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第2話 ~訓練と任務~

ターハル領所属の兵士となったホーク。彼は同期のナオと一緒に訓練に励む毎日を過ごしていた。

そんなある日、ホークとナオは上官からの呼び出しを受ける。

彼等の先に待ち受けるものは一体何か?

 まだ日も昇らない朝の早い時間。ベッドの中で眠り続けているホーク。しかし、いつまでも、こうしてはいられない。


「うっ……」


 やがて、ホークは固く閉じた瞼をゆっくりと動かす。それと同時に闇の中に落ち込んでいた意識は少しずつ覚醒に向かう。


「もう朝か」


 溜め息交じりにベッドから起き上がる。起きた勢いで布団を一気に片付けた後、そのまま身支度を整えようとする。


「ふわぁ~」


 すると、上の方から別の目覚める声が聞こえてくる。ホークのベッドは二段式であり、上の段ではもう1人の使用者が眠っていたのだ。


 そして、目を覚ましてベッドから降りてきた男。それは以前、グラウンドで出会ったナオであった。


「おはようございます。ホークさん」

「ああ、おはよう」


 顔を合わせるなり、お互いに朝の挨拶を交わしているホークとナオ。年若い2人はこの部屋で同居生活を営んでいた。


 新人兵士は基本的に兵舎で共同生活を送ることになる。部屋割りの結果、ホークはナオと同じ部屋で生活することになったのだ。


 新入兵士の登録手続きの際、ホークとナオは顔見知りとなっていたこともあり、2人はすぐに気心の知れた関係となっていた。


 ちなみにナオがホークに敬語で喋るのは年下であることが理由である。ただ、敬語については、あくまでも言葉遣い上のものであり、実質的に対等な立場として接している。


「それじゃあ、準備して行くか」

「はい」


 ホークの呼び掛けに返事をするナオ。そして、2人は手早く身支度を整えた後、朝食を食べるために食堂に向かうため、部屋を出るのであった。



 兵舎の食堂。朝の時間帯ということもあってか、この場所では数多くの兵士達があちこちで朝食を食べている。


 他の兵士達に交じり、向かい合わせの形で朝食を食べているホークとナオ。今日のメニューはライ麦パン、オニオンスープ、サラダ、目玉焼きである。兵士達の健康管理を念頭に置いた内容となっている。


「ホークさん、今日の実技トレーニングはどうでしたっけ?」

「確か、走り込みだったと思う」

「えっと、それじゃあ、座学は?」

「ターハル領の地理だ」


 配膳された食事を口に運んでいる中、今日の訓練についての話をするホークとナオ。ありふれた会話であるものの、兵士となって間もない2人にすれば、最大の関心事でもあった。


 新入兵士が行う訓練であるが、その内容は実技トレーニング、座学、模擬戦の3つで成り立っている。

 まず、実技トレーニングであるが、走り込みや剣術の稽古等、兵士としての身体能力や戦闘スキルを磨くために行う。

 次に座学は文字の読み書きや算術等の一般的な教養に加えて、ターハル領の地理や歴史等を学ぶ。

 そして、模擬戦であるが、その名前のとおり、新人兵士達は2人一組となって擬似的な戦闘を行う。


「いつまで続くんでしょうか」


 ライ麦パンの端を齧った後、ぼやいているナオ。相応の訓練自体は覚悟していたものの、実際に行ってみると、やはりキツいものがあるのが本音だ。


「さあ。とにかくやるしかないだろう」


 オニオンスープを飲み干した後、ナオの問いに答えるホーク。今の自分達はあくまでも下っ端兵士、しかも見習いの状態である。ここで現状を嘆いていても仕方がない。


 やがて、朝食を食べ終えるホークとナオ。兵舎の食堂を出ると、そのまま朝の訓練に参加するため、野外のグラウンドに向かうのであった。



 体力等の鍛え上げる実技トレーニング、教養や知識を高める座学、実践力を高める模擬戦。これらのカリキュラムが繰り返し行われ、はや2週間の時間が過ぎていた。


 巨大な兵舎の各所を結ぶ廊下。ここには今、廊下の中を歩いているホークとナオの姿があった。そうした2人の様子であるが、いつになく緊張した面持ちをしている。


 ホークとナオが向かっている先、それは奥にある小会議室であった。

 これまで兵士としての訓練を受け続けてきた2人。いよいよ実戦に参加するため、上官の騎士から呼び出されたのである。


 そうした最中、ホークとナオの視界にある物が飛び込んでくる。それは台車の上に載せられ、熟練兵士の手で運ばれている1組の鎧であった。


 台車の上に載せられている鎧。厳つく重厚感あふれるデザインとしており、濃い紺色の塗装が施されているのが特徴である。普段、兵士達が着用している防具はおろか、上級の騎士が身につける鎧以上の出来栄えである。


「あれは“ブジンの鎧”」

「そうみたいですね」


 運ばれている濃紺色の鎧を見た途端、口走るホークと相槌を打っているナオ。2人共、座学を通じて、この鎧のことを知っていた。

 “ブジンの鎧”。このターハル領を始めとして、いくつもの領地を統括するアストラル王国が建国される際、武勇で名を馳せた騎士が着用したと伝えられる鎧である。防具としての強度は勿論、機能性にも富んでおり、全体的な性能は通常の鎧を遥かに上回るとされる。

 但し、本物の“ブジンの鎧”は既に失われており、今、ホーク達の見た物は現行の技術で再現したレプリカである。それでも、騎士達の着用する鎧よりも遥かに優れていることは事実だ。


「かっけぇっ!」

「ははは……」


 ブジンの鎧を見るや否や、簡単の言葉と共に目を輝かせているホーク。その様子たるや憧れの玩具を目の前にした子どもである。一方、ナオは相方の振る舞いに思わず苦笑している。


「いつか、俺の使ってみたいな」

「それは難しいと思いますよ」

「そんな世知辛いこと言わないでくれよ」

「気持ちは分かりますが、現実を見ましょうよ」


 ブジンの鎧に憧れるホークであるが、ナオが冷静な突っ込みを入れる。ブジンの鎧は貴族階級の領主ですら着用が困難な代物である。平民出身のホーク達では、土台無理な話である。


 やがて、どこかへと運ばれていくブジンの鎧。恐らくは武器等の管理する保管庫に持ち込まれることになるだろう。

 話題の鎧が見えなくなった後、ホークとナオは与太話をやめにして、上官の待つ小会議室へと急ぐのであった。



 兵舎の小会議室。ここでは現在、上官から招集されたホークとナオの姿があった。

 ダンディな雰囲気を漂わせた長身の男。年齢は40代後半であろうか。長身の男の名前はライト。ターハル領に所属する騎士であり、ホークとナオの上官でもあった。


 そして、ライトであるが、現場からの叩き上げで騎士となった男であり、同僚の騎士達からは勿論のこと、現場の兵士達からの信頼が厚い。まさに心技体に秀でた騎士とも言えるだろう。


「よく来てくれた。ホーク君、ナオ君」

「いえっ!」

「ああ、どうも」


 呼び出した部下達に対して、にこやかな表情で話しかけてくるライト。ホークとナオは緊張しながらも、それぞれの言葉で応答している。


「今日、君達を呼んだのは他でもない。モンスター討伐任務に参加してもらうためだ」

「えっ!?」

「僕達がですが?」


 ライトの口から語られる今回の招集理由。一方、ホークとナオはそれぞれ驚きを隠せずにはいられなかった。

 兵士達が従事する任務の中には、ターハル領を荒らすモンスター討伐も含まれている。いよいよ実戦の時が訪れたのだ。


「そうだ。今回のモンスター討伐任務について説明を始める」

「「はい」」


 早速、今回の任務についての説明を始めようとするライト。対するホークとナオは手短に返事をした後、全ての意識を上官の方へと向けている。


 ライトの話によれば、街外れの野原でモンスター達の姿が確認されたと言う。モンスターの種類はゴブリンである。


「恐らく、集団からはぐれたゴブリンだろう。これを俺達の手で叩く」


 最後に自分なりの見解を述べると、任務についての説明を締め括るライト。その後、任務についての質疑応答に移行する。


「僕達でゴブリンに太刀打ちできますか?相手が複数体いる場合は危険だと」

「問題ない。ゴブリンは集団から離れた場合、その戦闘力や知力を十分に発揮することはできない」


 自らが抱いた疑問や懸念を率直に伝えるホーク。対するライトは落ち着いた様子でそれらを解消する。

 確かにゴブリンは大勢でいる場合は厄介な存在となるが、集団から離れた場合はそれほど脅威ではない。だからこそ、経験が不足する兵士の鍛えるため、ホークとナオが招集されたのだ。


「いつ頃、出撃しますか?」

「明日の夜だ。ゴブリンは夜行性だからな」


 今度は出撃時間について質問してくるナオ。一方のライトは簡潔に答えつつ、時間帯の理由についても伝える。

 どこに潜んでいるかも判明していないゴブリン達。闇雲に捜すよりは出てきた時、一気に叩く方が効率的であると判断したためだ。


「では、明日の夕刻。この門前に集合だ。分かったな?」

「分かりました」

「はい」


 ライトからの念押しの言葉に対して、手短に返事をするホークとナオ。これで明日のゴブリン討伐任務についての説明が終了する。


 打ち合わせの終了後、すぐに会議室から出ていくナオ。ホークも部屋を出ると、退室の挨拶と共に扉を閉めようとする。


「失礼しまし……あいたっ!」


 次の瞬間、お辞儀をしようとしたホークであるが、誤って自分の頭を扉にぶつけてしまう。何ともドジな話である。


「お、おう……気をつけて帰れよ」

「は、はいっ!本当に申し訳ありませんでした!改めて失礼します!」


 次の瞬間、思わず苦笑いを浮かべているライト、慌てて謝罪と退室の挨拶を行うホーク。そして、改めて閉じられる部屋の扉。何とも締まらない退室である。


「ふうっ~!」


 退室後、その場で大きく息を吐き出しているホーク。端から見れば、茶番劇以外の何ものでもないのだが、当人は至って真面目に振る舞っているだけであった。


 生まれて初めてのモンスター討伐任務。ホークは胸が高鳴るのを感じつつ、明日への任務に備えるため、廊下を歩き始めるのであった。

皆さん、こんにちは。疾風のナイトです。「新入兵士が令嬢に一目惚れしたようです」を読んでいただき、誠にありがとうございました。

今回は戦闘に入る前の準備パートとさせていただきました。

次回で本格的な戦闘描写が描かれる予定です。

よろしければ、次の話もお付き合いいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは、続き読ませてもらいました。 二人の会話や行動から、世界観や設定が伝わってきていい文だと思います。 あと、お知らせしてくれてありがとうございます。 これからも応援してますね。
2022/03/07 20:54 退会済み
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