12話 2組戦勝利とその後
試合終了の合図と共にアーバスは持っていた剣をアイテムボックスへと仕舞う。アーバスは仕切り直しの際に魔力弾でロインを狙うようにして攻撃したのだが、展開した4つの魔法陣から放った魔力弾の内半分はロインを通過した後、そのまま相手後衛へと飛んで行ったのだ。相手の障壁は通常であれば魔力弾を跳ね返すのだが、アーバスはこの障壁を魔法で干渉して書き換えており、外からの相手の魔法は素通りし、内側に当たる相手の魔法は反射するように書き換えていたのである。相手の後衛は障壁が改変されていることを誰一人気づくことができず、飛んできたアーバスの魔力弾によって全滅したのである。
「全勝できたのはいいが、まだまだだな」
アーバスは対抗戦を振り返ってそう感想を漏らした。全勝によりクラス順位は1位となったのだが、リンウェルの前線指揮やサーラの障壁といったクラスメイトに課題が残るような対抗戦であった。結果的に勝てたからいいものの、アーバスが居なければ下手をすると3位や4位の順位でも不思議じゃなかったのかもしれない。
「さて、戻るか」
退場した選手は控え室へと戻される。普段であれば残ったクラスメイトと一緒に控室へと行くのたが、この試合はアーバス以外は全員退場したのでアーバスは1人寂しくゆっくりと1組への控え室へと帰還する。
「戻ったぞ」
アーバスは控え室に戻るとクラスメイトにそう声をかける。クラスメイトはまだ勝ったことに対して実感がないのか複雑そうな表情でアーバスのことを見ていた。
「アーバス。試合はどうなったの?」
勝ったのを理解してないのか、それとも負けたと思っているか、アミールはそんなことを聞いてくる。全滅だったら控え室へと戻ってくるだろうがと言いたかったが、本陣を削り切られて負けた場合は確かに大将は控え室には行かないのでその確認だろう。
「試合か、そんなの勝ったに決まってるだろう」
その瞬間1組から歓喜が湧き上がる。リンウェルも一緒に喜んでいたのたが、障壁を貫通されて退場したところは後でお説教するけどな。
「アミール助かった。大部分の前衛を削ってくれたみたいだな」
アミールがロイン以外の前衛を退場にしてくれたお陰でロインだけに集中することが出来たのは有り難かった。もし、相手の前衛が10人くらい居たら被弾は避けれなかっただろうし、本陣も護る必要が出てくるので動き辛かっただろう。しかも人数差でロインにも余裕が出てきてしまうので後衛を壊滅させるにしてももう少し時間が掛かっていたし、状況次第では狙えなかったかもしれないからな。
「本当なら大将を倒したかったけどちょっと届かなかったわ」
アミールはそんなことをいう。1組の後衛が崩壊した時点で相手の前衛は10人ちょっと。サーラのバフや回復が退場してからもある程度続いていたとはいえ、そこから相手の前衛をロイン以外全員退場させることが出来たのはアミールだからこそだろう。
「それでも十分だ。そのお陰で余力を残して勝てたしな」
「そう言って貰えると頑張った甲斐はあったわ」
アミールとそんな話をしているとサーラもこちらへやってくる。
「アーバスさん。私が障壁を張らなかったばっかりに…ごめんなさい」
サーラが頭を下げてくる。バフや回復に回したせいで相手の攻撃に対応することが出来ずに退場したことを悔やんでいるのだろう。
「サーラは良くやったよ。今回サーラの役割はバフと回復だったんだからそれで良かったんだよ」
「でも、そのせいで」
「それは結果でしかない。そこまでいうのならバフと回復を掛けながら障壁を張るくらいにまで強くなるしかないさ」
障壁まで張ることが出来ればサーラを安心して大将に置くことが出来るしな。アーバスは自身が大将をする関係でサーラを前線に出したのだが、ひょっとしたら大将や護衛の方が合っていたのかもしれないな。
「はい。頑張ります」
「まぁ勝ちは勝ちだからな。とりあえず喜べ。反省はその後だ」
皆との会話は程々にしてアーバス達は教室へと戻る。その道中でリンウェルから戦況の報告を聞いたが、やはり相手は後衛に魔法での一斉攻撃をして後衛を崩してきたらしい。リンウェルはアーバスから忠告をされていたものの前衛が優勢であり、アミールとジャックとニールがロインを追い詰めていたので、リンウェルは勝負を決める為に予備戦力をバフに注ぎ込んだらしい。それにより薄い障壁の強化がされておらず、ロインを倒しきる前に相手からの一斉攻撃でサーラやリンウェルを含む後衛の大半がやられてしまったとのことだった。
だから警戒するようにと言ったのだがな。リンウェルにはこの第1期の間は戦術をメインに学んでおく必要がありそうだな。
「皆さんおかえりなさい。1組は第1期では序列1位を獲得しました。おめでとうございます。」
教室に着くと既に担任であるカイン先生が教壇に立っており、序列1位になったことを祝福してくれた。
「まずは、序列1位の特典として明日から5日間は自由期間となります。詳しくは後でSランクの掲示板に張られますので見ておいてくださいね。Sランクは既にダンジョンへの入ダンは出来ますのでこの期間にダンジョンへ挑むのも良しですし、勉強するのも良しです。遊ぶのは自由ですが、それだけ皆さんとの差は開きますし、成績が悪ければ来年はAランクやそれ以下も有り得ますので注意してください。それと自習期間は先生も可能な限りは教えますのでいつでも相談してくださいね」
と先生から軽い説明を受けると今日はこれで終わりだそうでそのまま解散となる。5日間の自由は大きいが、裏を返せばサボってると置いて行かれるということだ。5日間なのでそこまで大差は開かないとは思うが、それでも今後の学園生活には少なからず影響は出ることだろう。怠惰に生活をしてしまったら中々元には戻らないしな。
「ねぇサーラ。明日から一緒にダンジョンへ行かない?勿論アーバスも」
「いいですね。私も丁度同じようなことを思っていたんですよ」
「俺は大丈夫だぜ」
アミールが解散して直ぐにアミールからそんな話しを持ちかけてくる。アーバスは元々ダンジョンへ行く気だったので快諾する。サーラも問題ないようだ。
「じゃあ。明日登校の時間に教室へ集合ね」
そう言うとアミールはサーラを引き連れて下校する。アーバスは教室に残っているメンバーを確認する。大半は勝ったことに浮かれており、祝勝会や買い出しなどで既に殆ど下校しているがその中に1人今も机に向かっている人物がいた。
「リンウェル、まだ残っていたのか」
リンウェルは机にノートを広げて何やら勉強していたようだった。ノートの内容を見るに戦術関連だろう。
「うちは勉強や。この5日間更に戦術を勉強して次は戦術でクラスを勝たしたいんや」
リンウェルは戦術の勉強をするらしい。今日は現場指揮で負けたしな。次の対抗戦は当分先だが、リンウェルはそれまでに色々な戦術を勉強するようだった。
「そうか。確か学校には指揮用の魔道具があるはずだからある程度勉強したらそっちで実践してみるのもいいかもな」
この世界には魔道具というものがあり、魔法の代わりをするものから計算など複雑なものまで多種多様の魔道具が存在する。その中で、戦術を勉強する為の魔道具があったりする。その魔道具は魔道具上に展開された兵を自身の指揮で操り相手を倒していくというものである。
アーバスは使用したことはないが、良く他のメルファスのメンバーがこの魔道具で指揮の練習したり、仮想敵との戦い方を学んだりしてるのを見ていた。また、出せる敵には兵士以外にもモンスターも存在しており、他の魔道具も使用することで実際にそのモンスターと現実で戦えたりもする優秀なものである。他のランクだとそもそも貸し出してくれないかもしれないが、総数は少ないだろうが学園は持っているはずなのでカイン先生に言ったら貸し出してくれる可能性が高いだろう。
「わかったわ。絶対次は作戦で勝ったるからな」
次回はクラス内での模擬戦かもしれないし、他のクラスやランクとの対抗戦かもしれないが次回がどれだけ成長してるか楽しみである。
リンウェルは再び視線をノートに移すとアーバスはとある場所へ行く為に移動する。
「もしかしてアーバス君かな」
「ロインか」
その道中、声を掛けてきた今日の対戦相手であった2組のリーダーのロインであった。先程相手した時は真剣な対戦の時とは違って雰囲気をやさしく好青年という印象をうけた。
「もしかしてアーバス君もダンジョンに潜るのかい?」
「あぁ。どちらかというと下見だがな」
とある場所とはダンジョンである。明日になれば潜れるのだが、アーバスはアミールとサーラの実力が高いのは知っているのだが、普通に一層目から攻略しても問題ないのかの確認である。ちなみにダンジョンはレベル1から順番にあり、各ダンジョン最下層に着くまでに10層以上あるらしい。ダンジョンをクリアすると1つ上のレベルのダンジョンへと行けるようになり、レベルに応じて段々とモンスターが強くなっていくのである。現在確認されているダンジョンはハードのレベル10だが、それ以上あるとの噂があったりする。
「それなら僕も一緒にいいかな。実は僕も同じで明日の下見なんだ」
ロインも同じ理由らしい。お互いに深いところまで潜るつもりはないだろうし、全力も出さないだろうから別に良いだろう。
「いいぞ。ちなみにそっちは何日自習期間があるんだ?」
「2組は3日だね。ちなみに3位の4組は1日だけらしいよ」
1組は5日間なので2位から2日ずつ減っていくらしい。2日間しか変わらないと思うだろうが、2日もあればダンジョンの1つや2つを攻略出来たりするかもしれないしな。
「まさかあそこから負けるとはね。本陣へ引くのも考えたけど、嫌な予感がして攻め落とすことにしたんだ」
「なるほどな。その予感は正しいな」
ダンジョンのある施設まで向かう道中、ロインが今日の試合を振り返っているが、ロインの予感は冴えているなと思った。もし本陣に帰るなら遠距離から2組を狙うつもりだったしな。その場合、アーバスのところに着くまでにもう少し後衛が退場していたので戦力差はもう少し拡がっていただろう。
「やっぱり。クラスメイトからは批判はあったけど間違ってなくてよかったよ」
「本陣に引き篭もってたら勝ってたなんて言われてもな」
試合後クラスメイトから最後の攻めに関して批判があったらしいがアーバスは間違っていないと思っていた。前衛が大将しかいないのは寂しいところであるが後衛が半数残っていたのでバフの差で優位には立てそうだし、何より本陣に引き篭もった場合は大将以外にフラッグも守らないといけないので攻めるより守る方が難しかったりする。逆に攻めれば相手の大将は1人で敵のチームを相手しながらフラッグもを守る必要があるのでそっちの方が相手はキツイだろう。ただ、有利展開から負けたのもあってクラスメイトから余計なことを言われるのは仕方ないだろうけどな。
「そういえば今日はどこまで進むつもりなんだ?」
ロインの進む予定の階層を確認しておく、他の組の大将とはいえ普通の1年がどこまで行けるかは知っておくきたいしな。
「予定では2層か3層だね。1人で回復なしだとそれくらいが限界だと思う。理想はこの3日間でレベル1は最低限攻略しておきたいね。アーバスは?」
「俺は特には考えてないな。ただ、時間に限りがあるが5層くらいまで行けるかなと思ってる」
ダンジョンの広さはわからないが索敵魔法を使えば次の階層の入口くらいはわかるだろう。今日は放課後であまり時間がないのと敵の強さを確認したいので5層で終わるつもりだ
「ソロで5層までって凄いね。入学して直ぐにそこまでソロで行く人はいないんじゃないかな」
「ロインなら問題なく行けると思うけどな」
ダンジョンがどれ程のレベルかはわからないが、ロインくらいの実力ならそれくらい軽くいけそうなんだけどな
「着いたみたいだな」
そんな話をしているとダンジョンがあるダンジョン棟へと到着する。今日はどの学年も対抗戦があったからかダンジョン棟の中にいる学生はまばらだった。
「それじゃあアーバス君今日はよろしく頼むね」
「あぁ。よろしく頼むわ」
そういうと二人はダンジョンへと入って行った。