夏祭り 16
こうやって人助けするぐらいだし、手のかかる子ほど可愛いってやつか。
そうかそうか、そうなんだね。
「社からあちらの世界へ戻る時にまたねって言われたとき、とっても嬉しかった。ここでの記憶が消えちゃうこと教えてなかったからそう言えたのかもしれないけど、まあそれが1番印象的だった子だよ。」
「記憶のこと教えなかったの?」
「宥めることを優先してたら言う機会を逃しちゃって。言ったら泣いちゃうだろうなってぐらいには慕ってくれてたから、結局言えず終いだったな。」
自分のことを忘れちゃうし、離れ離れになるとわかっていても、その子の手助けをして元いた世界に戻してあげるなんて泣ける。見た目中世的な綺麗なひとだけど、男の中の男じゃないか。
こうやって手を繋いでお祭りを楽しんだのだろうか。こうして手を繋いで、さっき言ってたみたいに屋台を楽しんだりしてさ。
なんだろう、もやっとするんですけど。失恋したばかりのあたしには刺激が強い内容だったか。吹っ切れたと思ったんだけど、そうもいかなかったということか。
ちりん
バッグの中に入っている鍵についたキーホルダーの音が変に耳につく。
本当に小さな鈴だし、さっきまで気にならなかった。あっちの通りは声に溢れていたし、和太鼓の音が響いていた。でもここはそこまで音はうるさくない。だからこんなに響いて聞こえるのか。
古いキーホルダーで、黄色く輝いていたはずの鈴はくすんだ色合いになっている。紐部分は白と緑で編まれたもので、これもまた年代を感じる色合いに変化している。
「いたっ!」
急に頭に鋭い痛みに襲われ、反射的に目を閉じると、何かが脳裏に浮かんだ。
誰かと手を繋いでいて、横にいるその人の顔を見上げる。でも逆光になって見えない。とにかく自分よりもとても身長が高い人。そして2人で屋台にはいり、くじ引きをした。そこでキーホルダーと、かんざしをもらった。
そう、このキーホルダー。
そこで痛みが治まり、その映像が消える。
ゆっくりと目を開け、バッグをあさり、キーホルダーを見る。
このキーホルダーは、ここでもらったものだ。
「サヨ、サヨ、大丈夫?」
隣を見ると、心配そうな顔をしてあたしの名前を呼ぶイズマがいた。
「イズマ……」
あの記憶とこのキーホルダー、あたしは以前ここに来たことがある。
きっと隣にいたのはイズマだ。彼はずっとここにいる管理者なのだから。
今よりももっとあたしは上を見上げていたし、今よりもだいぶ小さな頃だったはず。
何で消えたはずの記憶を思い出したのか、あのかんざしはどこにいったのだろう、なぜイズマはもう一度ここに来ただろうあたしに何も言わないのだろう。