マレーシア編❶ 飛行機の中は阿鼻叫喚
人生で初めて死を覚悟した瞬間。
少女はまた一つ成長した。
高校時代、私はボランティア・国際交流部の副部長だった。普段は近所のゴミ拾いや募金などの慈善活動をしており、存在意義は美しいが、何とも地味極まりない部活だった。そんな部活の最大のアピールポイントは、年1回実施される一週間の海外研修だ。
これまでのラインナップは基本的にアジア中心で、タイに始まり、韓国、バリ島、シンガポール、そして今回はマレーシアに決定した。
今回の研修では、国際交流の一環で3日間のホームステイが企画されており、私は先輩と2人で泊めてもらうことになっていた。
初めて家族と離れ、初めての異国の地で、初めてのホームステイ。
とにかく初めてだらけの旅が始まった。
クアラルンプールの直行便で約7時間のフライト。ラッキーなことに、それ以前にオーストラリアで9時間半を経験していた為、さほど苦痛ではない…はずだった。
日本を出発して数時間。皆が寝静まり始めた時、
突然アナウンスが流れた。
「これより、乱気流に突入します。
シートベルトをしっかりとご着用下さい。」
座席でボケーっとしていた私はスッと目が覚めた。
ガタガタガタ
飛行機が少しずつ不穏に揺れ始め、私の体内警報は地球滅亡寸前のように響き渡った。
揺れがどんどん激しくなってきた。
少しずつ飛行機のアップダウンも大きくなり、絶叫系が苦手な私は、これから始まる地獄の時間をただ待つことしかできなかった。
そこから約30分、自然のジェットコースターが続いた。時々デカめの揺れが来るので、一瞬たりとも気が抜けない。
私は、それまでの16年間の人生で初めて死を覚悟した。人間、死ぬ直前になると大切な人や楽しかったことを思い出すというが、これは本当だったんだナァと全身で実感した。意外にも、「もっと長く生きたかった」とか「あれもしておけば良かった」等といった後悔はなく、ただ目を閉じて、家族の顔と幸せな思い出の数々を穏やかな顔で思い浮かべるばかりだった。
(せっかく撮ったのに天気が悪すぎるペトロナスツインタワー)
私が悟りを開き始めていた頃、隣に座っていた一つ上の先輩は爆睡していた。死を覚悟した人間がいるというのに、機内は何事もなかったかのように静まり返り、時々オッサンのイビキとトイレの水音が聞こえてきた。
人が真に孤独を感じる時というのは、空間に一人ぼっちの時ではなく、大勢の中でただ一人、他の人間とは違う感情を隠し持っている時なのだ。
それから約1時間後。飛行機は無事、空港に到着した。研修が始まって約9時間。私はアルマゲドンの、かの有名な帰還シーンのようなテンションで空港に降り立った。マレーシアの温かい風が、青ざめた顔に優しく触れた。
マレーシアへの空の旅は、今でも鮮明に思い出せるほど恐ろしい時間でした。後ろに座っていた飛行機が苦手な同級生のビビる声をのんびり聴いていましたが、いつの間にか自分が一番ビビっていました。
生まれて初めて、飛行機が怖いと思った瞬間でした。
それにしても、なぜあの時、先輩はあんなに爆睡していたのか。今でも先輩の肝っ玉が羨ましいです。
ちなみに、うちの母はかの有名な大震災が起きた時、2階で爆睡していたそうです。