162話 教員推薦枠
「なんか何もないって暇よね」
「放課後に練習しているから暇じゃないと思うが?」
「そういう意味じゃないのよ」
サーラが暇そうにしていたのでアーバスがそう返すととアミールに逆ギレされたのだ。練習量が少ないのなら増やしても良いんだけどなぁ
「何で私達は試合が無いのよ」
「そりゃ予選免除だからな。それに再来週には始まるからいいじゃないか」
どうやらパーティー戦のエントリー人数が少なくて予定が早まっているらしく、来月に予定されていたパーティー戦の本戦だったのだが、それが半月早く前倒しされて3週目から本戦が開始することになったのだ。
「それはいいことなのよ。でも、今月にパーティーが終わるから来月が暇になるじゃない」
「その分団体戦に時間が割けるからいいじゃないか」
パーティー戦の日程が早まったせいなのかパーティー戦がまさかの今月で代表が決まるという事態になったのだ。本来なら来月の半ばなので予選が早まった分が前倒しになった影響だろうな。アーバスやリンウェルからしたら作戦時間が増えるので有り難いのだが、アミールはそうではないらしい。
「そんなことしたら鈍るじゃない。アーバス、ダンジョンへ行く時間を増やしてくれないかしら」
「そこはアミールの練習次第だな」
アミールの魔力操作は順調に進んでおり、このペースだと本戦までに間に合うだろうと思っていたのだが、2週間前倒しは予想外だった。ただ、アミールが魔力操作を覚えたら平日もダンジョンに行くつもりだったので魔力操作を覚えた後ならダンジョンへ行ってもらってもいいだろう。
「ホームルームを始めますよ」
と、そこへカイン先生がやってきて放課後前のホームルームが始まった。クラスメイトが何人か抜けているがそれは代表戦の予選で抜けているだけなのでサボりではないといっておこう。
カイン先生は今回の日程の変更について言及していたが、どうやら例年よりもパーティー戦の人数が少ない代わりに個人戦が増えており、更には試合時間も長いことから普段は使用していない放課後やHRの時間も試合をしていることや数の少ないパーティー戦の日程の繰り上げをしているみたいだ。
「それとアーバスくん達のパーティーはこの後校長室にへ今度はちゃんと来てくださいと校長から伝言を授かっています」
と、カイン先生が帰り際に忘れていたかのように伝える。どうやらシエスから呼び出しがあったらしい。アーバスは事前に聞いているのでそこまで驚かないが、残りのメンバーはびっくりした様子だった。
「それでは、みなさん応援しているので頑張ってくださいね」
とそんなことを言い残してカイン先生は教室から去っていくのだった。
「アーバス、今度は何したのよ」
「だから何で俺がやらかした前提なんだよ。前回も無実だっただろ」
カイン先生が去ってすぐにアミールがアーバスへと詰め寄ってくる。アーバスは弁明するが、アミールどころかサーラまで訝しげな目てまこちらを見てくる。
「でも、校長から直々の呼び出しだとアーバスが関わっているのではないですか?」
「関わってないと言いたいが今回は少し関わったな」
「ほらやっぱり何かしてるじゃない」
昨日、シエスから相談を受けてある程度答えたのだが、まさかそれが悪い方向に働くなんて思ってもなかった。
「だからといってやらかしてはないって。安心しろ悪い話じゃないからな」
悪い話だったらそもそも断っているからな。
「とりあえず話は校長室でしようか」
「えー、教えてくれないの?」
「ここで出来る話じゃないからな」
後でわかる話ではあるものの、今のところはここで話せる内容じゃないからな。下手に話せばこの話が無くなってしまうかもしれないしな。
アーバスはアミールを宥めながら校長室へと移動する。
「皆さんお揃いですね」
シエスはパーティー全員が揃っていることを確認すると満足そうに言った。前回はサーラの事情で行くのが遅くなったせいで何故かシエスがアリーナへ来たからな。今度はとか言ってたが、あのまま待っててくれたら校長室へ行ってたのにな
「アーバス、何か言いたそうな顔をしていませんか?」
「いえ。何もないですよ」
どうやら顔に出ていたみたいだった。顔に出したつもりはないのだが、もしかして心を覗かれているのだろうか?
「それは内緒です」
そんなことを考えているとシエスをそんなことをいう絶対心を読む魔法かスキル使っているだろ
「校長。話ってなんですか?」
「そうでしたね。今から話しをしますね」
と、サーラに言われてシエスが本題へと入る。
「現在パーティー戦が予定繰り上げで行われているのはご存知ですね」
「はい。パーティー戦の参加が少なくてそうなったと聞いております」
「はい。それで相談なのですが、教員推薦枠ってご存知ですか?」
「はい。代表戦の参加を決める為のものですよね?」
個人戦の代表は2枠あり、1枠は優勝者だが、もう1枠は推薦なのだ。そして推薦教員枠というのは本戦トーナメントの中に教員や上級生を何名か配置してそこでの直接対決や注目度などで代表戦の選手を1枠選ぼうというのである。
なんせトーナメントなので学年No.1と2が決勝で戦うということはないからな。
「そうですね。その教員推薦枠で貴方達に個人戦本戦を戦ってもらおうと思っています」
教員推薦枠は別に教員か学生で縛りがないからな。パーティー戦は今月には終わるから来月から始まる個人戦の本戦が被ることがないからな。
「いいのですか?」
「はい。貴方達は学年でもトップを走っているパーティーですし、実力もありますので教員推薦枠で戦って頂き、残り1枠の推薦にご協力をしていただきたいのです」
アミール達の意見だけで推薦枠が確定するわけではないが、実力を測る上では丁度いい指標にはなるだろうな。
「わかりました。出る部門はどうすればいいですか?」
「各部門最低限1人出ていただければ後は大丈夫ですね」
どうやら各部門に1人は欲しいらしく、近接戦と遠距離戦と総合戦があるのでどこか1つは2人で後は1人ということか
「ならウチとアミールが魔法が苦手やから近接戦やな」
「私は魔法専門なので遠距離戦ですね」
「じゃあ俺は余りの総合戦か」
「では、今言ったのでエントリーしておきますね」
と、揉めることなく出場種目が決まっていく。シエスと事前に打ち合わせして予想していたのだが、その通りの結果になったな。
「ところで私達が優勝したらどうなりますか?」
「それは気になるところやな」
アミールがふと疑問に思ったのかそんなことを聞いてくる。アーバスも個人戦に出てくれとは言われたが、優勝したらどうなるかとかは聞いてなかったな
「優勝したら準優勝の人が代表として出ることになりますね。教員推薦枠の方は代表にはなれませんからね」
「そうよね。これで私達が個人戦の枠まで持っていったら皆が困るもんね」
と、アミールはシエスの言葉にホッとする。教員推薦枠は教員や上級生が本来出るから優勝しても出場規定に当てはまらないので準優勝以下へと繰り下げが行われるらしい。といっても大体は空気を読んで準決勝までには教員推薦枠の人は負けているみたいなんだけどな
「ただ、貴方達は同じ1年生ですので途中で負けたりといったものは必要ありませんので全力で戦ってもらって大丈夫です」
「わかりました。全力で頑張ります」
とシエスからお墨付きが出たので全力で戦って問題ないそうでアミールがそれに力強く返事する。同じ1年生がトーナメントを考慮して負けるなんておかしな話だもんな。
「ところでもし個人戦の決勝がアミールとリンウェルになった場合はどうするんだ?」
通常の代表戦のトーナメントは3位決定戦は行われていないので、アミールとリンウェルが決勝にいった場合は3位が2人になってしまうのだがそれでいいのだろうか
「その時は3位決定戦を行って勝ったほうが代表になりますね」
その場合だけは3位決定戦をやるのか。そうなったら3位決定戦に出るやつもある意味可愛そうだな。
「それではしっかりと査定して下さいね」
とシエスはアーバス達に去り際にそう言われながら校長室から退出するのだった。