154話 1組は総力戦?
「アーバス、どういうことか説明してくれへんか?」
「いいぞ。と言っても単純な理由なんだけどな」
会議が終わってクロロトとターニーが部屋から出ていった後、リンウェルに説明を求められたアーバスは昼休みでの出来事を掻い摘んで話す。
「そういうこと。やっとクロロトは改心したのね」
「そうですね。ようやく間違いに気づきましたか」
アミールとサーラはどうやら思うことがあったようでクロロトの変化に関心を示していた。そういえばアミールとサーラは同じ初等部だったみたいなのでクロロトの平民軽視の姿勢には思うところがあったんだろうな。
「なる程な。それならウチも賛成やな」
と、リンウェルも賛成する。もし、皆が賛成しないのなら個人的に参加しようかと思っていたので賛成で助かるな。
「それで本当に1組は準決勝にアミールとサーラを前線に出すんか?」
「そのつもりだ」
リンウェルが念の為に確認するが、アーバスの意思は変わらずだ。
「何故そうするのですか?普通なら温存だと思うのですが?」
サーラが不思議そうにアーバスに聞く。恐らく2組と4組は準決勝は戦力を温存するだろう。なんせダンジョンに2ヶ月も潜って実力を付けているはずだ。それを準決勝で出して他のSクラスにバラしたくはないだろう。
「そりゃ、アイツらも実力は伸びているだろう。だが、それに比べてここにいる3人はどれだけ伸びた?」
「!?そういうことですか」
ロインやクロエなどは単純に魔力や技術といった面が伸びているのだろうが、この3人には属性という新たな切り札が出てきているのだ。魔力や技術はレベル10を攻略している時点で凄く伸びているがバレているわけなので既存の属性で戦う分にはアーバスからしたら問題無いわけだ。それにサーラは3つの同時起動の練習をしているのでこれをマスター出来るとアミールを前線に出しながらアーバスが自由に動けるようになって戦略の幅が広がるからな。
「それに、誰がサーラのバフが掛かったアミール達を止めることが出来るんだ?」
「……………」
それを聞いて3人共沈黙する。入学してすぐのアミール1人でさえ全力バフのロインがやっと戦えるレベルなのである。そこに更にサーラのバフが加わったアミールをAクラスが止めれるはずがないのだ。
「つまりアミールの氷属性の範囲攻撃を中心としたごり押しということでしょうか?」
「そのつもりだ。大将は俺がやるから現場指揮はリンウェルに任せたぞ」
「わ、わかったわ」
リンウェルはその一言に逆に緊張する。なんせ1回それで失敗しているからな。相手はAクラスなのでまた障壁が割れて後衛が退場なんてしたらアーバスは決勝でリンウェルの指揮権を剥奪するだろう。
「アーバス、私は魔力制御が良くなってるみたいだけどそれは見せていいの?」
「いいぞ。というか見せびらかすくらいが丁度いいかな。アミールに戦力が集中することが好都合だしな」
アーバスからしたら前衛でアミールが暴れる方が好都合だからな。それを気にして決勝で他のクラスが本陣の周りを疎かにしてくれたらアーバスが本陣を削りきればいいだけだしな。逆に本陣を手厚くすれば今度はアミールによって前衛が退場されて終わるだろう。
「決勝戦の為にアミールを囮にするのですね」
「というよりアミールと俺は既に要注意人物で警戒されているからな。実力がバレたところで対処の仕方は変わらないはずだ」
対戦しない他のSランクである2組と4組であるが、先の対抗戦で俺がアミール以上なのはバレているし、クラス代表のアミールは元から要注意人物だしな。
それにどの対戦もそうだが他のブロックのクラスは観戦禁止になっている。これは下位クラスの勝率が少しでも上がるようにそうしているみたいで、事前に情報を仕入れることは出来るが、実際の戦闘や作戦を見ることが出来ないのでブロックの開始1戦目の戦闘を見ないことには詳細はわからないからな。それでも試合の噂は流れては来るのでその噂をアミールが無双したで終わらせたら1組の情報はアミール以外の情報は出てこないだろうというのがアーバスの予想だ。
「ってことはウチは後衛でええんか?」
「準決勝はそのつもりだが、決勝では何処かのタイミングで前衛兼現場指揮でいくつもりだから練習はしておけよ」
決勝に関しては何処かで隠している戦力を使用する必要があるからな。多分2組戦になるだろうが、状況次第ではアーバスも前線で戦うことになるだろう。
「ねぇ、私は?」
「アミールは全試合前衛だ。任せたぞ」
「やったぁ」
他のクラスの出方次第になるとは思うが今回の団体戦では全試合最初からアミールを前衛で起用する予定だ。対抗戦の時は最後までアミールを温存したせいか消化不良だったと本人が言っていたからな。
「ただ、追加で習得した属性を使うのはなしだぞ。タイミングは俺から指示する」
「わかったわ。氷属性だけでも十分よ」
「流石にそこまで事前に見せるのは良くないですよね」
アミール達の属性の練習はアリーナとダンジョンのみだからな。アリーナはアーバスが他から見られないように対策をしているし、ダンジョンはそもそも他のパーティーが入ってくることがないからな。
「ちなみになんやが他のクラスのパーティーの進捗状況ってわかってるんか?」
「ある程度はな。1番進んでいるのがロインのところでレベル3の下層を攻略中みたいだ」
アーバスは想像していたペースよりかは早くは進んでいるものの、アーバス達以外で1番進んでいてレベル3なのだ。倒したモンスターの数は当然ロイン達の方が上であるが、得られる魔力の量はアミール達の方が多いので魔力量や実力差は入学当初より開いているとアーバスは思っているのだ。
「思ったよりも進んでないわね」
「逆ですよアミール。私達の方が進みすぎているのですよ」
「そうやな。この時期でレベル3ならハイペースな方やで」
レベル3なことにアミールは意外そうに思っていることにサーラとリンウェルから突っ込みが入る。アーバス達のせいでレベル3が霞んでいるが、これでも進んでいる方である。
「というかアーバスはこんな単純な作戦でええんか?何かもう少し捻りがあってもええんやないか」
「さっきも言ったが準決勝に関してはそんなのは必要ないからな。それに2組と4組が負ける番狂わせもあり得るから細かい作戦は決勝の相手を確認してからでも遅くはない」
準々決勝のも試合を観戦出来ない以上、Sクラスは初戦の試合は事前情報なしで戦う必要があるからな。そこでもし負けてしまった場合は勝敗同率になってしまってくじ引きで決勝に行けなくなってしまうことだってあり得るので初戦を気を抜くのは1番良くないこどたからな。
「つまりアーバスはAクラスをボコればそれでいいと思ってるんやな?」
「言い方が悪いぞリンウェル。Aクラスに勝てば最後は消化試合だ」
「それも悪口じゃないの?」
リンウェルの質問に答えるとアミールが余計なことを言ってくる。Aクラスが両方共連敗してくれたら最後は戦わなくていいからな。もし、クロロトが応じてくれるのなら合意の引き分けでもいいしな。
なんせS1組とS3組の試合は最終日の午後なのでAクラスの結果を見てから相談出来るからな。なのでS3組戦ことはそこまで考えずにAクラスの試合に集中しておけばいいのだ。
「了解や。3戦共作戦考えておくからアーバス確認してくれへんか?」
「わかった。とりあえず2週間後に一旦確認するからそれまでにAクラス戦だけでも仕上げておいてくれ」
「わかったで」
戦うのはS3組の方が厄介だが、先にAクラスの作戦さえ準備してしまえばS3組戦に残りの1ヶ月程作戦を練る時間に使えるからな。
「何もなかったらこれで本日の作戦会議は以上だ」
後はリンウェルの作戦立案のみなのでこれにて解散となった。次の作戦会議は3組から声がかかるか、リンウェルの作戦が出来る2週間後だな




