夏祭り 8
先ほどもらったりんご飴を手持ち無沙汰気味にくるくると回しながらイズマは言う。ここは空腹を感じないのだと。
「そういう意味で食欲はそそられないから食べようと思わないだろうけど、見た目が綺麗とか、懐かしいとか、そういうので食べちゃうってことはあるからね。」
イズマの言う通りだった。
バイト帰りで何も食べずに来たからお腹も空いてるし喉だって渇いていたはずなのに、何も感じてない。
そしてりんご飴を見て綺麗だと思ったし、昔の記憶を思い出して懐かしくなった。これも罠なのか。しっかり気を引き締めていかないと。
懐かしいといえば、昔、りんご飴だめって言われたことがあった気がする。
誰に言われたかは忘れたけど、家族の誰かだろう。ひとくち食べて残したのだ。そりゃそうなるよね。
「どうしたのサヨ?」
「その通りだなって思って。」
「とにかく気をつけなよ。」
「うん。」
昔の思い出に引きずられて返事をしてしまったけど、イズマは空腹ではない別の理由で食べたくなったと思ったようだった。
あながち間違いではないので、訂正せずに素直に頷いた。
「あたし食べれないし、イズマが食べたら?」
「いらない。」
捨てるわけにもいかないし、せっかくもらったのにもったいない。食べれないあたしの代わりに感想を聞かせてくれればいいのに。そういうと、イズマは困ったように笑った。
「ボクもここでのものを口にしちゃダメなんだよ。」
「え、そうなの?管理者なのに?何で?」
「矢継ぎ早に聞くねぇ。」
帰れなくなるから口にしちゃいけないなら、そもそもずっとここにいるなら食べても良いんじゃないかという単純な疑問だった。
「管理者だからこそ食べることができないのさ。」
ほんと思うんだけど、理由になってない。
訳を説明してくれ、訳を。
「管理者はなぜ食べちゃいけないの?」
「どれくらいかは分からないけど、力が弱まるから。そうなるとサヨみたいなヒトを守ることができない。」
この場合の力とは単純な体力ということではないだろう。
こんなとこに管理者としてずっと存在していて、よくない存在から守ってくれているのだから、こう、なんか、神がかった不思議な力なんだろう。
食べ物を勧めないようにしよう。そうしよう。
「ま、持ってるだけでもお祭りを楽しんでる感は出てるでしょ?」
「それは確かに。」
浴衣ではないけど、着物を着て、りんご飴を持って歩いてると間違いなく雰囲気は出る。
あたしじゃなくて、楽しんでるのはイズマでしょ、という言葉をぐっと飲み込んで石畳の上を歩くのだった。




