15話 知らない難易度の存在
「シエスいるか?」
「えぇ。いますよ」
アーバスはロインと解散するとそのまま校長室へと直行した。シエスはまだ帰っていなかったたようで、アーバスはシエスの前に立つと、今日あったことを順に説明していく。
「レベル1にレッサーレッドドラゴンって本当ですか?」
「あぁ。2組のロインと一緒だったから不安だったらそっちにも聞いて貰っても問題ない」
「アーバスの発言に嘘はないと思いますが、それはおかしいですね…」
レッサーとはいえレベル1のダンジョンでドラゴンだ。レベル1を探索する人なんて初心者の1年や2年が大半なのでうっかり入ってしまったら全滅だろう。
「うっかり入ったら救助出来ないぞ。扉が1日1回しか開かないし」
「そこは心配ないですよ」
「ん?」
「アーバスってダンジョンに入ったことないのですね」
シエスからダンジョンについて説明される。ダンジョンではダメージを受けると身体にダメージがなく、模擬戦のようにHPにダメージが入るそうだ。ダンジョンでHPがゼロになっても探索者は死ぬことはなく、代わりにダンジョンの入口へと強制的に転移される。そうなった場合のペナルティとしてその日はダンジョンへ潜れなくなるとのことだった。負けたら死ぬとアーバスは思っていたのでもしハイレッドドラゴンに押し負けそうな時は奥の手を使おうと思っていたがそんなことは必要なかったらしい。結果的に使うことはなかったが今後は負けても死ぬことはないと考えると気楽に挑めそうだ。
「それとアーバス。その指輪はなんですか?」
「これか、これはその時のレッサーレッドドラゴンを倒した時のドロップだよ。性能まではロインに伝えていないけどな」
伝えなかったのはこの問題はシエスに話すべき内容だったのとそんなものの存在が確認されれば暗殺者が来るか、無茶してダンジョンに挑むバカが増えるかのどちらかだと思ったからだ。シエスは指輪の性能を聞くと驚いた様子で机の中から1つの板を取り出してきた。
「アーバスここに触れて貰ってもいいですか?」
「あぁ。いいぜ」
アーバスが触れるとそこには大量のダンジョンのレベルが表示された。アーバスはなんだこれ?と思いながら眺めているとシエスはため息をつきながら
「アーバス何を倒したらこんなことになるんですか?」
「変異進化のレッサーレッドドラゴンを倒しただけだが?」
「変異進化?どういうことですか?」
シエスがまた驚く。そういやレッサーレッドドラゴンが進化したなんて言ってなかったっけ?アーバスが説明するとシエスはまたもやため息をつき
「メルファスの切り札はそれくらい普通ですか…」
と呟いた。普通も何も今まで戦ってきた相手と比べたら天地程の差があるくらいには弱かったぞ。今じゃその相手は味方であり部下であるんだが。
「ところでこれは何なんだ?」
「これは今アーバスが行けるこの学園のダンジョン一覧ですよ」
表示されていたのはアーバスが行けるダンジョンらしい。ロインが2階層しか表示されいないのは恐らくあのハイレッドドラゴンと戦っていないからだろう。ロインには下がって障壁の中に居てもらっただけだからなぁ。戦闘に参加していないとこれだけのダンジョンの追加はなく、ただのレベル1クリア扱いになるのだろう。アーバスはその中にある謎のものについて聞いてみる。
「このレベルの前に名前がついているのはなんだ?」
「これですか?これはハードとエクストリームといって通常のダンジョンよりも強い敵が出てくるそうですよ。多分ですがエクストリームの方が上みたいですね」
どうやら新しいレベルとのことだった。ハードはレベル100、エクストリームはレベル1が開放されている。シエスが言うにはハードはノーマルのレベル100をクリアすると現れるもので、エクストリームは見たことはないらしいが恐らくハードのレベル100をクリアすると出てくるのだろうとのことだった。現状シエスが知る限りでは1番深く潜っている探索者でもハードのレベル1が限界とのことらしい。ノーマルのレベル100とハードのレベル1は雲泥の差があり、ダンジョンがレベル100から先がわからないのはそこまで到達した探索者はハードしか潜らなくなるのでレベル101のダンジョンへは行かないからだそうだ。
「アーバスはエクストリームに行く気はあるんですか?」
「行く気はあるんだけど暫くは無理そうだな」
この5日間はアミール達とダンジョンにいてる可能性が高く、探索中はダンジョンに入れる時間限界までいることになるだろう。となればエクストリームに行くのは授業がある日の放課後にいけるかどうかだろうな。シエスも事情を察したのか
「ならアーバスだけダンジョンに入れる時間を伸ばしましょうか。といっても3時間伸ばすのが限界ですが」
「むしろ十分だ。ありがとう」
3時間でどれくらいいけるかはわからないが、これでアミール達とダンジョンに行く日でも少しは攻略出来るだろう。
「ただ、調査でもあるのである程度の情報が揃えば報告を下さいね」
「わかった」
エクストリームは今のところは到達している人間は皆無らしいからその調査の為の3時間なんだろう。1層がどれくらい時間掛かるかわからないし、何層毎に一時帰還の転移陣があるかわからないがそこそこ進むことは可能だろう。足りなくなりそうならシエスに言って時間を追加して貰ってもいいしな。
「これも1組が序列1位だから出来るのですよ。序列1位で最優秀者なら多少優遇しても誰も文句を言わないですからね」
ダンジョンの入れる時間を伸ばすのは通常だと他の生徒に配慮する必要があり、例外を設けてしまうと更に上のクラスや序列に配慮してその人達も増やさないと行けなくなるのだという。更に2組との最終戦でアーバスは13対1の劣勢を1人でひっくり返して序列1位を獲得したことにより最優秀者となっていたとのことだった。これは序列1位クラスの1番活躍した者に与えられるものであり、これがあるとただえさえ有利な序列1位クラスなのに更に好条件を貰えたりするとのことだ。シエスがアーバスにSクラスを勧めたのもそれが理由であった。Aクラスの最優秀者でもダンジョンに入れるのだが、例外が出来た時にはSクラス全員か最優秀者にも同じ待遇を付与する必要があるみたいだしな。アーバスが活躍して最優秀者になったことによりシエスはアーバスにある程度の例外を付与出来るとホッとしていたのはまた別の話である。
「そういやパーティーの場合ってダンジョンへのレベルはどうなるんだ?やっぱり1番下に合わせてか?」
「いえ。逆で1番上の人のダンジョンレベルまで入ダンできますよ。ただ、足手まといになったり、途中でHPがゼロになるとダンジョンに入れなくなるので1番下の人のダンジョンレベルに合わせることを推奨しています」
一応レベル2からでも始めれるらしい。レベル1は初心者ダンジョンだからな。明日はレベル2から始めても問題ないだろう。エクストリームは味方のフォローなんて出来そうにないので当分はソロで挑むことになるだろうけどな。そもそもパーティーでエクストリームに挑むことになることなんてあるのだろうか…
「わかった。アミール達ならレベル2からで大丈夫そうだしそっから始めようかな」
「そうですね。アミールさん達なら5レベルまでなら自力で何とかなると思いますよ」
シエスの言う自力とはアーバスの支援なしで前衛をアミールのみだった場合のことらしい。1組のリーダーだけあって結構いけるんだな。レベル5以降も行けるとのことだが、安定してだと難しいかもとのことらしい。
「暫くは出番なしかぁ。しっかり経験を積ませますかね」
「そのほうがいいですよ。実力を伸ばすにはそのほうが手っ取り早いですからね」
ダンジョンでのレベルを上げようとしたら何回も実践を積ませるのが手っ取り早いらしい。アーバスも一緒に付いて行くだろうが、こりゃ暫くは出番なしになるかな。後衛にサーラも居ることだしサーラの護衛がメインになりそうだ。
「ありがとう。また進展があったら報告に来るわ」
「わかりました。期待してますよ」
アーバスはそう言うと校長室から退出する。これで自由期間以外は平日にエクストリームの攻略が可能になった。そしてアーバスは拠点に戻ると通信魔法でルーファと通信を始める
「アーバス様。どうしましたか?」
「ちょっと聞きたいことがあってな。今ある魔力軽減の指輪って最大何%だ?」
「今ですか?今商会にあるので18%ですね。存在しているものだと20%が限界ですね。それも上位探索者が持っている1個だけですので探索者を辞めない限りは出回りませんね。値段もどれくらいになるか想像がつかないですね」
最大は20%か。それを考えるとこの指輪の性能はやっぱりおかしいな。
「魔力軽減なんてアーバス様が珍しいですね。これは何かありましたか?」
「あぁ。とんでもないものが出てな。そっちへ行こうか?」
「いえ。こちらから向かいます。5分程でそちらへ着けるかと」
「わかった」
通信を切って5分が経とうとする前にルーファがやってきた。アーバスはそのままリビングへ通すとルーファはアーバスの向かいに座る。
「アーバス様の言っていたものはその指輪ですか?」
「あぁ。やっぱりわかるか?」
「普段魔道具を着けているところを見たことが無いですからね。私達からすれば目立ちます」
アーバスは普段魔道具を着けていないのでルーファからすれば目立つらしい。アーバスは指輪を外すとルーファに渡す。ルーファはそれを鑑定すると恐る恐るこういった。
「アーバス様。これはどちらでドロップしたのですか?」
「これか。これは学園のダンジョンのレベル1でドロップしたものだ」
「今レベル1って言いましたか?」
「あぁ」
ルーファはその発言に驚く。ダンジョンのレベル1というのは初心者ダンジョンであり、弱いモンスターな上にドロップ率が低くアイテムなんて確認されていないからである。
「こんな性能の魔道具は初めてです。仮にこれが出品されたとして商会の年間予算を使用しても落札出来るかわからない代物ですね」
「そんなにか」
「何せ今の最高軽減率の4倍ですからね。詳しい話を聞いてもよろしいですか?」
アーバスはシエスにも話したようにルーファにも今日の話をしていく。ルーファは全部を聞き終えると
「つまりは隠し扉の先に災害級がいたということですね」
「そういうことになるな」
災害級とはそれだけで一国が滅びるようなモンスターのことを総称してそう呼ばれている。確かに変異種のハイレッドドラゴンなら災害級だろう。今のメルファスならこいつの討伐に13聖人の中から二人は最低でも派遣する必要ならあるだろう。
「それは確かにあり得る話ですね。隠し扉の先に強敵がいることは普通ですし、ダンジョン攻略のレベルが上がるのも当然です。知っていますか?最高レベルのダンジョンを攻略している探索者の現状は?」
「そういえば知らないな」
「アーバス様はダンジョンには行きませんからね。現状ですが、ハードのレベル1までは到達していますが実際の攻略はというとノーマルのレベル70までしか攻略されておりません」
「それはどういう…」
ことだと聞こうとしてアーバスは途中で気づいた。ダンジョンをレベル順に攻略してなくてもいい方法があると、それを今さっき自分がやってきたということにも
「そう、隠し扉です。とあるダンジョンのレベル70にある隠し扉の先のモンスターを倒すとハードのレベル1が開放されることがわかりました。ただそのせいで強さが足りていないのでハードの攻略は浅い階層までしか出来ていません。その為、この20%もその浅い階層からであり、下層ではもっと強いものがあると予想されています」
「なる程な」
「ただ、これを見ますとその予想は合ってますね。ただ、変異種のハイレッドドラゴンがエクストリームでどのような立ち位置かは気になりますけどね」
「ハイレッドドラゴン自体はどこで出てくるんだ?」
ダンジョン外ではハイレッドドラゴンと戦ったことはあるがダンジョンではどの辺りで出てくるのかわからないので聞いてみる。レッサーレッドドラゴンが確かレベル10の最深層のボスなので流石に確認されていると思いたい。
「ハードでも見つかっていないですね。レッドドラゴン自体は60層の最深層で確認されていますので、恐らくは100層付近の深層ボスの可能性が高いですね。」
「見つかってないのか…」
「えぇ。探索者は冒険者よりも弱いですからね。ハイレッドドラゴンですらも討伐出来るか怪しいところです」
探索者とはダンジョンを主に活動する人物のことで、冒険者は外のモンスターを狩ることを主としているのである。違いはHPがあるかないか、外ではダメージを食らえば当然身体に入るので命がけである。その分素材は高価で、モンスターによっては一生分の金額が入ることを少なくはない。死ねない分だけ冒険者は慎重に倒すモンスターを選ぶので同じモンスターを相手にするにも冒険者の方がレベルが高い場合が多い。逆に探索者は死なない分だけ上のレベルのモンスターに挑むことが出来るのはメリットであるな。
「なるほどな。ありがとう、呼んですまないな」
「いえ。こんな貴重なものな物を見せて頂きありがとうございます。アーバス様。また何かあればお呼び下さいね」
ルーファはそういうと商会の方へと戻っていった。アーバスは今日のこの1件をメルファスに報告するかどうか悩みながら過ごすのであった