118話 違法な増築物で
「ここが地下牢ですか」
「あぁ。どうやらここのようだな」
アーバスとルーファはギルドマスターの奥の部屋にあった隠し階段から地下牢へと降りる。アーバスはレイラから事前にギルドの設計図を入手していたのだが、ここの存在は書かれていなかった。階段や地下牢がギルドの建物と比べて劣化がそこまで見られないのでどうやら後から増設したみたいだ。ギルドマスターからはここしかないとの証言を得ている
「さてと、まずはここからか行うか」
アーバスは近場の地下牢に近づくと鍵を開けて中に入っていく。中には少女が1人鎖で繋がれた状態で座っていたのだが、身体は痩せこけて呼吸もか弱く今死んでも不思議ではないくらいだった。
「死んではないな。起きれるか?」
アーバスの声に少女は反応するが、声を発する元気もないのか口を開くも1言も発することが出来なかった。
「ルーファ、水ってあるか?」
「はい。こちらに」
アーバスはルーファから水の入った瓶を受け取るとそれを床に置き、アイテムボックスから虹刀を取り出す。
「どうされるのですか?」
「まぁ見てなって」
何をするのかよくわかっていないルーファをよそ目にアーバスは集中して魔力を練り上げていく。成功はしたことはあるのだが、成功率はそこまで高くないからな。アーバスは魔力が問題ないこと確認すると練り上げた魔法を瓶へ向けて放つ
「成功だな」
「成功……ですか?」
アーバスは瓶を持ち上げて確認するとそう呟いた。瓶の中は透き通ってはいるのだが、水自体が虹掛かっているのだが、見ただけではどういう効果があるのかルーファにはわからなかった。
「飲めるか?」
アーバスが瓶を口元に当てると少女は少しずつではあるがその水を飲んでいく。アーバスは溢さないように注意しながら少女がそれを飲み切るのも待つそして
「これは…」
少女がその水をある程度飲み干すと少女が光輝き一瞬見えなくなると、次の瞬間には痩せ細る前の状態なのだろう。健康体そのものの少女へと変貌を遂げていた。
「これでもう大丈夫だ。名前を聞いていいか?」
「クラリエ・オゾールです。助けていただきありがとうございます」
どうやら少女の名前はクラリエというらしい。痩せ細っていたので気づかなかったが、改めて見ると年齢はほぼ同い年くらいだろうか。
「クラリエはどうしてここに?」
「私は冒険者として活動していたのですが、いつものように活動を終えた後、ギルドに戻ったのですが、気づいたらこのように…」
と右手の紋章を見せる。右手には奴隷の紋章があり、これは奴隷の契約をするとと例外なくここに紋章が現れることとなる。しかも、こっちの紋章は腕を切断しても効力が消えることはなく、契約を解除されるまで一生だ。
「ルーファ」
「はい。クラリエさん右手を」
「わかりました」
ルーファはクラリエの差し出された右手に両手を添えると契約解除の魔法を行使する。ルーファ商会は奴隷の契約や解除を行っており、時に商会の受付にも立つルーファ自身も奴隷関係の魔法を習得していたりする。アーバスがルーファを連れてきた理由はこの為で、アーバスは違法奴隷全員を解放する為にここへと来たのである。
「はい。これで大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます」
これで一人目か。地下牢には全部で12人いるらしいのでアーバスとルーファは順番に解放していくのだった。
「とりあえずはこれで終わりか」
「みたいですね」
アーバスは地下牢に誰も居ないことを確認すると、リーゼロッテ達の所へ合流する為に来た道を戻っていく。今頃は解放した人達を保護しているだろうし、そろそろシエスに連絡して治安部隊に引き取ってもらいたいので移動して連絡しておかないとな。
「ところでさっきの魔法は何だったのですか?まるでエリクサーみたいでしたが」
とルーファはクラリスに飲ませた水のことを気にしているようだった。元はただの水なのに死の直前から生き返るなんてエリクサーくらい強力でないと復活しないだろう。ちなみにエリクサーというのは伝説と呼ばれる薬の1つで少量で死者ですら蘇らせると言われている。その製造方法はなく、市場にも殆ど出てこない代物なのでその存在すら幻と呼ばれているくらいだ。
「その通り、エリクサーの錬成魔法だ」
「まさか、そんな魔法が存在していたとは」
あぁ。俺も試してみるまでは知らなかったよ。アーバスがエリクサーの魔法に気づいたのも直近で、もしかしたら虹属性なのでは?と思って試しにオカルトの本にあったエリクサーの魔法陣を虹刀を装備してそのまま使用したらまさかの成功してしまったのである。それ以降アーバスは魔法陣の改良を行いないがらエリクサーの発動練習をしていたのである。成功率は3割程と低いが、それでも得られる物が大きすぎるので、アーバスは定期的に錬成をして練習するようにしているのだ。
「もしよろしければ余り物でもいいので貰ってもいいですか?」
「それがまだまだでな。作ったエリクサーはどうしてか数時間で効力が切れるんだよ」
アーバスも幹部達に優先で渡したいのだが、どういう理由か知らないが作ったエリクサーの効力がそこまで長くないのだ。稀に出品されるエリクサーは効力に期限がないらしいからな。もしかしたら練度で効力が長くなるのかもしれないが、今のアーバスではこれが限界だな。
「そうでしたか。まさかエリクサーが虹属性じゃないと作れないとは思いませんでした」
「そうだな。そりゃ誰も作れないわな」
てっきり聖属性をマスターした後のオリジナルだと勝手に思っていたからな。虹属性で作れることは発見出来たので問題はトゥールで量産するかどうかの話なのだが
「安易に作れる人を増やさないほうがいいな」
「そうですね。作れる人が増えると価格崩壊どころか争いが起こりかねないですね」
今のエクリサーの価格だと1本で最低銀白金貨100枚以上の価値があるからな。もうオークションには十数年出ていないと聞くので、仮に今出品されたら金白金貨を出さないと買えないかもしれないからな。
「だな。仮に期限なしが出来たとしても幹部に1本ずつしか持たせないつもりだ」
「その方がよろしいかと」
一度期限なしで作成出来たら大量に作れることになるのだが、大量に渡してしまうと安易に使ってしまうし、ないと思うが横流しをするのかもしれないからな。
「リーゼロッテ状況はどうだ?」
「はい。特に問題はありません。後は引き渡せばそれで終わりかと」
アーバスとルーファが元の場所へと戻ってくると、どうやら確保した者達は気絶させたようで、全員白目を剥いて横たわっている。恐らく抵抗したからだろうが、アーバスが見ていないところでされると後遺症を起こしていないか心配になるんだよな
「失礼します。治安部隊と名乗る者が確保した人たちの引き取りに来ましたがどうされますか?」
「ありがとう。通してくれ」
シエスには連絡を入れていないはずだが動きが早いな。アーバスが許可を出して少しすると治安部隊の格好をした人物達2人が入ってくる。
「シエス様の命令で確保した身柄を引き取りに来ました」
「そうか。ご苦労だったな」
アーバスは治安部隊に労いの言葉を掛けるとアーバスはリーゼロッテ達にハンドサインで命令を出す。
「グァッ」
「ガッ」
レイラとリーゼロッテは拘束魔法で治安部隊の2人を取り押さえる。2人は拘束魔法で手荒に拘束されたからか痛みで声を上げる。
「貴様。メルファスだか知らないが、こんなことをして許されると思うのか!?」
「むしろ問題なのはそっちだろ。ギルド本部の職員さん」
「……………」
アーバスは2人からの非難に顔色1つ変えずにそう答える。シエスには連絡をしてから直接来るように伝えていたのに連絡もなしに治安部隊だけ来たので念の為に鑑定と看破で確認をしたのだ。鑑定では職業のところに治安部隊と偽装されていたが、看破を使うとギルド本部職員と本来の職業が暴かれて出てきたのだ。
「治安部隊が来たからって簡単に引き渡すと思ったか?こっちは全て打ち合わせ済みなんだよ」
「クソッ」
職員達は観念したのか力無く項垂れる。アーバスはレイラに他にもいないか確認を指示すると、待機していた治安部隊以外に野次馬の中にも数人紛れ込んでいたギルド本部職員も戦闘部隊に気絶させて連れてきてもらったのだった。