夏祭り 18
やがて坂を登り切り、社が見えた。
やっとここまで来た。来ることが出来た。
今も昔も、イズマのおかげだ。
立ち止まって頂上からさっきまでいた大通りを見下ろすと、相変わらず沢山のひとで溢れていたし、屋台もずらりと並んでいて、提灯が下げられ煌々と光っている。
そして奥には例の鳥居が見える。
見下ろすとわかるけど、この神社の敷地外は何も見えない。家や店、電灯や車などの明かりが全く見えない。本当に真っ暗闇しかない。
ここは夏祭りだけの閉ざされた世界なのだと改めて実感した。
とても不思議な世界だ。
「あのねイズマ、あたし前にここに来たことあるよ。」
そう不思議な世界だから不思議な空気が流れているのかもしれない。無意味だと思ったことも、つい口に出してしまう。
「階段上ったらこっちの世界に入っちゃって。その時もあたしの手を引いてくれたね。親とはぐれて泣いてるあたしを連れて、色んな屋台を見て回ってくれたよね。」
手を繋いだまま、横にいるイズマを見ると、イズマは何も言わず静かに眼下を見下ろしていた。
「さっきのキーホルダー、屋台でかんざしと一緒にもらったんだよね。かんざしはどうしたか忘れたけど、キーホルダーはあちらの世界に持って帰ることができた。こちらのものってあちらの世界に持っていくことができるんだね。」
ひとつ溜息を吐くと、イズマは静かに口を開いた。
「……本来は持ち帰ることは許されない。でも、それだけはボクが許した。」
「ってことは、イズマは覚えてたんだね。」
「言っただろう。記憶力は良い方なんだよ。」
「そうだったね。」
本来は許されないのに、どうしてこれだけ許してくれたのか。
ぎりぎりで泣いたんだっけか?有りそうだな。なんせ小さな頃だったろうし。
「さっき頭が痛いって言ってたけど、もしかしてその時思い出したの?」
屋台を回ってるときから既視感みたいなものはあって、頭痛の後で断片的だけど記憶が戻ったことを告げる。
「こういうことってよくあることなの?」
「いや、ないはず。もう1度こちらの世界に戻って来たヒトもいたけど、覚えていることも思い出すこともなかった。」
じゃあ何で、と言おうとしたところで、他のみんなとあたしの違いを思い出す。
そう、キーホルダーだ。
こちらの世界のものを、あたしだけは持って帰ることができたし、そして持ったままこの世界に来た。