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夏祭り  作者: 髙橋あきら
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夏祭り 5

 あたしが知る神社と同じ構造なら、本来ならあの階段が出入り口になっている。

 この神社の敷地はわりと急な傾斜に囲まれているのだけど、あの化け物が階段が使えないとなれば傾斜を頑張って降りるしかないか。


「上の提灯を見て。」


 そう言われて、上にある緋色の灯りを灯してずらりと並んだ提灯を見る。

 あちらの世界の神社ではなかったものだ。


「あの提灯ね、元はここに迷い込んだヒトたち。」

「え?」


 沢山の提灯だ。それがあたしと同じくヒトだったと。

 でもさっき、迷い込んであいつらに魂は取り込まれて、体は他の何かに乗っ取られると言っていたはずた。


「振り返らずに鳥居を潜ったけど、ちゃんとした手順で戻らなかったヒトたちはああして提灯になるのさ。」

「そんな……」


 なんとか助かったけど、正規の手順じゃないとやはりヒトでは無くなってしまうと。


「毎回ちゃんと教えてるんだけど、信じてくれなかったヒトたちはああなったんだよ。」


 そりゃこんなわけの分からないことになって、パニックにならないわけがない。いくら説明を受けたとしても信じることができなかったのだろう。そうして教えられたことを守らなかったヒトたちは、提灯になった。


 さっきまで傾斜を……なんて考えていただけに、余計に背筋がぞっとした。


 この世界であたしが知るひとはこの人しかいないし、説明をしてくれるひともこのひとしかいない。

 疑わず、言われたとおりに動くことが、あちらの世界に戻るための最善の策だ。


「どうすればあちらの世界に戻れるの?」

「花火がなる前にこの奥にある社の扉をくぐるんだよ。」

「は、花火?」

「そう。ここは今夏祭りの最中なんだ。最後は花火で終わるものだ。」

「なる、ほど。」


 花火がなったらゲームオーバー。それまでに奥にある社の扉をくぐれば戻れる、と。

 話を聞くだけなら簡単そうだけど、こんな世界だ。きっと何かあるはず。


「もちろん夏祭り中だからちゃぁんと楽しまないとね。」


 こんな状況で楽しめるわけない。

 でもこの言葉もきっと意味があるはず。


「何をどんな風に楽しめばいいか、その都度教えてもらえる?」

「もちろん。」


 それが戻る方法でもあるはずだ。

 あたしは目の前の人物を信じる。


「そうだ、名前聞いてもいい?あたしは松木サヨ。」

「ボクはイズマ。」

「それって苗字なの?名前?」

「名前だよ。苗字なんてヒトが決めたもの、ボクには必要ないからね。」


 うっすら思ってたけど、今の会話でわかった。このイズマ、人間ではない。


「イズマは、あの外にいる奴らと同じ妖怪?なの?」

「えーやめてよー」


 うえーと露骨に嫌な顔をする。


「あれらと一緒にしないで。ボクはここの管理者だよ。」


 あいつらとは違う存在で尚且つ人間ではない。

 管理者ってなんだろう。よくわからない。でもここを管理してるから色々と詳しいんだろう。


 迷い込んだヒトがわかると言ったのも、きっと管理者の能力なのだろう。そうならそうと言えばいいのに。


 そういえば最初から手を繋いだままだった。

 彼氏ではないけど、同じような年頃の男の子と手を繋いでいる状況、今更だけど照れる。

 というわけでそっと手を離そうとすると、逆にぎゅっと握られた。


「握ってた方が安心だよ。」

「そうなの?」

「そう。ここにいるヤツらはみーんなヒトじゃない。ヒトの皮を被っていて、あっちの世界からやってきたヒトたちには良くない。鳥居の外にいるあいつらと一緒の存在だ。キミがヒトだと認識すると、花火が鳴るまでに社に辿り着かないように邪魔してくるよ。」


 鳥居を潜っても正統手順を踏もうとも、安心できないじゃないか。


「ずっと握ってて下さい。」

「ははっ!もちろん。じゃあ行こうか。」


 イズマの手をぎゅっと握りしめ、あちらの世界に戻るために一歩踏み出した。


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