夏祭り 14
ドンドン、と和太鼓の音が聞こえる。
「ああ、始まったね。」
「和太鼓?」
「お祭りといえば和太鼓だから。」
それりんご飴の時も言っていた。
「ねえイズマ、和太鼓ってけっこう大きな音だから驚く人多いよね。」
「そうだね。サヨは?」
「うーん。小さい頃は和太鼓に限らず大きい音って苦手だったんだけど、もうそんな年じゃないよ。」
掃除機やミキサーの音も苦手だった。
それこそ夏祭りの花火の音なんて苦手中の苦手で、夏祭りを最後までいた記憶がない。
「ふふ。成長したってことだね。」
まるで親みたいな言い方じゃないの。見た目は同年代だというのに。あ、でもイズマはずっと存在しているみたいだし、年齢はあたしより上なのかな。まあでも精神年齢は確実にイズマの方が上だな。
だって自分がって出しゃばらないし、自分の意見が無いわけではないけど他者を尊重するし。
そうやって和太鼓の音を聞きながら話していると、さっきまで締め付けられるように痛んだ心が和らいでいくのを感じた。
うん、あたしは大丈夫。
「ここで和太鼓だなんて良い調子だ。」
順調に来ているとのことで、安堵する。
あれ、そう言えば昔、誰かとこうして手を繋いでいたような。
夏祭り、和太鼓を聞きながら、手を繋ぐ。
そう、あの時は小さくて、急に大きな和太鼓の音が鳴ってとても驚いた。心臓はばくばくして、こんな風に安堵することなんてなかった。
どうしてだろう、誰と一緒にいて手を繋いでいたのか思い出せない。忘れるほど小さい頃じゃなかった気がするんだけど。
「ん?サヨ?」
「あ、いや、順調に進んでるってことだよね。良かったなって思って。」
「そうだね。頑張ってる頑張ってる。」
ぽんぽんと2度。軽い調子で頭を叩かれる。
従兄弟のお兄さんかな?
「ここまでくれば折り返し地点だからね。」
あたしの記憶と同じなら、この屋台のある通りを歩いていくと、カーブを描いた登り坂があり、その上に社があったはず。
あの登り坂って、緩く長いから地味に疲れるんだよね。ま、そんなこと言ってられないんだけどさ。
「あの坂には屋台もないし混雑してないから、ここほど疲れないと思うよ。」
確かに誰かにぶつかったりぶつかられたり、なかなか前に進めなかったり、そもそも人疲れするってことはないだろう。
「よっし、あと半分もよろしくね、イズマ!」
「うん。こちらこそよろしく。」
2人で見合って気合いを入れて、和太鼓の音をBGMに気持ちを新たに石畳を歩いた。