150話 ドロップと宝箱
「やっぱり簡単だったじゃない」
と合流早々にアミールはそう言う。それは完封できる奴が言えるセリフなんだぞ
「ウチは結構大変やったわ。攻撃上昇があるとこれだけ違うんやな」
と、素直に戦ったリンウェルは強化されたモンスターに苦戦したようだ。戦闘を見ていたが、ハイスケルトンナイトの攻撃は一見すると捌けていたように見えるが、攻撃スキルや魔法を駆使していても時折槍を弾かれて態勢が崩れることがあったからな。リンウェルの実力は伸びているはずなのだが、ダンジョンのレベルが上がっているせいでいつもギリギリな戦い方をしているな。
ただ、力不足ということではないので、ここのままいけば次の団体戦ではロインのように前衛兼作戦指揮の枠に落ち着くだろうな。
「そうなの?普段のハイスケルトンナイトと変わらなかったけどね」
アミールはそう言っているが、放課後練習している魔力操作が実を結んでいて今まで身体強化の魔法の際に漏れていた余計な魔力が身体強化の魔法へ回せているので自身のバフが練習前と比べて格段に質が良くなっているのである。そのせいでハイスケルトンナイトの攻撃上昇以上にアミールの身体強化の魔法が上を行ってしまったのでアミールにはそこまでの変化が感じられなかったのだろう。
「そんなこと言えるのはアミールやアーバスだけやで、学園のトップ層がここで詰まるのも納得やで」
とリンウェルは1人で納得する。このレベル11で詰まる理由としてはレベル10を攻略した時点で卒業までのタイムリミットが近いのに階層が増えるのとハイスケルトンナイトの攻撃上昇スキルなんだとシエスが言ってたからな。ただ、ここを初見で簡単に攻略出来ると30層くらいまでは簡単にクリア出来ると言っていたな。ただ、卒業のせいで30層までたどり着ける学生は20年に一度くらいの頻度だとも言ってたっけ?
「そうだろうな。このパーティーはBランク2人ととCランク1人の組み合わせだから1年の中では最高クラスのパーティーだしな」
他のクラスにはクラス代表ともう一人がBランク冒険者だけで後はCランク冒険者相当で構成されているからな。
なのでクラス間を跨がない限りはBランク冒険者2人とCランク冒険者2人のパーティーが最高のパーティーとなるが、恵まれている1年生でこの状況なので4年生とはもっと低いところからスタートしているはずなのでトップ層がここで詰まって卒業はあり得る話だな。
「ま、考えても仕方ないわ。行けるところまで行きましょ」
「確かに今考えたところでどうしようもないしな」
と、アミールの開き直りにリンウェルも納得する。考えたところで仕方ないのはその通りだし、攻略の詰まりもリンウェルが完全に詰んでからにしようかなとアーバスは考えようと思ったしな
「攻略してもボスの宝箱は相変わらずね」
「銅色の宝箱がレアこと忘れてないか?」
レア度+1のおかげで宝箱がドロップするたびに銅色以上であるが、本来は凄く確率の低い現象みたいだからな。アーバスは気になって調べたのだが、宝箱の色が変わるのを検証した文献を見つけることができ、そこには探索者の1流ランクである50層以上での宝箱の色の確率が纏められていたのだ。それによると銅色の宝箱のドロップする確率は1000中5回と非常に低い確率となっていたのだ。
ちなみに銀色以上の宝箱のドロップ記録は無かったらしいが、銀色と金色の宝箱は実際に確認されているみたいだった。
「う、うるさいわね。それくらいわかっているわよ」
「絶対わかっていなかったですね」
「だな。一回外した方がいいか?」
アミールはわかっていない様子でそんなことを言ったのだった。アーバスも銅色の宝箱に慣れすぎて感覚が麻痺していたのだが、確かに銀箱以上の宝箱じゃないとドロップした時の喜びはないように感じるな。なので本来のドロップの悪さを理解する為にも一回レア度+1の指輪を外して普通のドロップの酷さを理解した方がいいかもしれはいな。
アーバスは簡単に指輪を外せるのはエクストリームの倍率に慣れすぎてノーマルでのドロップ倍率にそこまで魅力を感じていないのもあるけどな。
「外さなくてもいいわよ。確かに慣れすぎて指輪の効果で良いドロップになっているのが忘れがちになるわね」
「そうやな。当たり前すぎて忘れてまいそうやわ」
レア度+1指輪がダンジョン攻略を始めて直ぐに手に入ったせいもあり、アーバス達はレア+1を付けて攻略している期間の方が長くレア+1を装備している状態の方が常識になりつつあるからな。実は非常にレアな装飾品なことを知っておかないとな。あれからルーファに市場でレア度系の装飾品を探してもらっているが、レア度+1すらオークション等に出て来てないらしいからな。
「何これ、もしかして銃?」
「うーわ」
と、アミールが取り出した銃にアーバスは非常に見覚えがあった。何ならアーバスが欲しい武器の1つでもあった。
「アーバスこれが何か知っているの?」
「あぁ。スタンライフルだな」
スタンライフルとは特殊武器の1つである気絶を付与出来る銃で、この武器が発射する弾に当たると非常に強力な気絶蓄積を行う武器である。
ただ、気絶の蓄積はドロップした武器性能に依存するので高い気絶蓄積があるスタンライフルをドロップ出来ると理想なので、アーバスは良い値を期待しながら鑑定をかける
「ほぼ理想だと…」
アーバスはその数値に驚愕する。一発で入る気絶蓄積は脅威の300でこれはAランクモンスターで気絶耐性がなければ最初は一撃で気絶になる数値だな。気絶蓄積は気絶の回数によって蓄積値が増えるので何回も気絶し続けさせるということは難しいが、ノーマルで確認されているスタンライフルではほぼ最高の値である。
「アーバスそんなにいいのこれ?」
「というより俺が欲しかった物だな」
アミール達にもわかりやすいようにこの武器について説明をする。そして市場に存在している物で最高値レベルということも付け加えておいた。
「そうなのね。アーバス、大切に使ってね」
と、アミールは何の躊躇いもなくアーバスにスタンライフルを渡してくる。
「良いのか?相当な大当たりだぞ」
「いいわよ、私が使えない武器だし。それにアーバスが欲しかった武器なんでしょ。パーティーのルールだから渡して当然でしょ」
とアミールは言うのでアーバスは受け取る。確かに事前の取り決めでそうなってはいたが、実際に渡されると申し訳なくなるな。アーバスは相場の値段である白金貨3枚で買い取ろうとしていたしな。
「それにサーラの持っている龍刀と私の持っている雷刀。これ本当ならとんでもない値段が付くんでしょ」
と、アミールは続けた。上位属性の属性剣なんてそんな簡単にドロップするもんじゃないからな。それに龍刀と雷刀はエクストリームクラスの装備なのでこれと同等の属性剣は存在しないはずだしな。ただ、属性剣は皆が覚えたら最終的には売れるのでスタンライフルとは扱いが違うはずなんだけどな
「そういうことなら有り難く受け取るか。ありがとうアミール」
「普段から助けてもらってるんだから気にしてないでね」
アーバスは感謝してアイテムボックスへスタンライフルを仕舞う。そこまで恩を売っていたつもりは無かったのだが、まさかサプライズで貰うことがあるとは思わなかったな。
「さ、ドロップを確認したし戻ってお昼ご飯でも食べましょ」
と、アミールを先頭に階段を降りて転移陣のある広場へと降りた時だった。
「あれ、宝箱があるわ?」
「それミミックやないか?」
「でも、クリア後なんで出ないのではないのですよね」
と、リンウェルは宝箱に擬態するモンスターかと疑うが、サーラの言う通りボス戦後なのでその先にモンスターはいないはすだ。転移陣もあるしな
「確認したがミミックではないな」
「レベル11の最速攻略報酬と書かれていますね」
アーバスが鑑定と看破でミミックでないことを確認するとサーラが宝箱の上部に彫られていた文字を読む。
「最速ね。攻略に1週間掛かったはずなのだけど」
とアミールは独り言を言う。確かに15層までの攻略は先週なので1週間掛かっているな
「何か条件はあるのでしょうか?」
「知らないな。というか初めて聞いたぞ」
ダンジョンにクリア報酬があるなんて思わなかったからな。後でシエスに聞かないと条件などはわからないだろう。
「とりあえず悪いものではないので開けましょうか。アーバス、開けて下さい」
「俺か?」
「はい。ここまで最速で来れたのはアーバスの力ですからね」
アーバスが居なかったらここまで速くに来れないが、まさか開けるのに選ばれるとは思っていなかった。
「指輪か………これはアミール行きだな」
宝箱の中は指輪だった。アーバスはスキルを確認するとアミールへと渡す。
「何でなの?さっきのお返しとかならいらないわよ」
「じゃなくてスキルが剣のダメージ強化だからな」
指輪のスキルは剣ダメージ強化で大アップの付いたものだった。特定の武器によるダメージアップはノーマルだと中までしかドロップしなかったはずなので恐らくハードクラスの当たり武器だろう
「でも、リンウェルは今炎刀よね。つかえないの?」
「あぁ。武器変形で槍に変わってるから槍扱いなんだよ」
武器変形で変わった武器は元の武器がどんな形だろうが変形先の武器に変わってしまうからな。なのでこれはアミール専用の装飾品というわけだ。アーバスも銃を使う関係で使えないしな。
「なる程ね。それなら有り難く受け取るわ」
とアミールは装飾品を有り難く受け取って左指輪に装備する。アーバス達は他に宝箱がないことを確認すると転移陣で地上へと戻るのだった。