夏祭り 4
「なに、言ってるの?」
消えた、と言われた。
変なの。あたしは確かにここにいるのに。
「キミは人間の身でありながらあっちの世界で消えて、こっちの世界に来ちゃったんだよ。だからそれ」
電源の付かないスマホを指さされる。
「あっちの世界のそれで連絡とろうとしてもできないんだ。」
俄かには信じられない内容に、眉をひそめてしまう。
というか人間の身とか世界とか、どことなくスピリチュアルな言い方で、さっきとは別の恐怖を感じた。そういう系なのか?
「信じてないねぇ。うーん、後ろ見てみたら?」
そういえば見ちゃ駄目だと言われてたけど、もう後ろを見てもいいんだっけ。
振り返る。
「ひっ……!」
黒い、どろりとした沢山の何かが鳥居の向こうに蠢いている。
人でも動物でもない、なんて言えばいいのかわからない。
黄色い目なのか、爛々と輝いてこちらを見ている。
こっちに来ようとしているけど、何かに阻まれるようで鳥居よりこちら側には来ることができないようだった。
「あいつらはこの世界に迷い込んだヒトの魂を狩り取って、取り込んでしまうんだ。魂の抜けた体は他の何かが入り込み、老いも死にもせず、永遠にこの世界に留まる存在となる。」
鳥居をくぐる前に「とられそう」と言われたけど、この人の話を信じるとあたしは魂も体も取られて死んだも同然になりそうだった、と。
スピリチュアルというかホラーな話だった。なるほど真夏に向いているネタだ。
「階段を登りきり後ろを振り向いてしまうと、あいつらの領分に交わってしまうからすぐに取られてしまう。でも鳥居をくぐれば神の領域であいつらは手が出せない。だからあいつらは後ろを振り向かせようとあの手この手を尽くすんだ。」
ということは、もしかして鍵を落としたのはあいつらが振り向かせようとしたからなのか。
目の前の人は帯から何か小さなものを引き出すと、あたしに差しだす。それは落としたのははずの自転車の鍵だった。
お礼を言ってスマホとともにショルダーバッグにしまう。
「ここがキミがいた世界とは違うって分かってもらえた?」
「……はい。」
信じたくない現実だけど、受け入れるしかない。
「そうそう、キミのお友だちは迷い込んでないよ。ここに迷い込んだのはのはキミだけだ。」
「何でそんなことわかるの?」
「ここにいるからね、分かるんだ。」
「何それ。」
まったく理由になってない。でもこの人はそれ以上言う気がないみたいで、にこにこと笑っているだけだった。
いやこの状況で笑ってられるのも相当なものだ。
「まあ、いいや。とにかく早く帰らないと。ユキちゃんと待ち合わせしてたから、来ないし連絡つかないしであっちもきっと探してるだろうし。」
警察に連絡されたらだいぶ大変だ。元の世界に戻って警察に事情説明するにしても、他の世界にいたなんて言えるわけもない。
そんな最悪の展開になる前にとっとと帰らないと。
「戻ったのなら、キミはここに迷い込んだその時間に戻るんだ。あちらの時はまだ動いていないよ。」
あちらとこちらでは時間の流れ方が違うようだ。
いまこうしてる間もあちらの時間が止まっていて、あたしが戻ったらあちらの世界の時間が動くということだろう。
あちらの世界の時間はあたしにかかっているのか。
なおのこと、どうにかして帰らないと。




