オーストラリア番外編 イルカと過ごした夜
すみません。
どうしても書きたかった。
オーストラリアでの海の楽しみ方は、真夏のビーチだけではない。島全体が国立公園となっているモートン島では、ホエールウォッチングに加えて、野生イルカの餌やりが体験できる。
夜22時。太陽が輝く白いビーチから一転、真っ暗な夜空に無数の星が輝いていた。残念ながら天の川は見られなかったが、それでも見渡す限りの満天の星空だった。
ホテルの部屋を出発し、すぐ目の前の海へやってきた。ガイドさんに連れられて、他の観光客と共にイルカのいる海辺まで進む。
野生のイルカと触れ合える、とてつもなく貴重な体験なのだが、記憶に残っているのは極寒の暗闇と波の音だけである。
常夏の国の夜の海辺…
考えただけでもロマンチック!と小走りにやってきたのは良いが、「ここはアラスカですか」と問いたくなるほど寒かった。
ガイドさんが全員に黒いコートを貸してくれたのだが、イルカに夜食を渡す為、海に入らねばならず、私は遠く離れた海の国の、何らかの拷問を受けている気分になった。
しかも真っ暗闇でイルカの姿など見えない。
何となく彼らの声は聞こえていた気がするが、耳を澄ませる余裕などない。
私は生の魚を1匹受け取ると、イルカに餌付けする者の表情とは思えないほど眉間に皺を寄せてやる気のないペンギンのように、もぞもぞ海に近づき、その辺に投げた。そしてイルカの姿など1ミリも見ずに小走りで浜辺に戻り、一瞬でやつれたペンギンはペタペタ歩いてホテルに戻った。イルカには申し訳なかったが、こちらも必死だったのだ。
「もっと近くで見れば良かったのに」だの
「あんなぺって投げて勿体ない」だの
家族にヤイヤイ言われたが、あの状況でイルカと楽しく戯れるなど不可能である。
幸い風邪をひくことはなかったが、ある意味強烈な思い出として心に残っている。今も時々、イルカを見ると、ブーメランのように高速回転で飛んでいった生魚を思い出す。
マレーシアに突入したばかりですが、オーストラリア番外編です。唐突に思い出したので書きました。
あの夜は、本当に凍死するレベルの寒さで、数年後に旅したフィンランドより寒かったことを覚えています。
あんなにも近くにいたのに、イルカさんの姿はほとんど見えず、ただ餌の魚だけが高速回転で飛んでいきました。イルカさんは夜行性だから仕方ない。それにしても、もう少し工夫してくれないものだろうか。
とにかく、自然の厳しさを肌で感じた一夜でした。