プロローグ
青空はどこまでも広がっていた。永遠と彩られる青に綿のような白が散りばめられている。穏やかな時間。
整った街並みは中世のヨーロッパを思わせるような造りで、壁の白と屋根の赤が美しい。
歩く人々も様々な色の衣装で街の風景に彩りを与えていた。
デートだろうか。はたまた夫婦なのか、男のエスコートに女は身を任せて寄り添う姿は仲睦まじく、街が平和であることを物語っている。
そんな下界を見下ろしつつ空は、いつも変わらない悠久とも言える時を刻む。人の心の移り変わりなど、気に止めることなどなく、ただただ表情を変えるだけ。
―大丈夫。
そんな景色を眺めながら自分を鼓舞する少女がいた。
真っ黒な肩より長い髪に、日に焼けていない真っ白な肌。目鼻立ちは悪くない筈なのに、どこかのっぺりとした顔なのは化粧をしていないせいだろうか。お世辞にも綺麗とは言い難い。
身長は女性の平均くらいで、体型も細過ぎず太過ぎずくらいだ。
そんな少女は口をへの字に曲げて、今にも泣き出しそうだった。
―こんなの、いつものことじゃないか。
きっと時が忘れさせてくれる。つらいのは今だけ。我慢すれば痛みは消えていくのだ。
そう自分に言い聞かせれば、心の痛みが和らぐ気がした。
これは罰なのだ。
自分なんかが人並みに恋をしようとした。
だから罰が下ったのだ。
自分に恋愛は似合わない。
奪われ続けた彼女の心は、そう認識するようになっていた。
―なのに…どうして。
こんなにも悲しいのだろうか。
見つめ合っていた2人の姿が頭から消えなくて、奏は涙が止まらなくなった。