16話 自習1日目ダンジョンへ行こう
自習1日目アーバス達はダンジョンを攻略すべくダンジョンの入口に集合していた。
「さぁ攻略するわよ」
「元気いいなぁ」
「楽しみにしていましたからね」
アミールが凄くやる気に満ち溢れていた。どうやらダンジョンに行くのを楽しみにしていたみたいだな。
「この自習期間にはレベル5まで行くわよ」
「そうですね。初心者ダンジョンは早々にクリアしたいですね」
学園内のダンジョンはレベル5までは初心者ダンジョンと呼ばれており、ここをクリアするまではドロップが良くなく出てもそんなに価値のない素材ばかりなのである。レベル6からやっとドロップで稼げるようになるので、レベル6からが探索者のスタートラインと言われている。
「それなんだが、今日はレベル2からでいいか?」
「昨日下見すると言っていましたが、放課後だけでレベル1クリアしたのですか?」
「たまたま運が良かっただけだ」
本当ならレベル1の5層目くらいからの予定だったしアミール達にもそう伝えていたからな。強敵が居たとはいえ3層でクリア出来たのは運が良かったのかもしれない。もし、隠し部屋のボスがなかったら5層目前後でタイムアップだっただろうしな。もし戦闘中にタイムアップが来た場合はその戦闘まででそれが終わればボスだった場合は転移陣に乗らなくてもクリア、道中だった場合はそのまま入口に戻されて次の日はその階層からとなるそうだ。
「でも、レベル1を行かなくて良いのは有り難いわ」
「そうですね。レベル1は時間がかかるだけですからね」
「ならレベル2から行こうか」
アミールもサーラもレベル2からで賛成らしい。不慮の事故だったがクリア出来て良かったぜ。アーバスはレベル2のダンジョンを選択し、ダンジョンへと潜る。
「ここがダンジョン」
「何か地下通路みたいですね」
ダンジョンに着くとアミールとサーラが昨日のアーバスと同じ感想を漏らす。アーバスは索敵を行うとアミールに前衛を任せて、階段のあるところまで指示を出しながら進んでいく。
「アーバス本当にこの道で合ってるの?」
「あぁ、最短ルートなんだよ。ちょっと道中のモンスターは多めだけどな」
とアミールが聞いてくる。戦闘は既に5回目でいずれもアミールが剣を振るだけでワンパンしているが、予想以上の戦闘の多さに間違っていると思ったのだろうな。迂回して戦闘を回避するルートもあったのだが、アミールが軽くワンパンできるくらいの相手だったので迂回するよりも戦闘回数は増えるが、近道を通った方が早いとアーバスは判断したのである。
「ていうか次の階層への階段の場所とかわかるのね」
「そりゃ索敵魔法使えるからな。こういう時に便利なんだよ」
次の階層がわかると便利だからな。本来はモンスターの居場所や敵を見つけたりするものであるが、アーバスはマップとしても優秀だと習得した時から思っており、今では一つの都市くらいなら簡単に索敵出来てしまう程の広さを持っている。そこから戦闘すること更に数回すると早くも2層目への階段が現れた。
「わぁ。本当にありましたね」
サーラが純粋に感動する。レベル2になって1層あたりの大きさが少し大きくなったが、まだまだ余裕で索敵出来る範囲であり、ここまでわずか10分で着くことができたのである。
「ダンジョンって次の階層への階段を見つけるのが大変って聞いてたんだけど」
「そうですね。なんかここまであっさりだと大変なのかどうかわからないですね」
あまりにも早い次の階層への階段の発見に戸惑う2人。普通ならこれを手探りで探すみたいなので階段を探すのに苦労するだろうな。それこそ闇雲に探したら1日かけても次の階層への階段を探すことが出来ないくらいにだ。レベル5まででも一層が相当広いらしいのだが、レベル6以降は更に広くなるらしい。
「それなら、この調子なら今日中にレベル2をクリア出来そうね」
「そうですね。レベル2の攻略に数日か掛かるとは思っていましたからこれは有り難いですね」
「そうだな」
敵もゴブリンやコボルトしかいないし当分はアミールで大丈夫だろう。俺とサーラは暫くは何もしなくても大丈夫だろう。2層目以降も特に敵の強さが変わるのとはなく、順調に攻略は進んでいく。昨日と違い、レベル2のダンジョンでは隠し扉などは見つからなかったので特に寄り道することなく最短で5層目まで辿り着く。
「さて初めてのボス戦ね」
「そうですね。どんな敵かか楽しみですね」
「道中はアミール一人で余裕だったしな」
ここは5層目に入る前の広間で、ボスと戦う前に準備などをする場所である。アーバスはここからボスを確認出来ないかと索敵を試みるが、何故かボスの様子を見ることは出来なく、更にはさっきまで居てた4層目の様子も探索することは出来なかった。
「アーバス、ボスが何かわかるかしら」
「ボスがどんなのかはわからないな。索敵したがここからではわからないらしい」
「アーバスだとわかると思ったのに予想外だったわ」
「何故か見れないんだよ。ダンジョン特有の特性なのかもな」
ダンジョンは何故か外での常識が通用しないことが多い。索敵もそうだしHPもである。イレギュラーモンスターは外でもあるので特には気にしてはいないが、それでも違和感に慣れるまでには少しかかりそうである。そしてボス戦となると昨日のハイレッドドラゴンのような倒した時に出るドロップを期待してしまう。ハイレッドドラゴンの高性能なものを期待してないにせよ数%でいいからアミールやサーラに付けることが出来るアクセサリーがドロップすると良いんだがな。
「よし。準備できたようならボス戦行きますか」
「そうね。サーラは大丈夫?」
「私も大丈夫ですよ。行きましょうか」
全員準備が出来たのでボス戦へと向かう。広間から階段を降りて5層目に降りる。階段からは様子は見れなかったが、降りて道を少し曲がると開けた場所に出てきた。この場所は昨日ハイレッドドラゴンと戦った場所と全く同じような作りであった。昨日は中央にレッサーレッドドラゴンが既にいたのだが、今回は中央に何もおらず何も居ない殺風景な状態であった。
「何も居ないわね」
「誰かが倒してしまったのでしょうか?」
ダンジョンは皆同じではなく、パーティー毎に別々のダンジョンに潜ることになるという。なのでどれだけの人間が同じレベル1ダンジョンへと行こうとも、他のパーティーと遭遇することはまずないらしいので誰が倒したとかはないだろう。
「サーラ、それはないと思うけどな。一応直ぐにでも戦えるように準備しておけ」
アーバスは疑問を感じながらも襲撃に備える。次の階層への階段は見えていないのでボスがいることは確実だろう。アーバスはボスが居ないので強敵が居ると思い、索敵魔法を継続させながら敵の居場所や襲撃に備えておく。そしてアーバス達全員が階段から降りると入口がいきなり塞がってしまう。
「アーバス。帰れなくなったわよ」
「ボスも居ないしどうしましょう?」
「いや。これからみたいだぞ」
アーバスは中央を見つめる。さっきまでは魔力の欠片も無かったのだが、入口が塞がると同時に中央に魔力が集まりだした。恐らくは全員が中に入ることがトリガーなのだろう。魔力が集まっていき、そこからモンスターが生まれる。魔力の光でモンスターの姿は見えないが魔力でおおよその強さはわかる。魔力の光が収まるとそこにいたのは…
「キュッ」
道中で何度も戦ったハイスライムが5匹いるだけだった。魔力の量で大体察しはついていたがまさか本当にスライムだけとはな。確かに道中は最大2匹だったのでそれと比べると多いが、それでも強敵のボスを期待していたアミールからしたら凄く落胆だろう。
「はぁ…」
アミールは少し呆然とした後にため息をつくと無言でハイスライムに接近する。ハイスライムはアミールの速度に着いていけないようで何も動くことなくその場でただ飛び跳ねているだけだった。アミールはスライムの目の前まで到達すると無言で剣を振るう。
「「「「「キュゥ…」」」」」
ハイスライム達は一瞬で真っ二つになりそのまま断末魔をあげて光になる。光に帰った後、ドロップするか期待をしていたが、何もドロップすることはなくそのまま次の階層への扉が開かれただけだった。
「行きましょ」
「そうですね…」
「行くか」
アミールが退屈そうにそう言うと皆賛同する。初心者向けのダンジョンとはいえ流石に弱すぎないか?ドロップもないしな
「レベル2の階層ボスがただのハイスライムだとは思わなかったわ」
「俺もだ。まさか道中の敵がボスなんてことあるんだな」
アミールが6階層の道中でそんなことを言う。それは俺も思ったよ。昨日は3層で攻略が終わってしまったから階層ボスがどんなものかわからなかったんだよなぁ。
「しかも6層から普通にハイスライム5匹出てきますね」
「そうだな。まさかボスが道中に出てくるとしてももうちょい先かと思っていたぜ」
ハイスライム5匹でも残念だったのに更に6層での戦闘でハイスライムが5匹出てくるとボスなのになんで道中と変わらないのかとなってしまう。思っていたボスのイメージは倒すと暫くしてからや他のレベルのダンジョンの道中で出てくるものだと思ってたからな
「しかも何もドロップしませんでしたね」
「それよ。何か良いのドロップしたら少しは達成感があるのに何もないから道中と変わらないじゃない」
「それは確かにそうだな」
しかも連携の練習にもならないしな。アミールは身体強化なども何も使わずに剣を振ってるだけだし、俺とサーラに至ってはただ付いていっているだけで何もしてないからな。
「道中も変わり映えしませんね」
「そうだな。階層ボス超えても変わらずか」
階層ボスを倒したので少しは強化されたモンスターや新しいモンスターに道中会えることを期待したのだが、ただ、モンスターの数が最大5体になっただけで何も変わらなかったのである。
「アミールそこ左な」
「わかったわって何も無いわよ」
そこにあったのはただの壁だが、ここには昨日みたいに隠し扉があるのである。実は今日発見したのは2つ目なのだが、1つはモンスターが強くてアミールとサーラが戦えないくらいには強敵だったので敢えて見逃したのである。恐らくアーバスが戦ったら勝てたと思うが、それだとアミール達は次のレベルの階層が出現するだけでアーバスみたいに何レベルの選択は出来ないだろう。アーバスは昨日と同じように隠し扉に魔力を込めると隠し通路が出現する。
「アーバスこれって」
「とりあえず先に中に入ってくれ、この扉少しの間しか開かないんだ」
アミールの質問に答えるより先に隠し通路へとアーバスは誘導する。隠し通路に入って少しすると扉が消えて前に進むしかない1本道になる。
「これはまさか隠し通路ですか?」
「そうだ。見つけたのは昨日でたまたまだったんだかな」
「つまり強い敵がいるとのとこですか」
「そういうことだ」
そのまま歩くと先程と同じような大広間に出てきた。ただ、先程とは違い今回はボスは既に出現しておりその姿を見ることが出来た。
「あれはハイオークね。確かレベル5のボスよ」
「これは強敵ですね。勝てるでしょうか?」
「まぁ何とかなるだろ。アミール先陣は任せる。サーラはバフを」
「わかったわ」
アミールはアーバスの言葉に頷くと直ぐにハイオークへと切り込む。5層の時とは違い、アミールは身体強化魔法をかけており、剣には氷属性を付与していた。そしてアミールが切り込む間にサーラがアミールにスペシャルアップとオートキュアを付与して戦闘が開始される。