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夏祭り  作者: 髙橋あきら
3/24

夏祭り 3

 少し低くて落ち着いた、とても通る声だった。夏祭りで沢山の人の声があるのに、どうしてかその人の声だけがあたしの耳にクリアに響く。


 すぐ後ろにその声の人がいて、両肩には手を添えられている。穏やかな声、添える程度の力しか加えていない両手、それなのにあたしは後ろを振り返ることができなかった。


 鍵を取らないといけないとわかっている。それにきっとユキちゃんも待っているし、もしかしたらこの場面を見ているかもしれない。

 でもどうしても体は振り返れない。ふりほどくこともできない。


「説明は後で。後ろを見ずに、あの鳥居をくぐるよ。」


 ここの神社は階段を登った先にとても大きな鳥居がある。

 朱色の大きな鳥居は心に来るものがあるようで、おそらく観光客と思われる人がたまに写真に撮っているのを見る。


 普段はどうとも思わない鳥居なのに、今は少し怖い。それに蒸し暑い夜なのに、手足の先からぞわりぞわりと冷え込んでいく感覚に陥る。


「おや。()()()()()()。急いで行くとしよう。」


 何がとられそうなのか。聞きたいのに口が動かない。どうしようかと思っていると、肩に添えられていた手が外され、すぐにスマホを持っていない左手を握られて先導するその人に引っ張られる形で歩く。


 後ろ姿しか見えないけど、まず目を引くのは暗い夜空に映える真っ白な髪の毛だった。

 そして深い深い緑色の着物に、黒い帯。

 あたしよりも拳2つ分くらい高い身長。

 引かれる手は白くて指が長い。


 相変わらず周囲の音という音がぼやけて聞こえている中、言われた通り後ろを振り返ることなく、ただ前を進む。

 そうして鳥居をくぐると、さっきまではっきりしなかった音が明瞭になった。屋台で商品を売る声や楽し気に笑う声が聞こえる。

 体にあった不快感も一瞬にして消えた。


 腕をひく人が足を止めたので、あわせてとまる。

 手は握ったままだった。


 その人がくるり、とこちらを振り向いた。


 驚いた。

 とても綺麗な顔立ちだった。それに瞳は、宝石のようにきらきらとした淡い黄色みがかった緑色だった。

 同い年ぐらいの男の子だろうか。

 妙に落ち着いた雰囲気だったり、髪の色、来ている服と相まって、神秘的に見える。


「鳥居をくぐれば平気だ。もう振り返っても大丈夫だよ。」


 にこり、と微笑んだ。


 いや、それよりもまずユキちゃんと鍵だ。


「ユキちゃんに電話しないと!」


 さっきまで自分の意思で動かせなかった手足や口が動く。

 とりあえずスマホの電源ボタンを押すけど電源がつかず、何度も何度も押しても画面は真っ黒いまま。充電だってちゃんとあったから、バッテリー切れということはない。落としてもないし水没もさせてないから、壊れたということはない。


 おかしい。


「それ、使えないよ。」

「それは困る!友だちとここで待ち合わせしてたのに!それに機種変して1年ちょっと!」


 歩いて探すか、と思ったけど、右も左もユキちゃんの姿は見えない。


「ユキちゃん、どこ行ったんだ……?」

「どこにも行っていないよ。君が消えた側なんだ。」

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