ったら作戦の組み直しになるからな」
アーバスの想定している決勝はSクラス全員であり、その前提で作戦を練っているのだ。AブロックからAクラスが上がってくるとなるとSクラスとの2戦を確実に勝たないと行けなくなるのでSクラス戦がほぼ総力戦みたいなことになるだろう。
「そんなことの為に3組と共闘したのかい?」
「4組と共闘している2組が言う話じゃないと思うんだけどね」
なんせ2組と4組は対抗戦が終わってから手を組んでいるからな。そして今回は打倒1組が目標らしく2クラス共決勝で1組と全力の総力戦を行うということも聞いている。アーバスからしたら手の内を見せ合うのは良くないと思っているので、逆に悪手ではないかと思っているけどな。
「やっぱり知っていたか。結構隠していたつもりなんだけどね」
「生憎こっちの情報網は優秀でな。それくらいは筒抜けだ」
なんせアーバスがダンジョンに行っている間でも情報を収集できるようにしているし精度も高いからな。それでいて1組の内情は漏らさないようにしているので、今回の共闘がバレたのは3組からだろう。
「ところで3組の内情だけどアーバス君は知っているのかい?」
「知っているよ。その上で組むことにしたからな」
共闘の話の後、クロロトはターニーに全力で土下座をしたらしいからな。その後もクロロトは平民組と協力して作戦を練っているそうで、そこには以前のような傲慢な態度は見せていないらしい。
「アーバス君、君は平民を軽視するどころか脅すような奴に協力すると言っているんだよ。アミール嬢達には反対されなかったのかい?」
「反対どころか賛成してくれたぞ。それよりもおロイン、お前はどうなんだ?」
賛成してくれたという言葉にロインはあり得ないといった表情を浮かべる。
「僕は反対だね。あんな貴族の風上にも置けない奴に協力する気はないからね」
「まぁそうだろうな」
アーバスもクロロトが改心しなければ協力関係を結ぶ気は無かったし、元の傲慢な性格に戻れば速攻で協力関係を破棄するつもりでいるからな。
「アーバス君、僕は3組がSクラスには相応しくないと思っているんだ。そして入れ替え戦に持ち込むには団体戦で準決勝敗退させるのが1番の近道だとも思っている」
「それは学年末の入れ替え戦で判断されることだ。それに協力関係を結んでなかったとしても故意に準決勝敗退させるのは難しいと思うぞ」
なんせSクラスの最下位でも入学時点でAクラスの最上位よりも上の実力だからな。Sクラスから総力戦を仕掛けられた時点で余程優秀な作戦参謀がいない限りは簡単に力負けしてしまうくらいの戦力差があるしな。
「でも、今年はA5組は既にレベル2の下層だ。S3組よりも攻略速度が速いんだ。他の組はどうかわからないが、今の停滞しているS3組なら勝てるとは思わないかい?」
「思わないな。攻略速度なんか索敵が優秀かどうかで左右されるからな。それにレベル5まではEランク冒険者でもクリアできるくらいだ。攻略レベルが参考になるのはレベル6以降からだ」
ダンジョンの攻略レベル=実力があるというのはその通りなのだが、それはレベル6以降の話だ。レベル5までは簡単に倒せる初心者ダンジョンだからな。なのでレベル1や2のクリアでAクラスの方が実力が上だと言われてもアーバスは共感出来ないのである。
「それでも攻略の進捗が速い方が良くないかい?実際、SクラスでもAクラスのパーティーよりも進捗が遅いパーティーはあるし、それをプレッシャーに感じているところもあるからね」
「そりゃ進捗が速い方がいいのは当然だが、それはレベル6以降の話だ。それ以下は俺からしたら一緒だな」
1年でレベル6以上のダンジョンを攻略しているのがアーバスのパーティーしかいないので皆実感がないのだとは思うのだが、レベル6からはまた1段とレベルが上がるからな。これがアーバス達にしかわからないのが残念なところだな。他にレベル6に行っているパーティーがあれば共感出来たのにな。
「後ロイン。悪いことは言わないから他者のことを蹴落とすことだけを考えてたら足元を掬われるぞ」
ここまでの話を聞いているとロインは3組を最下位へ落とすことしか考えていないように見えるからな。4組と協力関係なのもあってか、協力関係を保ちながら3組を叩ければ自分達は安全圏から眺めれるとか思っていそうだな。
「そんなことはことにはならないよ。普通に戦えば準決勝は抜けれるだろうから後は決勝のことさえ考えるだけで十分だろうからね」
確かに普通に戦えばSクラスの方が有利だろう。それはどの組も変わらないが、S2組とS4組は序列1位のA5組と戦うので無策過ぎるのも良くないとアーバスは思っているのだけどな。
Aクラスの対抗戦の結果を見たが、A5組だけ全勝で少し抜けているのに対して2位争いは過激だったからな。なのでA5組にはアーバスみたいな突出した人間がいるか、作戦参謀が優秀かのどちらかなので、1番警戒しないといけないクラスだからな。
「そうか。今のところ協定を破棄する気はないからそれだけは伝えておくぜ」
「わかった。アーバス君、僕は今度こそ1組にリベンジしてみるから覚悟しておいてくれ」
と、ロインはそう言い放つと個室から出ていった。
「ありゃ、駄目だな」
と、今さっき会話した話を振り返ってアーバスはそう感じ取る。さっきまでは想定してなかったが、BブロックからAクラスが勝ち上がってことも考える必要が出てきたな。時間を見るとそろそろ攻略を再開する時間なのでアーバスは急いでダンジョン棟へと戻るのだった。




