13話 初めてのダンジョン
「へぇここがダンジョンか」
「レベル1の1層目とはいえダンジョンだ。気をつけた方がいいよ」
ダンジョンに入って最初に目に飛び込んで来たのはトンネルで囲まれた1本道だった。アーバスはその光景を不思議に思いながらも最短距離を探すべく索敵魔法で1層目の索敵を行う。ダンジョンは迷路状になっているみたいだが、モンスターはレベル1の一層目だけあってか初心者でも倒せるようなモンスターしかいないようでアーバスは最短距離のルートを決めると次の階層へ向けて歩きだす。
「アーバス君。聞いてるかい」
「大丈夫だ。既にこの階層のことは把握したからな」
「把握って君はどれだけ広いのかわかっているのかい?」
闇雲に歩き出したアーバスを止めようとしたロインだが、索敵を済ましたと言われて非常識だと言わんばかりに突っ込みを入れる。広いといったってたかが王都2個分だ。それくらいなら一瞬で把握できるし、何ならモンスターの種類や強さまで把握できたしな。
ただ最短距離で進むので、モンスターとのエンカウントを避けれないのは仕方ないだろう
ジュッ
「…」
道中、かれこれ十数回はスライムやゴブリンなどが出てきているだが、その度に魔力弾一発で倒されて光になって消えていく。外ではモンスターを倒せばそのままそのモンスターの死体を獲得出来るのだが、ダンジョンではそれは出来ずに代わりにドロップとしてモンスターの素材や場合によってはアイテムをドロップすることがあるらしい。ドロップ率は高くはないが、ドロップしたものは風魔法でアイテムボックスへと回収している為、アーバスとロインの歩くスピードは変わることなくダンジョンを進んでいた。そんなアーバスの姿にロインは最初こそ何か言っていたが、途中から無言になって着いてくるだけになってしまった。
「それにしても凄いねそれ。試合の時に体感したけど威力も速度もあるからびっくりしたよ」
ロインは対抗戦のことを思い出しながらそう言ってきた。あの時はバフがあったから一発のダメージはそこまでなかったが、モンスター相手だとそこそこのダメージを与えることができるからな。1層目のモンスターは単体だけだし、ステータスも貧弱だから単発の魔力弾だけで十分だった。
「これ魔力弾って言うんだけど、覚えておくと便利なんだけど使いすぎると剣の腕が落ちるのが問題なんだよな」
「確かにそれはあるかもね。魔力弾に頼ってると前衛の腕は落ちそうだもんね。後衛の魔術師なら使えそうだけど」
「魔術師は自分の属性の魔法を使う方がよっぽどダメージが出るからな。だから普通の魔術師は使いたがらないんだよ」
魔法は無属性よりも属性がある方がダメージが出る。属性には有利不利があり、不利属性相手だと威力は落ちるが、そうじゃない場合は属性のない魔力弾を使うよりも自分の得意属性で攻撃した方がダメージが出るのだ。アーバスは得意属性が系統外なので普通の属性の魔法よりも魔力弾の方が魔力の消費が少なくて済むから使用しているだけで、基本属性に適性があればその属性を多用していただろう。ちなみに魔力弾に属性を乗せることも可能だが、その場合は更に魔力を消費することになる。なので属性付与が必要な相手以外はアーバスは無属性の魔力弾を使って戦っているのである。
「そうなのかい。でもこんなにモンスターが弱いのなら僕の出番はなさそうだね」
ロインは魔力弾一発で消えていくモンスターを何回も見たからなのか、自分から進んで戦う気はないらしい。罠も今ところないし挟撃とかもモンスターの位置を見る感じなさそうだしな。アーバス達はそのままのペースで次の階層のある階段まで辿り着くとロインが話しかけてきた
「アーバス君。本当に今回がダンジョン初めてかい?」
「そうだが、どうした?」
「ってことは本当に入って少しでこの階層全体を把握したってことかい。すごいなぁ。普通なら次の階層への階段を探すだけでこの何倍もの時間がかかるよ」
ほぼ最短距離でここまで来たがそれでも30分くらい掛ってしまった。予定では5層目を攻略しても時間に余裕を持って帰ってこれると思ったが、思いの外ダンジョンが広かったので5層目までは最短距離で進んでも到達が厳しいかもしれないな。ただ、この規模を探索魔法なしで探すとなると1週間全部注ぎ込んで2.3層しかダンジョンを進めることが出来ないも納得である。ちなみにレベル1のダンジョンは全部で10層で構成されており、10層まで攻略すると次のレベルのダンジョンへ挑戦出来る仕組みとなっている。
「想像よりも広かったから時間は掛かったけどな。もしかしたら5層まで厳しいかもしれないな」
「別に大丈夫だよ。僕が1人で攻略するよりもだいぶペースが速いからね」
ロインとそんな会話をしながら2層目へと到達する。2層目といっても所詮レベル1だ。強さは1層目よりかは確実に強くなってはいるが、まだまだ魔力弾一発で余裕そうだ。
「次は僕が戦っていいだろうか。このままだと見てるだけになりそうだし」
「わかった。この階層は任せるぜ」
ロインがそんなことを言い出した。この階層も魔力弾だけで終わりそうなのだが、魔力消費を抑えるのも兼ねてロインにこの階層は任せることにした。
「せいっ」
ゴブリンがまた一体切られてドロップだけを残していく、1層とは違いスライムは出てこないしゴブリンも複数出てくるがそれでもロインには余裕があるみたいで途中からは身体強化やバフなしで戦っていた。一応何かあっても大丈夫なように魔力弾や回復魔法は準備しているのだが、ロインに攻撃が当たることはないし、攻撃も一撃なのでアーバスは特にやることがなく戦闘を見守っている。やってることといったら道案内くらいである。
「やっぱりレベル1なだけあって弱いね。アーバス君、下の階層もやっぱりこんな感じかい?」
「下の階層は行ってみないとわからないなぁ」
「それは範囲外だからかい?」
「範囲は全然問題ないんだが何故か見れないんだよ。多分ダンジョンの特性だと思う」
何故かは知らないが探索魔法で下の階層の様子を見ようとしても一切情報が得られないんだよなぁ。階層自体は階段で繋がってるのに不思議なものだ。今度時間がある時にシエスに聞いてみようかな。
「あった階段だ」
「今回は近かったな」
2層目は1層目と違い15分程で階段に到着する。階段自体固定なのかランダムなのか定かではないが、階層によって階段のある場所はランダムらしい。
「ん?」
「どうしたんだいアーバス?」
3層に着いたのと同時に探索魔法を使ったのだが、まさかの階段が2つあり、1つは普通の道にあるのだが、もう一つは奥まった位置にあり、その手前には明らかにこの階層に不釣り合いに強いモンスターが居るようだった。
「なんか変に強いモンスターがいるんだがどうする?普通の階段もあるようだが」
「アーバスに任せるよ。僕1人だとこのまで辿り着けてないと思うからね」
「じゃあ行くか」
ロインは少し考えてアーバスに任せることにしたらしい。アーバスはこのダンジョンの弱さに退屈していたので迷わず向かうことにする。
3層の敵も相変わらずゴブリンだけで時折ゴブリンの上位種のハイゴブリンがいたが、アーバス達の敵ではなかったので交互に討伐していく。そして
「アーバス君。この先に強敵がいるのかい?」
「あぁ。そうみたいだな」
目の前にはただのダンジョンの壁だが、この先に道があるようでその先に敵がいるようである。ただ、道を出す為には何かギミックみたいな物があるのだろう。アーバスはこの謎を解決する為に看破の魔法を発動する。これは隠し扉や暗号を解読する為に使われるものであり、これを隠れている場所に向けて使用したのである。
「なるほどなぁ」
「何かわかったのかい?」
魔法を掛けて道を出す為のギミックを解析すると意外なものであった。アーバスは壁に手をかざして魔力を込める。すると
「本当に道が出てきた」
「関心してる場合じゃない。行くぞ」
アーバスはロインを急かすと直ぐに隠し通路へと歩いていく。本当はアーバスも詳しく観察したかったが通路の開通時間が1分しかなく、また、1度閉じると次の日まで扉は開かなくなる為であった。この通路の道中はモンスターに一切出会わずに1本道であったが、やがて開けた場所に出る。
「ドラゴンじゃないか。何でこんなところに」
「さぁな。ロインはここで待っててくれ」
驚くロインをに対して、アーバスはロインを待機させると目の前のドラゴンと対峙する。ドラゴンは全身赤色で小型で体長は3メートルくらいあり、恐らくはレッサーレッドドラゴンだと思われる。こいつはドラゴンの中でも初級的なモンスターでそこまで強くない。ただ、それはパーティーで戦えばの話であり、ソロで戦う時は遠距離があるかないかで難易度は格段に違ってくる。本来、ダンジョンでドラゴンと戦えるようになるのはレベル10以上のダンジョンからで、ギミックがあったとはいえレベル1ダンジョンにレッサーとはいえドラゴンが存在しているのは異常事態である。ただ、普通のレッサーレッドドラゴンならロインも戦闘に混じっても問題無く戦えるレベルの強さであるのだが、アーバスが待機させた理由は別にあった。
(レッサーの魔力じゃないなこれは)
アーバスがレッサーレッドドラゴンを見た時に違和感を感じ取ったからなのだ。モンスターは体内に魔力があり、それの容量が多い程強いモンスターとなる。その為、魔力に反応する魔力反応を使うことでモンスターの魔力を測り、その強さでどれくらいのモンスターかを判別することが出来るのである。ただ、目の前にいるこのモンスターはどう見ても通常のレッサーレッドドラゴンよりも倍以上の魔力反応があるのだ。
(そのままレッサーだと良いんだが…)
アーバスはそう思いないがら魔力弾をレッサーレッドドラゴンへと放つ。レッサーレッドドラゴンは魔力弾が直撃すると敵が居ることに気づいたのか羽を羽ばたかせて飛び上がり、臨戦態勢を取る。
「そのままで居てくれよ」
アーバスは飛んでいるレッサーレッドドラゴンに対して魔力弾で追撃を行う。レッサーレッドドラゴンの弱点は水と雷であるが、水の方がダメージ量は多いのでアーバスは魔力弾に水属性を付与して魔力弾を撃ち込んでいた。相手のレッサーレッドドラゴンはドラゴンの中では小型なタイプではあるが、動きはそこまで速いことはなく、飛んでいった20発の魔力弾の内8発はレッサーレッドドラゴンに直撃する。残りはブレスで相殺されたり回避をされてしまったが、それでも十分なダメージをレッサーレッドドラゴンに与えることができた。ダメージは2割弱程で与えたダメージ量から普通のレッサーレッドドラゴンとそこまでHPに大差はないようであった。現状アイテムボックスから銃や剣は出してはいないが、このまま魔力弾で削り切れそうなのでアーバスはさっきより1つ多くに魔力陣を展開し、魔力弾で倒し切ることを選択する。魔力陣を1つ増やしたことにより30発へと増えた魔力弾はそれぞれレッサーレッドドラゴンを追尾するように飛んでいく。レッサーレッドドラゴンはあまりの数にブレスによる相殺を諦めて回避で避けようとするが、追尾により避けきることが出来ずに半分もの魔力弾が直撃する。
(チッやっぱりか)
今の攻撃でレッサーレッドドラゴンのHPが半分を切ったのだが、その瞬間レッサーレッドドラゴンから白い輝きが放たれる。これは進化の光で魔力容量が普通より大幅に超えているモンスターが一定のダメージを受けたりすると戦闘中にも関わらずモンスターが光り輝いて進化することがある。進化が起きると必ず上位の個体になるのだが、どこまで強くなるのかは進化してみないとわからないのだけどな。
進化といってもレッサーレッドドラゴンの場合はレッドドラゴンへの進化ルートしかないし弱点も変わらないのでやることは変わらないのは有り難いかもしれないな。ちなみに進化の最中は攻撃をせずに見守っているのだが、これは進化中に余計な魔力を加えると強化されたり、変異した個体になったりしたりしてしまうので進化は終わるまで待つのが鉄則である。
「ギャオオオォォォ」
「最悪だな…」
進化が終わって光が収まるとそこにいたのはレッドドラゴンではなくその上位種であるであるハイレッドドラゴンが鎮座していたのだ。
 




