表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第5話 ~話が紡ぐ縁~

休日を迎えたホーク。彼は鍛錬に読書に勤しむ。

そうした中、彼は思わぬ人物と出会う。

それは思わぬ縁の始まりであった。

 1日の始まりである朝の時間を迎えた巨大な兵舎。この建物の一角にホークとナオが生活を営んでいる部屋がある。


「っ……!」


 寝起きの時を迎えたため、ベッドから起き上がるホーク。普段とは異なり、どこかゆったりとしている。


「ふわぁっ~」


 同じ頃、上の段のベッドで眠っているナオも目を覚ます。やはり、ホークと同様、彼の動きも緩やかだ。


「ホークさん、おはようございます」

「おはよう」

「今日は休みで良かったです」

「俺のそう思う」


 朝の挨拶を交わした後、談笑しているホークとナオ。彼等の動きがゆっくりしているのは今日が休日だからだ。当然、兵士としての訓練もなければ任務もない。全くの自由である。

 貴重な休日をいかに過ごすのか。ホークとナオの2人はそれぞれに束の間の休息が楽しみで仕方がなかった。



 巨大な兵舎の敷地内の一角。この場所には人が立ち入ることも少なく、周囲は静寂に包まれている。

 今ここに訓練用の剣を携えたホークの姿があった。さらに彼はゆっくりと構えの姿勢をとる。


「ふんっ!」


 次の瞬間、訓練用の剣を縦一文字に振り下ろすホーク。一旦、振り下ろし切った後、即座に構え直してみせる。


「はあっ!」


 今度は訓練用の剣を横一線に薙ぐホーク。それと同時に目にも留らぬ速さで剣の軌跡が描かれる。


 そう、ホークは現在、剣の素振りを行っていた。数多くある剣の鍛練の中でも、最も基本的なものである。


「おお、やっとるな」


 すると突然、誰かが後方から話しかけてくる。聞き覚えのある声、ホークはすぐに素振りを止め、即座に向き直ってみせる。

 ホークの視線の先に立っている者、それは上官であるライトであった。彼もまた、非番であるのだろうか、ラフな格好をしている。


「休日も稽古か、真面目な奴だ」

「いえ」


 真面目な部下を褒め称えているライト。一方、上官からの称賛に対して、謙遜の姿勢を示しているホーク。


「ただな。遊ぶ時にはしっかりと遊んどけよ」


 称賛の言葉を述べた後、部下に鋭い指摘の言葉を入れるライト。確かにホークは真面目な努力家であるのだが、どうも行き過ぎる傾向がある。逆を言えば、色々な意味で遊びが足りないのだ。


「分かりました」

「ま、今日はしっかりと休めよ」


 気落ちしながらも上官の助言を素直に受け取るホーク。対するライトは最後に言葉を付け加えると、どこかへと立ち去ってしまう。


 上官が去ったことにより、再び、1人となったホーク。その後、彼は自らに課した剣の鍛練をやり遂げるのであった。




 昼の時間を迎えたターハルの市街地。石畳の道路が整備されており、さらに石造りの民家や店舗等が整然と並び、大勢の人々が行き交っている。


 手入れの行き届いた市街地の中において、一際目立つ建築物が立っている。各所に丁寧な装飾等が施され、気品の漂っている建物。この建物は民家でもなければ、商店でもなかった。


 ターハル公立図書館。これが建物の正式な名称であり、施設内にはいくつもの図書が保管されている。但し、誰でも利用できるという訳ではなく、利用許可証の発行を受けるか、一定額の使用料を払う必要があった。


 公立図書館内。整然と本が並んでいる中、利用者は図書を探しているか、あるいは読書に勤しんでいる。無論、施設の性質上、私語等は厳禁だ。


 静寂に包まれている図書館の一角、そこには席に腰をかけ、読書に励むホークの姿があった。ちなみに彼はターハルの兵士であるため、図書館から利用許可証の発行を受けている。


 現在、ホークが読み耽っている本。それは古くから語り継がれている伝承等をまとめた物語集であった。


 古くから伝わる英雄物語に憧れ、ターハル領の兵士となったホーク。その情熱は今なおも失われていない。


 さらに英雄物語だけではない。恋愛物語、紀行文、学術書等、様々な本がホークは好きであった。だからこそ、休日ともなれば、こうして図書館に足を運んでいた。


 その頃、図書館内では1人の女性が本を探していた。身綺麗な服装をしたショートカットの女性。それは伯爵令嬢の従者を務めるサーファであった。


 サーファが図書館の中にいる理由、それは主であるウンディーヌの指示によるものであった。


 身体が弱いこともあって自由に外出できないウンディーヌ。そんな彼女の数少ない楽しみが読書である。このため、従者であるサーファが主に代わって図書館に出向き、本を借りることがしばしばであった。


「(おかしい……ないな)」


 棚に並べられた本を眺めている中、困った表情を浮かべているサーファ。ウンディーヌから本を借りてくるように言われたのであるが、目当てのものが見つからないのである。なお、本のタイトルは“ターハル領の伝承”である。


 このままでは埒が明かないため、目当ての本の行方について、図書館の職員に尋ねることにするサーファ。


「その本であれば、あちらの方が読まれています」


 丁寧な口調で質問に答えた後、ある方向を指し示す図書館の職員。サーファもまた、そちらの方に視線を向ける。


 サーファの視線の先、そこには席に座った状態のまま、読書に勤しんでいるホークの姿があった。


「ああっ~~~~~~~~~!?」

「図書館では静かに願います」


 ホークの姿を見た途端、驚きの声を上げているサーファ。一方、すぐさま図書館の職員は注意を入れる。


「ごめんなさい」


 慌てて図書館の職員に謝罪した後、サーファは真っ直ぐホークの席へと向かう。本を譲ってもらえないかを交渉するためであった。



 図書館の出入口。ここには今、ホークとサーファが向かい合う形で立っていた。図書館内では他の利用者に迷惑がかかるためだ。


「それで僕に何の用かな?」


 目の前のサーファに質問をするホーク。これまで読書を楽しんでいた彼にしてみれば、邪魔が入ったようなものであった。


「貴方の読んでいる本をこっちに譲って欲しいの」

「何故ですか?」

「私の主が読みたがっているの」

「こちらが先だと思うんですがね」


 サーファの言い分に納得できないでいるホーク。何か特別な事情があれば話は別だが、先に読んでいた方はこちらである。


「私の主は病気がちで身体が丈夫じゃないの」


 思い切ったように口を開くサーファ。詳細な内容は伏せながらも、事情をホークに説明する。


「そうでしたか。これは失礼しました」


 相手から事情を聞いた後、謝罪の言葉を口にするホーク。この時、彼は自らの身勝手さを恥ずかしく思っていた。一方、その言葉を聞いた途端、サーファの表情が明るくなる。


「それじゃあ」

「ええ。先に主さんが読んでください」

「やったぁ!」

「それから、僕のおススメの本を紹介しますよ」


 快く読んでいた本を譲ることにするホーク。それだけではなく、サーファに本を紹介することも約束する。

病弱なサーファの主に少しでも楽しい本を読んで欲しい。ホークなりのささやかな気遣いでもあった。



 ターハル伯爵の屋敷。広大な屋敷内の一角にあるウンディーヌの部屋。ここには今、従者を従えた部屋の主があった。


「ウンディーヌ様、こちらになります」

「ご苦労様」


 図書館から借りてきた本を手渡すサーファ。一方、従者の働きに感謝し、労いの言葉をかけるウンディーヌ。


「……この本は頼んだ覚えはないけれど」


 サーファが借りてきた本を確認する中、自分の頼んでいないものがあることに気がつくウンディーヌ。


「実は……」


 そう言った後、図書館で起こった出来事を話し始めるサーファ。一方のウンディーヌもまた、従者の話に黙って耳を傾けることにする。


 頼まれていた本には先客がいたこと、しかも、先客がホークであったこと、交渉の末、譲ってもらったばかりか、おススメの本まで紹介されたこと、サーファは主のウンディーヌに全て漏らさず報告する。


「そうだったの」


 サーファからの報告を聞き、意外そうな表情をしているウンディーヌ。まさか、あのホークが自身と同じ好みがあったとは思ってもみなかった。


「あの兵士から紹介のあった本ですが、やはり返却してきましょうか?」

「いや、読んでみよう」


 サーファからの進言に対し、落ち着いた様子で返すウンディーネ。一体、あの兵士はどのような本を薦めてきたのか、気になるところであったからだ。


 その後、従者のサーファを休ませると、自らは読書に勤しんでいるウンディーヌ。今、読んでいる本であるが、ホークから薦められたものである。

 本の名前は“水の精霊と騎士”。武勇の誉れ高き騎士、彼のことを慕う水の精霊、悲恋を描いた物語である。


「(これはなかなか……)」


 物語を読み進めている中、心の中で唸っているウンディーヌ。美しい文体、丁寧な心理描写、練られたストーリー構成、いずれも素晴らしい。


 やがて、物語を読み終えたため、静かに本を閉じるウンディーヌ。しばしの間、余韻に浸っていた。


「(あの兵士には感謝だな)」


 今、ウンディーヌの脳裏に浮かんでいる光景、それは自分に忠誠を誓うホークの姿であった。あの時は直情的な男だと思っていたが、まさか、こんなにも豊かな感性の持ち主だとは思ってもみなかった。



 ターハル領の兵士宿舎。ここに面会場と呼ばれる部屋がある。この部屋は文字どおり宿舎の兵士が外からの来客と面会する場所であった。

 兵舎に所属する兵士は来客を面会する際、原則的に面会場で行うことになっている。スパイ等の出入りを防ぐためである。


 そして現在、面会場でホークは1人の女性と面会を行っていた。今、彼が面会している相手、それは先日、図書館で出会ったサーファであった。


「今回は一体何の用で?」

「実はこれを」


 単刀直入に用件を聞こうとするホークに対して、サーファは巻かれている紙を差し出している。どうやら、これが用件の肝のようだ。


「これは……?」

「私の主からの手紙よ。貴方の薦めてくれた本を気に入ったみたいよ」


 サーファからの説明を受けた後、巻かれた手紙を広げるホーク。そこには彼女の主ことウンディーヌのしたためた文章が書かれていた。


「……」


 無言の状態のままウンディーヌからの手紙を読み進めていくホーク。手紙には彼が薦めた本の感想、さらには薦めてくれたことへのお礼が記されていた。

 しかも、ウンディーヌの記した文章であるが、まさに流れるように美しく、読む者の心を惹きつけるものであった。


「少し待っていてください!」


 そう言うが早いか、放たれた矢のように面会場から飛び出るホーク。一方、その場に残されてしまうサーファ。


 少しした後、面会場に戻ってくるホーク。その手には丸められた紙が握られている。さらに彼はその紙をサーファに手渡そうとする。


「こちらを」

「これは?」

「主さん宛ての返事の手紙です」


 キョトンとしているサーファに説明してみせるホーク。先程、面会場を離れたのは返事の手紙を書いていたためであった。


 返事の手紙を受け取った後、別れの挨拶を交わすと、サーファは面会場を後にする。その様子をホークは見守っているのであった。



 ターハル伯爵の屋敷内にあるウンディーヌの私室。ここでは使いから戻ってきたサーファ、従者を温かく迎える主の姿があった。


「ご苦労様」

「いえ。それよりもウンディーヌ様」


 そう言った後、主人であるウンディーヌに対して、ホークから預かった手紙を渡そうとするサーファ。


「この手紙はまさか」

「はい。あの兵士からの返事の手紙です」

「そう……」


 それだけ告げた後、丸められた手紙を開き、中身を読んでみることにするウンディーヌ。その様子をサーファは黙って見守っている。


「……」


 黙々とホークからの手紙を読み進めていくウンディーヌ。肝心の手紙の内容であるが、手紙への感謝、彼女の体調を気遣うものであった。


「(意外だ……)」


ホークの手紙を読み終えた後、心の中で率直な感想を漏らしているウンディーネ。確かに彼自身、平民出身の兵士ということもあり、字そのものはお世辞にも綺麗であるとは言い難い。

だが、文体は堅実で分かりやすく、内容も誠実そのものである。このため、読む者にある種の心地良さを与える。ウンディーネの書く文が流麗だとすれば、ホークの書く文は純朴であると言えるだろう。


「ご苦労。下がっていいわ」

「はい」


 手紙を読み終えると、サーファを下がらせるウンディーネ。1人になった後、彼女は自室内に置かれた机へと向かう。

 机に向かい合う中、ペンを握っているウンディーネ。上質な紙を取り出すと、返事の手紙を書き始めるのであった。

皆さん、お久しぶりです。疾風のナイトです。

リアルで調子を崩してしまい、更新が遅れてしまいました。

今回の話ですが、表立ってのストーリー進行はありませんが、登場人物同士の関係性が徐々に動いていく話となりました。

現在、物語の続きが書けておらず、更新が遅くなるかと思いますが、どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ