夏祭り 17
疑問は湧いて出てくるけど、それがなんだ。もう登り坂まで来ていて、あとは社からあちらの世界に戻るだけ。
過去こちらに来ていて、消されたはずの記憶が戻ったとしても関係ない。
イズマに聞いたとしても、意味がない。
「キーホルダーだよね、どうしたの?」
こういうものを見ると、大抵の人は貴重品である鍵の方を優先する。
でもイズマはキーホルダーと言った。つまり、イズマの中では鍵よりもキーホルダーの方が馴染みがあったり優先度が高い、ということ。
昔ここに来た頃よりもだいぶあたしは成長している。でも最初落としたキーホルダーを見たときに過去ここに来た人間だと分かったのかもしれない。
それもこれもあたしの想像に過ぎない。
そもそも、そのキーホルダーをもらった子はいっぱいいるだろうし、そんな有象無象の中のひとりとあたしを紐づけるなんて至難の業だ。きっとそうだ。
「ちゃんと入ってるかなって確認だよ。」
キーホルダーをしまう。
「なんかちょっと頭が痛くなっちゃって。でも大丈夫だよ。」
「頭が……?」
「ちょっとだったし、もう何ともないよ。さて、体力も戻ったし行きますか!」
立ち上がって、ぐいっとイズマを引っ張る。
少し戸惑っていたけど、それでもあたしに促されるままに腰を上げる。
「無理はしないで。」
本当に心配してくれるのがわかる。
あたしが頷くのを確認すると、再び歩き始めた。
さっきまではそれなりに話しをして歩いていたけど、今は2人とも黙ってこの緩い坂を歩いている。
遠くでは和太鼓の音が響いている。
そう。和太鼓の音を聞いて驚いたのもここでだ。
大きな音に驚いて、イズマの手をぎゅっと握りしめたのだ。そしてイズマは大丈夫だよ、と頭を撫でてくれた。
そして水風船。前に来たときも水風船をとった。イズマの瞳と着物が緑色で、緑っていいなと思って緑色の水風船をとった。それなのに落として割って、あたしが来ていた浴衣が少し濡れてしまった。水で濡れただけだから浴衣は気にしなかったけど、水風船が破れたことが悲しくて泣いてしまった。あれが良かったのだ。もう一度屋台に行って同じ色の水風船をもらっても、それは違う、と思っていた。
結局その後、近くのわたあめ屋さんでわたあめが作られていくところを見て、泣き止んだっけ。単純だったな。
風車がたくさん並べられた屋台なんて初めて見たから、心躍ったっけ。屋台の人が扇風機を回していたから、色んな色の風車がからからと音を立てて回っていて、それを飽きるまでずっと見ていた。イズマは急かすことなく、一緒に風車を見てくれていた。それがとても嬉しかった。